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Cradle of Filth / Existence Is Futile

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クレイドル・オブ・フィルスは、1991年にイギリスのサフォークで結成された英国のエクストリームメタルバンドです。デビュー当初はブラックメタルでしたが、ゴシックやシンフォニックな要素を取り入れて音楽性を拡張してきたバンド。英語版wikiだと「エクストリームメタル」とだけ表現されていますね。確かに、細かい区分よりそういった方が分かりやすいのかも。とはいえ、基本的にはダークでゴシック、中世的、黒魔術的なファンタジックな世界観を持っており、ある意味ロックの伝統というか、レッドツェッペリン、ディープパープル、ブラックサバスらが生み出した「黒魔術的なイメージを小道具として用いる」手法を受け継いでいます。彼ら自身がインタビューでたびたび言っていますが、北欧ブラックメタル(教会に放火したりしている)のように真剣な「反キリスト」とか、社会逸脱を目的としているわけではなく、あくまで日本で言えばお化け屋敷とか、見世物小屋のような「悪魔」のモチーフですね。そうしたコンセプトで世界観、アートワーク、ステージング、楽曲などが統一されています。兎角ドラマティックで極端な音像を生み出している印象があるバンド。90年代は日本でも話題になりましたが、今はどうなんでしょう。大物としての存在感はありますが、たとえば日本のビジュアル系とかにもある程度影響を与えているのでしょうか。

なお、2009年の時点でUSで80万枚、世界で400万枚のアルバムを売っており、そこそこの商業的成功も収めています。メタルハマー誌は「アイアンメイデン以来の成功を収めたメタルバンド」と称していましたが、、、。今はどうでしょうね。ブリングミーザホライゾンの方が成功している気もしますが、考えてみるとメイデン以降、UK発のメタルバンドってほとんどUSで成功していないかも。それ以前のベテラン(JPやOZZY)がまだ活躍していたりしますが、新世代のメタルバンドはほとんどUSには進出できていませんね。欧州メタルシーンもドイツ、北欧が中心になっているし、メタル界におけるUKの存在感はかなり薄れているのかも。Download Festival UKのラインナップを見ても、ハードコアとかパンク系が増えていますし。ポストパンクの復活が今年のUKで起きているので、そろそろUKでメタルのリバイバルも来るかもしれませんね。

さて、話を戻しましょう。本作は13作目のスタジオアルバム。13というのは悪魔の数字なので気合が入ったアルバムと期待できます。印象的なジャケットは11作目、12作目と3作続けての担当となるラトビアのアーティストArthur Berzinshによる作品。ヒエロニムス・ボスに影響された世界観だそうです。ボスは独特な地獄絵図を描いた画家で彼の世界観はドゥームメタルなどに多大な影響を与えている気がしますが、日本だとベルセルクはボスの世界観に近い漫画でした。

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ボスの絵の例

こういう世界観のあるジャケットはいいですね。本作はジャケットからも気合が伝わってきますが、中身もかなりの力作のようでメディア評価も高くMetacriticでは83点。14曲入りですが、12曲目までが本編で13、14はボーナストラックという位置づけのようです。それでは聞いてみましょう。

活動国:UK
ジャンル:エクストリームメタル
活動年:1991-
リリース:2021年10月22日
メンバー:
 Dani Filth – lead vocals (1991–present)
 Martin 'Marthus' Škaroupka – drums, keyboards (2006–present)
 Daniel Firth – bass (2012–present)
 Richard Shaw – guitars (2014–present)
 Marek 'Ashok' Šmerda – guitars (2014–present)
 Anabelle Iratni – keyboards, female vocals, lyre (2021–present)

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総合評価 ★★★★★

強く「UKメタル」を感じた。UKメタルはメイデン以降、つまりNWOBHM以降だが、90年代初頭にCradle Of Filthが出てきた。同時期にはパラダイスロスト、マイダイングブライド、アナセマなどのゴシックメタルが出てくる。クレイドルオブフィルスは北欧ブラックメタルとUKゴシックメタルをつなぐような存在だったのかもしれないし、今作を聴いて思ったのは(特に10,11,12あたり)90年代メイデン、「No Prayer For The Dying」と「Fear Of The Dark」を発展させたようなサウンドなんだなぁ、ということ。UKメタルの王道を拡張したバンドなのだろう。90年代中盤から北欧メロデスに行き、UKはワイルドハーツやオールマイティを聴いていたのであまりこのバンドやゴシックを聞いていなかったのだけれど、改めて聴くとピースが埋まった気がする。最近、いわゆるメタルコア、ニューコアがUKで隆盛で、アーキテクツ、ブリングミーザホライズン、ブレットフォーマイヴァレンタインあたりが人気なのだけれど、聞いても今一つ飛んでいたというかUKの流れが断絶していたように思ったのだが、それはこのバンドも含めた90年代組、ゴシックメタルを抜かしていたからかもなぁ。そうしたミッシングリンクを埋めるバンドであり音像。かつ、だいぶベテランながらいまだにバリバリ現役感のある音で、「UKメタル」ど真ん中の音を奏でている。

アイアンメイデンは、ある時期から「メタルの王道」ではない。少なくとも今のメタルの音像とは違う道を歩いていて、彼らは彼らであり、独自性があるが、敢えて言えばハードロックとか、新作ではストーナー的な要素、ある意味リバイバルというか、80年代の黄金期を経て、00年代以降は00年代、10年代、20年代のメタルサウンドに変わったというよりよりレイドバックした、もっとルーツロックに近づいている気がする。クレイドルオブフィルスの本作は現代を生きるメタルバンドの音であり、正統派メタルの音。このアルバムはUKメタルの王道がしっかり続いていることを高らかに鳴らす良盤。

1. "The Fate of the World on Our Shoulders" 1:37 ★★★☆

荘厳な雰囲気のオーケストレーション曲、イントロ。さすが雰囲気のつくり方が深淵であり、女性ボーカルが立ち上がってくる。

2. "Existential Terror" 6:17 ★★★★

イントロを経て実質的な序曲。ツーバスのビートが入ってきて、メロディアスなギターと共にクワイアコーラス。シンフォニックメタルなオープニング。ツーバスだがいわゆるブラックメタル的なブラストまではいかない。飛び跳ねるボーカルが入る。シャウトとスクリーム、グロウルというよりはマーシフルフェイト的な、声色がどんどん変わるボーカル、言葉は聞こえる。ギターリフとボーカルが絡み合い、メロディ感があるというヘヴィメタルの王道パターンからは逸脱していない。クワイアコーラスが鳴り響くが、ゴシックやダークさだけでなくアグレッションや適度なスピード感もある。ただ、アグレッションはそこそこ控えめ。ギターも音の塊、アトモスフェリックなブラックメタルのアンビエント感よりはザクザク感がある。しかし、UKがメタルの中心地でなくなったというのは知ってはいたが、改めて「メイデンの次はクレイドルオブフィルス(で、その次はおそらくブリングミーザホライゾン)」と考えると、メタルシーンにおけるUKの存在感の消え方が凄いな。ロック史とは違う、UK、US、オーストラリアだけでない、非英語を母語とする国々の存在感が強い。一つは、ある時点からメタルにとってボーカルが中心でなくなったことも一因としてあるのかもしれないな。英語の響きが重要ではなくなっていった。だから英語を母語とする国々の優位性が薄れた(世界的に活躍するバンドのほとんどは英語で歌っているが、正直、言葉やボーカルがくっきり聞こえないバンドも多い、少なくともほかのジャンルに比べると重要度が相対的に低いことも一因では)。

3. "Necromantic Fantasies" 5:40 ★★★★☆

壮大なイントロからメロディアスなギターフレーズへ、そして女声コーラスによる宙を舞うようなメロディ。テンションがあがるイントロ。そこからミドルテンポでザクザクしたギターとシアトリカルで物語るようなボーカルが乗る。メロディが魅力的な曲。テンポはミドルテンポだが展開が速いのでスリリングで性急な感じがある。こうして聴くと「メタル」というイメージを体現したような音像ではあるなぁ。で、これが「メイデンの次」と言われると納得感はある。やはりコンセプトを提示する重要な役割はUKメタル界は担っているんだな。USのバンドには「売れる理由」は分かることはあっても、コンセプトを提示していないバンドも多い。いわゆるニューメタルとは全く違うな。

4. "Crawling King Chaos" 5:27 ★★★★☆

疾走、ヒステリックに駆け出す。この破天荒さが残っているのは素晴らしい。そうだよなぁ、こんなバンドだった印象がある。そういえばCradle Of Filthをきちんと聴くのはいつ以来だろう。90年代以来かもしれない。Amorphisとか北欧メロデスを聞き出して、よりクサい方に行ってあまり聞かなくなり、そのまましばらくメタルからも離れていたからな。改めて聴くと好きな要素が詰まっているバンドではある。プログレ的だし。むしろその間に(スロベニアの)Devil Dollとか、(イタリアの)Death SSとか、マニアックな方には言っていたけれど。おお、この曲は激烈性も高いな。カッコいい。3,4はリードトラックとしてMVも作られているようだが、どちらも甲乙つけがたい魅力がある。3の方がメロディは魅力的だが、4の方が勢いがある。激走しながらドラマティックに盛り上がり終曲。

5. "Here Comes a Candle... (Infernal Lullaby)" 1:28 ★★★☆

ピアノの響き、インタールード。

6. "Black Smoke Curling from the Lips of War" 5:21 ★★★★☆

これまた性急なブラストビート、とメロディアスなリフ。そしてスクリームからスタート。テンションがさらに上がってきた。クラシックのような荘厳さとオペラのような大仰さ、同時にホラーなコミカルさ、ギミックバンドの滑稽さが加わり、そこにメタル的アグレッションが絡まって全体として嵐のようなサウンドになっている。少しコミカルさというか「突き抜けた面白さ」があるのがこのバンドの特徴であり、商業的成功を収めた要因なのだろう。エンタメ性、と言い換えてもいい。ノルウェジアンブラックの暗黒さとは違う、たとえばAt The Gatesの新作とかもものすごくシリアスだったし、Enslavedとかもファンタジックだけどもっと重々しい。それに比べるともっと派手でパーティー的というか、「悪魔」と言っても聖飢魔Ⅱみたいな、どこかキャラクター性がある、といえばいいだろうか。UKだとオジーもそうだよね。もちろん本当に突拍子もないキャラクターではあるのだけれど、どこか「キャラクターである」というか。

7. "Discourse Between a Man and His Soul" 5:30 ★★★★

ミドルテンポ、いや、スローテンポでじっくりとダークファンタジーな世界観を描いていく音像。ツインリードが入る。ツインリードはメイデン的だな。だけれど、別にメイデンオマージュというより、たぶんUK的なメロディなんだろうな。こういうのが。このバンドなりのバラード曲。後半の演説的なボーカルメロディといい、実にUK的だなぁと感じる曲。

8. "The Dying of the Embers" 6:08 ★★★★☆

女声のナレーションからスタート。荘厳な音像がナレーションに導かれて入ってくる。変拍子が多くプログレ的な曲。キーボードフレーズもプログレ感がある。ややミドルテンポでドラマティックに展開していき、ブラストビートと3拍子(ワルツ)が入り混じる。ギターオーケストレーション的な優美なギターフレーズとブラストビート。途中からのギターソロ、ギターメロディがカッコいい。確かに、メイデンの音楽性を発展させた、「正統派メタル」の枠を広げたといえるかもしれない。正統派というとちょっと違うな、「UKメタルの王道」というべきか。あるいは、Fear Of The Darkの後、進化の可能性、とも。

9. "Ashen Mortality" 1:50 ★★★

インタールード、場面転換。

10. "How Many Tears to Nurture a Rose?" 4:34 ★★★★★

急に雰囲気が変わる、ギターポップというかシューゲイズ的でもある、ギターサウンドが波を巻くような。お、今度はHelloweenのような刻みながらメロディアスなリフに変わった。その上にサーカスの口上的、道化師的なボーカルが乗る。そしてメイデン的なトロット、馬駆けのリズム(Run To The Hillsのリズム)。おー、UKメタルだなぁ。歌メロも絶妙にメロディアス。途中からメイデン感が強いツインリード。最後、金切り声シャウト。ノッてきた。

11. "Suffer Our Dominion" 6:22 ★★★★★

ミドルテンポで荘厳な音像、バンドサウンドの上に男性のナレーション、ファンタジックというよりややSF的な、モダンなナレーションが入る。ブラストビート、そして金切り声。やはりダニのこの声は癖になるな。しかし今の耳で聴くとだいぶ聞きやすい。グロウルとかいろいろ聞きなれたせいだろう。ドラマティックな展開の上にナレーションが戻ってくる。ギターフレーズの印象に残し方がうまいなぁ。おお、中間部から浮遊するようなツインリードのフレーズに。ミラシドを活用したメイデン的な曲。いつの間にかブラストビートになっている。

「アルバムを聴く」というのはライブにも近いのかもしれないな。良ければだんだん後半に向かって盛り上がっていく。これは後半に向けてしっかり(気分が)盛り上がっていく。いいアルバム。

12. "Us, Dark, Invincible" 6:26 ★★★★★

タイトルをコール、リフというかオーケストラとユニゾンしたフレーズがなだれ込んできて、そこからブラストビートの激走に。おお、そうか、これが本編最後だから、アンコールの最後、一番盛り上がる曲だな。本当にライブ的に作られている、明らかに後半になるにつれてボーカルのテンションも上がってきている。最初の方からテンションは高いが、後半になるともっとやりたい放題になってくる、といった方がいいかもしれない。ライブだと、1曲目からマックステンションではないからね、演る側も観る側も。前半はマックステンションだが最後少しテンポダウンし、静かに去っていく。

++

13. "Sisters of the Mist" 7:14 ★★★★☆

ここからはボーナストラック、という扱いらしい。少し音像も変わったかな。ドラムの連打からブラックメタル的な音の渦感があるギター。ただ、チャーチオルガンが鳴り響いている。少し前までのテンションと違い、もっとシングル的な、確かに「アルバムの流れにハマらなかった」曲なのだろう。いい曲だが入れどころがない。というか。後、たぶん、最後のミキシングとかの詰めが少し(アルバム本編より)甘くなっている。ややエスニックなフレーズが入ったり、ギターとボーカルの絡み合いがあったりと単曲としてはそこそこ魅力的な曲。後半どんどん盛り上がり、1曲の中で起承転結している。

14. "Unleash the Hellion" 6:23 ★★★★

こちらはイントロから疾走する、13,14だけでミニライブ的な感じもあるな。あるいはアンコールとでも言うべきか。これはややアトモスフェリックブラック的な感じもある、疾走感と煌めく/吹きすさぶギターの音像の中でグロウルボイスが響く。ただ、そこは適度なザクザク感とギターメロディがあるのがこのバンドらしさか。アグレッション強めの曲。

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