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Battle Beast / Circus Of Doom(2022、フィンランド)

北欧パワーメタルおススメ度 ★★★★★

今やフィンランド国内ではナイトウィッシュに次ぐ地位まで上り詰めたフィンランド・メタルシーンの大物、バトルビースト(BB)待望の新譜。もともとメインソングライターであったアントンカバネン(Gt)は脱退しビーストインブラック(BIB)を結成しています。BBはメタリカ、BIBはメガデス、みたいな立ち位置かも。双方に影響を与え合いながら作品群をリリースている印象。だいぶ「歌」に比重が置かれた前作に比べると本作はバンドサウンドが強化されていてギターのエッジも立っている。パワーメタル色が強い作品に。BIBの2nd(名盤!)「From Hell With Love」に近づいたともいえるかもしれません。逆にBIBの新作「Dark Connection」はもっとディスコやポップに寄ってしまっていたので、BBはパワーメタル要素が強まり、BIBは弱まり、BB>BIBとパワーメタル要素が逆転する結果に。もともとパワーメタル的志向が強かったアントンカバネンが脱退したと思っていたんですが、時代の流れとともに逆転現象が起きています。

逆に言えば、BIBの「Dark Connection」に「悪くないけどもうちょっとパワーメタル感が欲しかったなぁ」という人には溜飲の下がる出来。北欧メタルの姉御、ノーラ・ロウヒモのワイルドかつオペラティックなハイトーンが炸裂し、全体として優雅なメロディ、サーカスの雰囲気を持ちつつパワーメタル色が強まっています。ものすごく目新しいスタイルを発明しているわけではないですが、このバンドならではの個性が確立された名盤と言える出来栄え。突出した1曲はありませんがキラーチューンと呼べる曲が複数曲入っている、全体的にクオリティが高いアルバム。1月から年間ベスト盤候補。


1.Circus of Doom 04:57 ★★★★☆

サーカス、の名の通り、どこかファンタジックでサーカスの始まりのような音。そこからヘヴィなリフが入ってくる。ミドルテンポで勇壮。ただ、音はクリアで聞きやすい。スウェーデンのSabatonにも通じるギターのエッジと耳障りの良さを両立させた良好なプロダクション。途中で「Ashes To Ashes、Dust To Dust」というフレーズ(聖書の一節)が出てくる。パワーメタラーにとってはブラインドガーディアンのサムホェアトビヨンドの印象が強いか。パワーメタル然としたフレーズ。アントンカバネンの持ち味のような「転調感を持ってメロディを展開していく」感じはないが、ヴァース、ブリッジ、コーラスの歌メロの魅力、ボーカルの歌唱力(というか声の迫力)、ギターサウンド、ビートの強靭さなど総合的に素晴らしいパワーメタル。クラシカルなフレーズが飛び回る。いいオープニング。

2.Wings of Light 04:07 ★★★★☆

勢いのあるリフ。これはビーストインブラック(BIB)のセカンドに近いな。3rd(ダークコネクション)がちょっとディスコとかポップな歌メロによりすぎてしまったBIBに比べてバトルビースト(BB)の新譜の方がむしろパワーメタル色が強まってきた。これはうれしい誤算。この曲はコーラスで転調感があり、ボーカルのギアが一段上がる、というアントンカバネン節を取り入れていてBIBを意識した感が強い。ただ、歌メロのギアの上がり方が1段階なんだよなぁ。BIBの2ndは2段、3段と上がる感覚があった。コーラスの後に大サビが来る、というか。でもこの曲も十分かっこいい。

3.Master of Illusion 04:08 ★★★★★

80年代ハードロック調のアニメソングのようなイントロ、そこからメタリックな重みをもったドラムが入ってくる。歌いだしが「Mirror Mirror」だったな、意図的にブラインドガーディアンをオマージュしているのか。確かにボーカルラインとかは意識しているのかもな。ビートは結構違うけれど。ブラガはかなり手数が多いけれどBBはディスコ的というか四つ打ち、ミドル店舗でじっくり来るアクセプト的なジャーマンメタルのビート。しかしボーカルの熱量が凄いな。ボーカルとギターソロがせめぎあう、メタル様式美。1,2,3は曲のクオリティとしてはそれほど変わらないがだんだんボーカルのテンションに心が動いてきた。ずっと火で熱されるとだんだん沸騰してくるのと同じ。「アルバム」という単位、一定の長さで同じバンドの曲を聴くというのはそういう効果がある。特に高揚感を生む音楽(メタルやロック)の場合は熱量が蓄積する。

4.Where Angels Fear to Fly 03:56 ★★★★☆

これはまたメロディアスな曲、ドラムが歌のドラマに合わせてパターンを変える。ただ、基本的にはどっしりした手数少なめのビートを奏でている。この「ビートがどっしりした感じ」は何かに近いな。。。ああ、初期DIOもこんな感じかも。考えてみるとこの曲はDIOにも通じるものがあるな。すごいなこのボーカル。ティム”リッパー”オーウェンスのハイトーン部分、ヘッドボイスだけを抜き出したような。女性ボーカルなのだけれど声質そのものにはあまり性差は感じない。単に「スーパーハイトーンボーカル」と感じる。

5.Eye of the Storm 04:26 ★★★★☆

こちらはまた少しアップテンポに変わる。ドラムのビートは基本的にダンサブルというか四つ打ちに近い、安定したビート。ABBA的でもある。ハイトーンボーカルが安定しているなぁ。そもそもの声域が高いのだろう。これは天賦の才能だなぁ。ギター、キーボードもメロディアスで印象的なフレーズを残している。

6.Russian Roulette 04:16 ★★★★★

さらにテンションが上がった。おや、ロシアンルーレットとあるがAcceptのオマージュか。ジャーマンパワーメタルを連想させるものが多いな。いかにも北欧メタルな、キーボードが入った曲。ただ、ギターサウンドはソリッドで重め。この曲はちょっとロックンロールテイストもあるな。BIBとディスコビートなのは通底しているけれどギターのエッジとボーカルの熱量が高い。途中、コミカルなダンスパートへ。そこからまたメロディアスなコーラスへ。

7.Freedom 03:44 ★★★★☆

ディスコビートからはみ出てよりパワーメタル的なビートに変化。ややメイデン的でもある性急なビート。そこにディスコ的なキーボード音が入ってきてこのバンド”らしさ”を主張する。白熱するギターソロ。ツーバスが連打される。

8.The Road to Avalon 04:30 ★★★★

しかしどの曲もクオリティが高いな。どれがシングルカットされていてもおかしくない。この曲はボーカルラインがメロディアス、ディスコ的なメロディ。同じコーラスを反復する比較的シンプルな構成の曲。歌メロが引っ張っていく。

9.Armageddon 03:43 ★★★★☆

8曲目に近い、反復するメロディ。よりシンガロングというか、ライブだと盛り上がりやすいかも。その分、「凝って練られた曲」とうよりは作曲センスから自然に出てきた曲、アイデアをベースにそのまま出した曲なんだろうなぁ、という印象も。北欧らしいメロディはあるし歌メロそのものはしっかりしているけれど、ちょっとひねりは少な目。

10.Place That We Call Home 03:47 ★★★★★

これはジャーマンパワーメタル。ディスコビートではなくツーバス連打で進んでいく。ハロウィンというよりブラガだな確かに。この曲はボーカルの気合がさらに入っている。切り裂くようなエネルギーを放射している。歌メロはオーソドックスというかそれほど転調感もないし、いかにもパワーメタルなのだけれど、むしろ開きなった凄味みたいなものを感じる。王道ど真ん中を駆け抜けていく爽快さ。

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