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AySay / Su Akar(2021、デンマーク/トルコ)

新世代ワールドミュージック感 ★★★★☆

始めにe-Latinaの紹介文を引用しておく。

 デンマーク出身、若手トリオのデビューアルバム。MVを観ると、ヴォーカルはトルコの民族楽器であるサズを演奏し美しい声で歌っており、中東系の雰囲気を醸し出している。彼女の母親はデンマーク人、父親がトルコのクルド人だそう。アルバムタイトル「Su Akar」は、トルコ語で「水が流れる」という意味で、トルコのことわざ「Su akar, yolunu bulur(流れている水は必ず道を見つける)」を引用している。
 歌詞はデンマーク語、トルコ語、クルド語で書かれており、中東の民族楽器も使用している。トルコの民族音楽と北欧のモダンなエレクトロニック・サウンドがうまくミックスされた魅力的な音楽となっている。
 自身のルーツも探りつつ、国籍やアイデンティティに固執しがちな世界に共有できるものを見つけようとしている。本作には彼らのポジティブで希望に満ちたアプローチが集約されていると言えよう。今後の活動にも注目したい若手グループ。

https://e-magazine.latina.co.jp/n/n540b96c6fd44

トルコ音楽好きなら楽しめるだろう。かなりトルコ色が強く感じるがそれは異質感からで、本国のトルコ音楽に比べるとやはり洗練というか、欧州、北欧(デンマーク)らしさがあり、クールな感覚がある。トルコ色を強く持ちながらオランダを起点に活動するAltın Günにも近い感覚があるが、こちらの方がエレクトロニカとか北欧ジャズの色が強く、よりクールな感じがする。

アナドルロックというトルコのサイケデリックロックの流れが合って、その流れを汲んだ音像。欧州基盤のバンドらしく、今の欧州らしさ、北欧らしさとミックスされているのが面白い。アルバム構成も前半はチル/アンビエント寄りというか、リラックスできるゆったりとしたリズムやメロディの曲が多いが、5曲目の短いインタールードを経て6~11曲目まではバラエティ豊かになる。ポップ/ロック色が強まるというか、曲の輪郭がくっきりしてくる感じ。アルバムジャケットの印象や前半の印象から最後までこのアンビエントなサイケ路線で行くのかと思ったらこれは嬉しい誤算。アルバムを聴いているとだんだんテンションが上がっていく、盛り上がっていく感覚が用意されていてライブを体験しているようだ。11曲目がクライマックス的に盛り上がり、12曲目はクールダウンするような落ちついた曲で終曲。アルバム全体としての流れも考えられていて面白い。新世代の息吹を感じるいいアルバム。惜しむらくは最高到達点(テンションにせよ感動にせよ)がやや控えめ。クールな質感を保っているからだろうけれど、10,11あたりのクライマックスでもうちょっと熱狂感があると個人的嗜好からすると望ましかった。下にリンクを貼ったがライブ映像はもっと盛り上がる感覚があるのでそれがまだ録音には捕まえきれていない感じ。けれど、十分おススメな出来。

1.Sular - Intro 01:22 ★★★☆

幽玄なイントロ。トルコのMercan Dedeのような、スーフィ音楽の影響を感じさせる。ややエレクトロニカ、ポストロックの影響も。

2.Su Akar 03:44 ★★★★☆

引き続いて幽玄な響き、水の音なども入っていてアンビエント的な音響空間。揺蕩う感覚がある。女性ボーカルの節回しは完全にターキッシュ。トルコ的な色合いが強い。途中、ボーカルが力強く歌い上げるサビに。スクリームまではいかないが静ー動ー静のダイナミズムがある。アンビエント空間の中にだんだんとフレーズやリズムが立ち昇ってくる、輪郭がはっきりしてくる曲。かなりゆったりとした曲ながら緊張感がある。

3.Kader Olsun 03:47 ★★★★☆

こちらもアンビエントなスタート、無調というか波のような、逆に言うと曲としての輪郭はつかみづらい、一定のリズムとドローン音が続くような中からリフ、トルコ古典的なリフ(伝統楽器であるサズ/バーラマとギターのユニゾン)が入り、ボーカルが力強くなっていく。デンマークのバンドらしいがオランダのアルタンギュンにも近いな。欧州で活動するバンドに一定のトルコ色があるバンドがいるようだ。ボーカルの女性はデンマークとトルコのハーフらしい。トルコ的なルーツの強調か。

4.Guld og Grønne Skove 03:59 ★★★★

こちらも幽玄な電子音、すこしパルスのような音が入る。エレクトロニカの手法、音響。このあたりの透明感とかクリアな音像は欧州テクノシーンの影響か、いや、デンマークなので北欧的、北欧ジャズ的というべきか。ジャズもエレクトロニカとの融合が進んでいる。

5.Sipsi Interlude 00:43 ★★★

場面展開のインタールード、水の流れのような、何かが立ち昇ってくるような雰囲気がある演奏だが突然ブツッと途切れるように終わる。

6.Yoldaş/Ven 05:21 ★★★★☆

今度はアコースティックな雰囲気に、少し親密な空気感になる。これはアコギだろうか、ウードとかかな。少し暖かい響きの弦楽器のアルペジオとボーカル。弾き語りフォーマットに弦楽器の響きが入ってくる。トルコっぽさはあるけれどデンマークらしさもあるな。トルコ要素が耳につくが、トルコ本国に比べると節回しが控えめというか、コード展開などに欧州音楽、デンマーク音楽感もありハイブリッド的。アナドルロック(トルコのサイケデリックロック)の欧州による洗練/アップデートと感じる。最後にエレクトリックな水音。こういう音が入ってくるのは面白い。

7.Sanma Ki 03:10 ★★★★☆

探るような、くねくねとした音像。曲としての輪郭が最初からしっかり出来上がっている。エキゾチックな音階移動だがコード進行がはっきりしていてメロディアスなのは北欧的。途中から読経というか詠唱のようなボーカルが入る。不思議な空気感のある曲。神秘主義を感じさせる。

8.Aşîtî 02:32 ★★★★☆

ややポップな、歌モノ感のある曲。エレクトロニカに歯切れのよいボーカルが入る、90年代Bjorkのような音像なのだが、メロディセンスはトルコ、中近東のエキゾチック方面へ。ただ、欧州ポップスのコード感もあり、トルコ的なコード進行ではない。欧州的なコード進行の上でトルコ的なボーカルラインが踊る印象。

9.Ben Beklemem 03:17 ★★★★☆

後半になって音像が軽快になってきた。前半はかなりアンビエント/チル度が高かったけれど、後半はターキッシュポップを取り入れた北欧ジャズ/ポップス感が出てきた。5曲目のインタールードを境に6曲目から雰囲気が変わった。後半の方がくっきりした曲が多い。前半のままで最後まで行くかと思ったら裏切ってくるのは良いアルバムの作り。だんだん盛り上がってくる構成になっている。この曲はAltın Gün感が強いな。

10.Xong/Bre 02:43 ★★★★☆

今度はアカペラでスタートし打楽器が入ってくるがコードはなし。砂漠的な響きを感じる。ベリーダンスなどの雰囲気もあるが、トルコの伝統的ベリーダンスまでの濃厚な妖しさはない。欧州化されたベリーダンス。お、テンポアップした。肉体性、舞踏性を感じさせる。

11.Haydi Oynayalim 04:00 ★★★★☆

かなりターキッシュの色が強いリフ、楽器隊の絡み合いからスタート。トルコジャズ的なスタート。そこにボーカルが入ってくる。これは面白い曲だな。ところどころ変拍子も入っていてターキッシュ・プログレッシブ・ジャズ・ロックといった趣。アルバムのクライマックスとして設計されたのだろうけれど白熱度、盛り上がりの熱量の到達点はやや控えめ。クールな感覚。

12.Dug For Solen 04:02 ★★★★

スロウで包み込むような音像、少し妖しげでもあるがそこまで濃密ではない。全体としてクールさが通底している。前半のチル/アンビエント路線に戻った感じか。ボーカルメロディはしっかりしていてつかみどころのない感じはない。ただ、バックの音像は揺蕩う、揺れるアンビエントジャズ、エレクトロニカ的な響きの中にフレーズが浮き上がってくる感じ。クールダウン。

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