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コロナの影響による移転の話

新型コロナウイルスの影響が猛威を奮っている昨今ですが、私たちの運営するお店も大きな影響を受けています。
具体的なことろではこの一年半で2店舗の撤退がありました。

そしてずっと休業などで耐え忍んでいた中央区の店舗が入居するビル全体での撤退が決まりました。
(ビルは宿泊施設として弊社グループ企業がマスターリースし運営、サブリースを受けて弊社の飲食店を運営していた)

ここは私たちの会社のはじまりの場所。
このお店のオープンをきっかけに法人設立をしているため、私個人としても、初期から在籍している従業員としても、とても思い入れのある場所です。

中央区と言っても銀座ではありません。
八丁堀というレアな立地条件を持ち、そのなんとも言えない場所で尖りすぎたコンセプトを持つSOUND BARです。

約27坪の広さに対して大きくオーバースペックした音響機材、音楽を楽しむことに全ステータスを振り分けたかの様な音響空間、飲食店としてはあまり好まれないであろう青色LEDをふんだんに使用した照明。

音楽などに詳しい方が見ると「これビジネスでやってないよね?」と必ず言われます。

半分は当時の代表の趣味、東東京に音楽空間をつくることの価値、文化を継承し、広めて行くためのハブ。
そんな位置づけであり、利益が〜という話はあまり求められていなかったのかもしれません。

私はというと、立ち上げ当初は在籍していなかったため詳しい経緯はわかりませんが、とにかく全身全霊で尖った空間を持って営業を行っていました。

ただし、「代表の想い」というものを現場で働くスタッフたちが理解し共感し、共に目指していたか?と聞かれると、答えはNoでした。
少なくとも入社当時の私には「とてもチグハグなことをしている場所」というイメージが強かったです。

これだけの空間と設備を持ちながら、そのスピーカーやアンプで鳴らすべき音楽が奏でられていない。生音の演奏がされていない。wavではなく、mp3音源が鳴っている。
オブラードに包まず言えば、空間の良さを殺しつつ、半端に斜に構えたスタイルで営業されていたのです。

どちらかがいいもので、どちらかが悪いものという話ではありません。
PS5を使用しているのにソフトはPS1用、そんな感じでハードとソフトが一致していないのです。

これは根本を見つめ直して、向かうベクトルを合わせていかなければならない。即座にそう感じました。

数ヶ月後、週に一度だけインプロジャズを中心とした様々なアーティストが出演する生演奏ライブのイベントを行うことになりました。
即興音楽とは実に難解なもので、世界観に共鳴できないとただの雑音と化してしまう。
確かに箱のコンセプトを考えればまさに適役、これ以上ないくらいに空間を活かせるイベントではありました。
ですが「その世界に共感を得られる1%ほどの人たちにとっては」という但し書きがつきます。

また、週に一度はその様な営業をしていても他の日に何をしているかによって、その存在感と説得力は限りなく薄まっていきます。
コストをかけた企画を行っても、そっちに引っ張り切ることもできなければ、それによって一般集客を増やして行くこともできませんでした。

このままでは現場で働くスタッフがただただ疲弊し、明るい未来を描くこともできずに終焉を迎えてしまうかもしれない。そんな想いから大改革を行うことに決めたのです。

それまでは、月曜はバー、火曜日はインプロジャズのライブハウス、水曜はEDM、木曜はバー、金曜はテクノ。そして日によっては入場料がかかる。そのくらい足並みが揃っていなかったお店でしたが、平日のイベントや企画を全て辞めることにしたのです。

もちろん、イベント集客が一気になくなり、バーとしての自力のみに頼ることになるので、売上という目線においては凡そ40%ほど落ち込むことが予測できました。

元々赤字経営だった店舗でその決断はなかなかしがたいものですが、代表はその提案を「やってごらん。」と認めてくれたのです。

当時の私の中で決めたことは以下の3つです。

・いつでも安心して来店できるお店であること。
・音楽はスパイスであってメインにはしないこと。
・最高のスパイスを最高のシチュエーションで提供すること。

人によって好きな音楽と嫌いな音楽があると思いますが、音楽そのものが嫌い、という人はそういないはずです。
私は考える視点を「嫌われる音楽をかけない」ということではなく、「嫌われない音楽をかける」という方向にシフトしました。
嫌われない音楽が上質な音響で奏でられている、というシチュエーションを嫌がる人はいないと思ったし、その良さに気がついてくださる人も少なからずいると考えたからです。

そして商品力の底上げを行えば、今いるスタッフの人間性にお客様がついてくださると信じたのです。

予想通り、売上規模はこの施策前の70%へ落ちましたが、その分イベントや企画にかけるコストは削減できました。
そして徐々に一般のお客様が増え、場所を気に入ってくださり、コストを削減したまま施策前の売上規模の120%を平均で出せる様になり、黒字化を成し遂げたのです。

音楽に触れ、人と交流し、お酒を楽しむ場所を”ビジネスとして”提供する。

当初当たり前にイメージしたはずのお店を、オープンから約3年経って成し遂げることができました。


これが2019年の夏から冬にかけての時期。
そう、そんな矢先の新型コロナウイルスだったのです。


ビルの撤去が決まる前は、とにかく今は耐え、生き延びてもう一度あの空気感を作りたい。そんな気持ちでした。
それも叶わなくなった今、代表は私です。

閉店か、移転か。

その結論自体は考えるまもなく答えが出ていました。
元々このモデルをさらに昇華できるであろう場所に持っていって勝負してみたい。そんな思いもあり、渋谷区内で早速移転先を探し始めたのです。

ここ八丁堀での経験から音楽という要素がどれだけ不確定な存在で、また諸刃の剣か。ということは嫌と言うほど分かったつもりです。

今のスタイルをそのまま継承するのではなく、渋谷という街にフィットさせ、尚更いいものとして提供して行くために、「捨てるもの」「新たに持つもの」「成長させるもの」の3つの枠で考え続けています。

もちろん、趣味ではなくビジネスとして成功させます。
ここで得たノウハウとこだわり、再確認できた自分たちの強みがどれだけ通用するのか。

まだまだ社会情勢の落ち着かない中で、移転を急ぐことはリスクしかない。と言う言葉もいただきます。
期待と不安が入り混じる状態ですが、やると決めて今の最大限を狙っていく。

飲食業界の動きも2021年の夏頃から活発になりつつあります。

コロナが明け、助成金や補助金、協力金などが終わりを迎えた時が本当の勝負どころ。
その時に選ばれるお店を持っていられるかどうか、人生かけて勝負に望みます。

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