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RAGE / Resurrection Day

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1984年から活動するジャーマン・メタルの重鎮、レイジ。一般的に一定年齢以上のメタラーに”レイジ”というと「アメリカの? ドイツの?」と迷いますがドイツのRageですね(アメリカのRageはRage Against The Machineを指す)。Helloween、Grave Digger、Running Wildと並んでドイツのパワーメタルの「ビッグ4」として数えられます(英語版Wikiより)。

もともとトリオ編成のパワー/スラッシュメタルバンドでしたが特異なメロディセンスを持ち、一聴して耳に残るフックとスピード感あるソリッドな曲で頭角を現したバンド。リーダーでありベースボーカルのピーヴィー・ワグナーが中心人物で、ほかのメンバーは流動的。昔はすらっとした若者でしたがいつからか巨大化をはじめ、今では重量級の巨漢になっています。

基本的にトリオ編成ですが長いキャリアの中では4人編成(ダブルギター)時代があり、前回は1994年から1999年がツインギター時代。2020年にギタリスト交代し、現在も4人編成です。本作は4人編成となって初のアルバム。本作は26作目のアルバムで、4人編成のアルバムとしては10 Years in Rage (1994)、Black in Mind (1995)、Lingua Mortis (1996)、End of All Days (1996)、XIII (1998)、Ghosts (1999)以来7枚目、企画盤である2枚(再録ベストとオーケストラ共演)を除くと5枚目ですね。

とにかく多作で、コンスタントに良作をリリースしてきたレイジ。好不調の波はあるものの2010年代後半からまた復調気味、前作もパワーメタルの良盤でした。もはや信頼のブランド。それでは聞いていきましょう。

活動国:ドイツ
ジャンル: Heavy metal, speed metal, power metal, progressive metal, symphonic metal
活動年:1984-現在
リリース:2021年9月17日
メンバー:
 Peter "Peavy" Wagner – lead vocals, bass (1984–present)
 Vassilios "Lucky" Maniatopoulos – drums, backing vocals (2015–present)
 Jean Bormann – guitars (2020–present)
 Stefan Weber – guitars (2020–present)

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総合評価 ★★★★★

驚いた。クオリティが高くて。

僕の中のレイジのイメージは、S級になりきれないA級ジャーマンメタルバンド、という印象で、昔から知っているし好きな曲もあるけれどそれほど思い入れがあるバンドではなかった。そうだなぁ、ジャーマンメタルのS級がHelloween、Accept、Blind Guardian(最近はKreatorもS級の貫禄あり)あたりだとしたら、それより1段下の印象だったのだけれど(それはプロダクションの影響もある)このアルバムは完全に一皮むけている。

なんというか、「アルバムの中で何曲かいい曲があるバンド」のイメージで、本作も聞き始め、冒頭はカッコいい曲が予想通り来たのだけれど「途中で中だるみしないかな」と思って聞いていた。どこかで失速するんじゃないか、と。ところがカッコいい曲が続き、しかも終盤にはさらにテンションが上がっていく。これは今までのレイジには感じたことがない感覚だった。ようやく僕の感性がピーヴィーを理解できるように成長したのかもしれないけれど。クレジットを見ると、新加入のギタリストJean Bormannとほぼ共作している。彼が持ち込んだものが大きいのだろう。歌メロはいつものピーヴィー節とでも呼べるものなのだが、ギターフレーズやアレンジに新しいセンス、北欧メロデスだとかPowerwolfとかの(レイジに比べれば)新世代でモダンなメタルのエッセンスが取り入れられている。これは凄い。

現時点の私的なジャーマンメタルランキング。

★★★★★(S級) Helloween、Scorpions(殿堂入り)
★★★★☆(A+級) Rage(本作で☆アップ)、Accept(新作で☆ダウン)、Blind Guardian(最近微妙)、Kreator、Powerwolf
★★★★(A級) U.D.O(新譜がどうだろう)、Sodom、MSG、Gamma Ray、Primal Fear
★★★☆(B+級) Runnin Wild、Grave Digger、Destruction、Tankard、Axel Rudi Pell

1.Memento Vitae (Overture) ★★★

Overtureの名の通り、クラシカルな序曲。ファンタジー映画のオープニングのようなイメージ。やや音は薄目だが、生音なのかな。オーケストラと共演もしてしまっているぐらいだし、生音かも。欧州メタルバンドはある程度のキャリアを積むとオーケストラと共演することが多い。USでもメタリカは共演したけれど、USでは珍しい。メタリカは基本的に欧州とUSの中間みたいなところがあるから。

2.Resurrection Day ★★★★☆

短い序曲からなだれ込むようにアルバムのタイトルトラックへ。安定感のあるどっしりとしたビート。いかにもジャーマンメタル。変わらぬピーヴィー節。耳に残るフックがある。他のメンバーは新メンバーだがドラマーはもう4作目なのでだいぶこなれてきた。やはりリズム隊がかっちりしているとアンサンブルは安定する。本作は出だしはOK、劇的なオープニング。適度にオーケストレーションも入り、アップテンポで、シンガロングでメロディアスなコーラス、レイジに求められるものがつまった佳曲。

3.Virginity ★★★★☆

ややヘヴィなリフながらアップテンポ。これでスロウだとグランジ的だがスピーディだと歯切れが良い。モダンでメロディアスなメタル。この曲はツインギターだがシングルギターのような軽やかさがある。かなりミックスはボーカルが大きめ。歌うまくなったよなぁ。歌モノとしてのミックスをしっかりできるようになっている。基本的に80年代のジャーマンパワーメタルはあまり歌がうまくなかったからね。マイケルキスクが突然変異だっただけで。

4.A New Land ★★★★☆

メロディアスなツインリードから。Arch Enemy的カッコよさのあるリフ。そこからメロディアスなボーカル。パワーメタルの王道。Gamma Rayみたいにプリーストオマージュもなく、王道だけれどレイジっぽいんだよなぁ。ジャーマンパワーメタル以外の何物でもない。ちょっとアンディデリス以降のHelloweenっぽさもある歌メロだが、まぁそれはルーツもキャリアも似たようなものだからな。今作は凄いな、(イントロを除いて)冒頭3曲、どの曲も出来がいい。アップテンポでメロディアス。

5.Arrogance And Ignorance ★★★★☆

続いてアップテンポでパワーコードのリフ。ちょっとAcceptっぽい。Scorpionsもそうだが、このリズム、横揺れのリフのリズムはジャーマンメタルだよなぁ。ボーカルが入るとかなりメロディアスに。メタルはブルースとたもとを分かち、サウンドスタイルとなって各地の伝統音楽、地場の流行音楽と結びついて多様性を得た。基本的に欧州ポップス、クラシック(ドイツは19世紀クラシックの中心地)、ドイツポップス、ジャーマンテクノ(リズムをかっちりと全拍子埋める)の影響を受けて成立したのがジャーマンメタルなんじゃないかと思っているのだけれど、欧州ポップスのメロディ。基本的にブルースとかロックのメロディじゃないよね。ポップ。きちんとヴァース~ブリッジ~コーラスと展開するし、J-POPにも近い。ここまでボーカルがメロディアスなものって案外USのロックにはない。80年代メタルは欧州音楽の影響が強かったのだろう(ボンジョビとか)。この曲もしっかりフックが合ってメロディアスだなぁ。すごい。ピーヴィーの気合が入っているし、今は作曲能力が絶好調なのだろう。

6.Man In Chains ★★★★☆

やや不穏なアルペジオからスタート。その上にギターソロが乗る。ややエスニックな音階を使ったリフに展開してテンポアップ。シュレッドする、切り刻むリフ。おお、この曲もしっかりフックがあるサビがある。昔のレイジ(に限らずだいたい80年代、90年代のアルバム)はフックがあるキラーチューンは2~3曲で、ほかは実験的だったりアイデア一発みたいな曲が多かったのだけれどこのアルバムは今までの5曲、どれもやる気に満ちていてしっかり歌メロにフックがある。時々大ヒットを飛ばすソングライター(だけれど打率はそこそこ)というのがピーヴィーの印象だったのだけれど、アベレージが高い。洗練されている。レイジは全作熱心に聞いてきたわけではなく、ところどころ穴があるのだけれど、前作Wings Of Rageも平均して楽曲レベルが高かった印象がある。本作はさらに気合が入っている。

7.The Age Of Reason ★★★★☆

オーケストラの短いイントロから疾走するリフへ。おおー、ここまでほぼ疾走曲。すごい気合だな。ボーカルに絡み合う勇壮なツインリード。メロデス的なかっこよさ、チルボドとかアーチエネミーとかのバッキングにボーカルまでメロディアス(だけれどハイトーンではなく中音域、ダミ声系)が絡むという、パワーメタラー垂涎の一品。かっこいいな! 特にヴァースのリフがカッコいい。コーラスは予定調和的といえばそうだが、レイジらしい、やはりこういう音楽ジャンルのオリジネイターの一角であるから説得力がある。いかにもなジャーマンメタルだが、そもそもこういうスタイルを作り上げてきた一員なのだ。ジャーマンメタルの影響を受け、発展した北欧メタルの影響をさらに取り入れなおしてモダンなジャーマンメタル、欧州メタルを築き上げている。

8.Monetary Gods ★★★★☆

地響きのようなリフ。そこから少し跳ねるようなリズムに。直球的なアップテンポではなくやや変化球。ちょうど雰囲気を変えるには良い頃合いなので緩急がうまい。とはいえメロディアスなギターリフが入り、途中からしっかり欧州メタルの王道に。変に色気を出したり実験的にならない。おお、シンガロングなコーラスがある。複雑化しすぎたブラガを、もっとシンプルにカッコよくしたような感じか。ミドルテンポで進むがメロディは魅力的。ちょっと声が嗄れた感じ、ダミ声感がジャーマンメタル。いやー、しかしこれだけフックのある曲を連続して書けるとは。もともとソングライターとして能力が高い人なのはわかっていたが、これほど佳曲を量産できるとは恐れ入った。新ギターのJean Bormannとの共作がほとんどのようだが、彼がこのメロディアスなギターフレーズ、リフを持ち込んだのか。

9.Mind Control ★★★★★

メロディアスなリフが切り込んでくる。次々とめくるめくメタル絵巻。どの曲もカッコいいぞ。この曲もギターメロディが耳に残る。Jean Bormannはまだ若手(Rage加入前はそれほど名の知られたキャリアはない)のようだが彼の才能とピーヴィーの才能が化学反応したのだろうか。これはメロディアスなギターリフとボーカルが絡み合う、スリリングな名曲。そうか、ピーヴィーのメロディセンスは常に一定以上なんだ。それを活かす編曲が足りなかったのか。もちろん、本作は新しい才能に感化されていつもより気合が入っているのもあるだろうけれど。

10.Traveling Through Time ★★★★☆

ちょっとケルティックなメロディ。少し伝統的、最近のメイデンにも近いがメイデンに影響を受けたというよりは欧州伝統音楽を取り入れた、というところだろう。ケルティックではなくドイツ民謡か。おおー、アップテンポに。これはカッコいい。何より音に迫力がある。込められた気合を感じる。聴き始めは「アルバム前半に佳曲が詰まっていて、後半で息切れしそうだな」と思っていたが、後半でさらに盛り上げてくるとは。恐れ入った。

11.Black Room ★★★★☆

アコギとギターソロ、オーケストレーション。バラードかな。ボーカルも静かに入ってきた。いい声になったなぁ。良いメロディ。途中からバンドが入ってきてパワーバラードに。しっかり盛り上げる。こういうサービス精神、ベテランならではの「痒い所に手が届く」感じは流石。盛り上げ方を心得ている。お、バンドが入ってきたらちょっとパートが変わった、オペラティックというか、明るいコード進行に。きちんとクラシカルの作曲がされている。そりゃオーケストラと共演するぐらいのアーティストだからなぁ。音楽的知識も経験も豊富。

12.Extinction Overkill ★★★★★

勢いよくリフが飛び込んでくる。いきなり疾走にはいかず、リフが引っ張るがじりじりと飛び出すのを待っているかのようなリフ。しばらく引っ張ってから満を持して疾走を始める。けっこうレイジって曲がコンパクトというか、パンキッシュとも言えるシンプルさもウリのバンドだと思うのだが(曲展開は激しい曲もあるものの、全体としてはシンプルに疾走する印象があった)、この曲はかなり展開が凝っている。まぁ、長いキャリアの中でさまざまな方向性を持っているんだろうな。そういえば昔から長尺曲もあった。ミッシングリンクにも7分台の曲があったっけ。スラッシーに突進していく。ジャーマンスラッシュの名曲感、威風堂々たるベテランの風格を感じる。この曲は全員が作曲クレジットに載っている。アイデアを持ち寄って作ったのだろう。だから各楽器隊のパートもイキイキとしている。これぞ新生レイジ!と言える名曲だな。新たな代表曲になるだろう。

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