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一橋MBA戦略分析ケースブック 事業創造編 訪問介護事業

第4章は訪問介護事業における競争優位をテーマとしています。
この本では特定の企業の事業創造における成功要因を分析していますが、この章だけが訪問介護事業全体の分析になっています。
訪問介護事業において市場は成長しているものの、高収益や高いシェアを上げてる企業が存在しないということがその理由ではないかと思います。
そういう意味において、訪問介護事業はまだまだ市場シェアは分散しており優位性のあるビジネスモデルを築くことができれば、高収益、高シェアを上げる余地があると見ているのだと思います。

規制の強い産業においても、適切な組織能力を構築できれば持続的利益を獲得することができはずであるということです。

日本の介護市場が成長していることは想像に難くありません。
高齢者人口の増加および、核家族化の影響による独居高齢者の増加、また、医療技術の進歩によって寿命が延びる反面高い介護技術が必要とされ身内では手に負えない、といった状況もあると思います。
介護給付額をそのまま市場規模と見た場合、2017年には市場規模は8兆6000億円、CAGR(累積年平均成長率)4.5%となっています。

介護保険制度が創設後約20年を経過し定着するの中で、訪問介護事業所も増加しています。参入障壁が低く新規参入者も多い一方で、倒産件数も多いという実情もあります。
介護報酬というサービスに対する対価が一律に規制されており、簡単に利益を上げにくいというのがその理由のようです。
中小の事業者が多く存在するフラグメンテッド・インダストリーであるといのが業界の特徴となっています。
業界最大手のニチイ学館の介護事業における売上は1519億円(2019年3月通期)と全体の市場シェアとしては少ないです。また、2位以下は1000億円にも届かず9位以下になると100億円に届かないような規模となります。

介護サービスのおいて、サービスに対する対価は、介護者や家族から直接支払われるのは自己負担の一部のみです。価格設定も自由に行うことはできません。厚生労働省によって定められた介護報酬額によって公的保険によって支払われます。医師による医療行為や製薬企業の提供する処方箋医薬品と同じような体系となります。よって、事業者は値下げによる価格競争はできません。また、サービスの質を上げても単価を上げることもできません。介護報酬は時間単位で設定され、時間あたり単価は時間が長くなるほど安くなるように設定されています。つまり、一人当たりの介護の時間を短くして、多くの介護をこなせればそれだけ収益性があがるシステムになっています。
ホームヘルパーは、1件当たりの所用時間を短くして、訪問回数を増やすということで生産を上げることができます。一方で、訪問する家庭間の移動時間分だけロスを作ってしまいます。ホームヘルパーが一日に労働する時間内でサービスを提供する時間以外の移動時間やその他の報告書作成などの時間の割合は平均で約40%になると言われています。このサービス提供時間以外のタイムロスを抑制することが成功要因(KFS)となります。

要介護者は、支給限度額が介護度別に分類されています。軽い順番に要支援者1~2、要介護者1~5と分類されています。支給限度額は段階が上がるごとに支給額上がっていきますが、人数構成比と利用率の割合から換算すると要介護1~3までがもっとも市場規模が大きく、ホームヘルパーの訪問頻度も高くなります。よって、要介護1~3までの顧客をできるだけ多くもつことが、ホームヘルパーの効率性から言っても高くなります。

次に、サービスの質的な満足度については、ホームヘルパー個人の経験による熟練度の要素が非常に強いことも特徴となります。ホームヘルパーの効率性を保つためにも、顧客やその家族が不満を抱えて、ヘルパーの交代を要求するという状況は避けなくてはなりません。ただ、要介護者の評価の基準は千差万別であり標準化されたサービスを提供することが非常に困難です。また、サービスを受ける顧客や家族にとっても複数のヘルパーを比較検討したわけではなく評価の基準も一定ではありません。そのため、品質の違いを評価してもらうことも困難です。いかに高い水準のサービスを提供することできるホームヘルパーを育成し、その品質を顧客が高いと認識して理解してもらうことが必要になってきます。

以上が、本書においての訪問介護事業の競争優位となります。

では、どうすれば訪問介護事業における競争優位性を構築できるのか、門外漢でありますが、考察を加えてみたいと思います。

顧客との長期的関係の構築(CRM)
まずは、顧客を知ること。
顧客のニーズは千差万別であることは上でも述べました。要介護度だけでなく、年齢、性格、環境、さまざまな要因によってタイプ分かれてきます。タイプごとに分類するのは至難の業であると思います。
たとえば、要介護者ごとにカルテを作成する。日々の活動報告だけでなく、相手の性格や機嫌など、家族からの個別ヒアリングなども実施しつつ、データを蓄積する。
そうすれば、効率的なヘルパーの活動を支援するためにも、担当者が変更されてもデータを共有することでサービスレベルの低下を防ぐことができます。

カスタマージャーニーを理解する
カスタマージャーニーとは、顧客が製品・サービスを購入・使用に至る中でのいくつかのタッチポイント(買い手と売り手の接点)をビジュアル化し、その中で売り手が仕掛けることができる打ち手を講じるものです。最初に、顧客はどうやって介護事業者を選択しているのか?医療機関や支援センターからの紹介、役所等、知り合いの紹介(口コミ)、家族のネット等を活用した検索といったようなものがあるようです。
本文の考察にあるように要介護度1~3をターゲットする場合、それらの顧客はどこからやってくるのか?いきなり重病になって、中重度の介護度となるのか、もしくは段階的に介護レベルは上がっていくのか?
前者の場合、医療機関へのアプローチは有効かもしれません。医師や看護師との連絡報告のパイプがあるというのは非常に心強いと感じるでしょう。後者の場合、より長期的な関係構築という意味で介護度の比較的軽い段階から関係構築に努めるのが良いと思います。
たとえば、介護度が低い場合、支給限度額の30-40%程度にとどまっています。つまり、実際に利用できるサービスの幅や利用のしやすさが上がれば今よりも倍以上の利用が期待できます。多くのサービスを利用することで、ヘルパーとの信頼関係も築くことができます。また、顧客のデータも多く蓄積できるので、そのタイプにあった的確なホームヘルパーを充てることができます。

誰が意思決定者なのか?を明確にする。                   顧客である要介護者が意思決定において、重要な一因であることは否めません。さらに、家族の存在は重要です。家族が安心して任せられるヘルパーさんであること。離れて暮らす家族でも重要な意思決定者の一人です。
たとえば、上記での述べたカルテを家族に共有すること。成績書のような形で、現在の状況、気づいた点などを報告する形にしてあげれば、遠方で住む家族も安心して任せられると評価を高めると思います。

上でも述べたように門外漢ですので、実際の介護事業者の方が読まれたら「そんなこと言われんでもやっとるわ!」と言われるかもしれませんが、まだまだ競争優位を築く余地がある市場であるという前提でもって少し考察を加えさせていただきました。最後までお読みいただき有り難うございました。


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