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Taylor Swift / folklore

現代のトップスターの一人、テイラースウィフト。2020年に2枚リリースしたうちの1枚で、USインディーズロックに急接近した作品と言われています。USインディーロックバンド、The Nationalのアーロン・デスナーと組んだ作品。USインディーフォークを代表するBon Iver(ボン・イヴェール)も1曲参加。個人的にロック史を振り返っていて、その流れの中に位置づけられるのかなと思い改めてきちんと聴いてみました。

出身国:US
ジャンル:ポップ、カントリー・ポップ、コンテンポラリー・カントリー、ダンス・ポップ
活動年:2006-現在

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1.The 1 3:42 ★★★★

生々しいピアノ音、ギターの音が重なり、ヒップホップ的なリズム、ただあまり引っかかりは無く隙間があるリズム、どちらかと言えばゴスペルの手拍子のようなリズムか、打ち込みのリズム。音は明るくて軽やか、従来のテイラースウィフトらしい明るく照らすような音作り。後半になるにつれて弦楽器が立ち上ってくる。歌メロは練られているがやや地味な曲。これがアルバムのトーンを規定しているのだろう。

2.Cardigan 4:11 ★★★★

揺蕩うような、揺れるボーカル。節回しが脱力気味。ただ、テイラースウィフトの特長である折り目正しさはある。なんだろう、カレンカーペンターのような、またタイプが違うのだけれど、とにかくくっきりしていてポップというか、折り目正しい。それがあまりロックさを感じない原因でもあるのだけれど、それはこのアルバムでもやはり健在。あと、和音がキレイでほとんど不協和音感や歪み感がない。もうちょっとベースラインとかで遊びがあると面白いのだが。ただ綺麗な和音で耳障りが良い。後半のコーラスの繰り返しで内省的ながら跳ねるようなポップ感が高まっていく。柔らかく、優しく包み込むような音像。声にはやや翳りがある。

3.The Last Great American Dynasty 4:03 ★★★★

カントリー的なメロディだがリズムパターンはちょっと違う。明るいポップ、語るような、中音域で物語を紡ぐカントリーポップ王道曲ながらいろいろな音が飛び回る、インディーフォーク的な手法が入っている。ただ、オルタナの特徴の一つだと思っている歪み感、断絶感のあるコード進行はほとんどないな。ただ、それでもこの曲は説得力がある、畳みかけてくる。曲の終盤がやや冗長なのが残念。

4.Exile 4:57 ★★★★☆

男声ボーカル、Bon Iverだろう。声に引っかかりが増す。ただ、コード感はやはり和音感が強い。破綻がないというか。きっちりと整理整頓された森林という感じ。コーラスが次々と出てくる、ゴスペルのようだ。ポップさを増したEnyaとも言える。Enyaに比べるとリバーブ薄目でもっと生身感はある。

5.My Tears Ricochet 4:28 ★★★★

ピアノというかオルガンに近い音か、ハーモニーが支えるが楽器音は少な目な中でソロボーカルに近いパフォーマンス。後半、音が増していく、やや実験的な音像。こういう生々しい音響だと作曲家としての力量が伝わってくる。さまざまなメロディが湧き出てくるんだろうなぁ、と。

6.Mirrorball 3:41 ★★★★

ややダウナーで静かなスタート、追憶、パーティを懐かしむのか、パーティ終わりの虚脱感か。どこか幽玄なリバーブがかかっている。どんな空間で歌っているのか良く分からない、肉体性があまりない。歌メロは今まででは3と並んで一番好きかな。

7.Seven 3:41 ★★★☆

アコギとボーカルからスタート、そこにピアノが入ってくる、ピアノ音はUSインディー的。音響は変わっているものの楽曲の本質は変わっていない、ただ、言葉多めなヴァースはともかくコーラスは音像に合わせてやや荘厳、ファルセットも使いフォルクローレ的な歌いまわしも取り入れているのは新機軸なのかな。後半になるとフィドルらしきものもかすかに出てくる。この曲は大草原、カントリー感がある。

8.August 4:34 ★★★★☆

やや気だるめのスタートから飛び跳ねるようなコーラス、ただ、音響、声のリバーブはどこか気だるげというか、真夏の熱さですこしうだっている感じがする。タイトル通り、8月、夏を感じる。この曲は耳に残る、引っかかる。ギターなどの音の重ね方もうまい。


9.This Is Me Trying 3:27 ★★★★

落ち着いたテンポでゆっくり進む、サイケとも言える音像。なるほど、後半になると幽玄さが増す作りなのかな。音に破綻というか、つかみどころの無さが増してきた。楽器音、ノイズとまではいかないがさまざまな音が飛び交う中でボーカルメロディが響いてくる。これはインディーロック的な音像。

10.Illicit Affairs 3:23 ★★★★

アコギとボーカルの音像から後半になるにつれて力強さが増してくるが、音数がそこまで増えるというより歌い方に力がこもっていく、最近のBon Joviにも近い音像。

11.Invisible String 4:25 ★★★★☆

バンジョーかな、アコギに比べるとややミュートがきいた弾けるようなアルペジオ音。オルタナカントリーというか、やや不思議な音も入るが全体としてカントリー的なバラード、情感が篭もっている。


12.Mad Woman 4:09 ★★★★

ピアノの音が戻ってくる、やや性急に繰り返されるギターフレーズがかすかに入っている。よく聞くとカントリー的なバンジョーの早弾きか。前の曲とこの曲はオルタナカントリー的な音作りだな、王道のアレンジを大きく変えているが要素は残っている。最近の宇多田ヒカルにも通じるようなアレンジ。やや宅録的というか、打ち込みとアコースティック楽器の反復。

13.Epiphany 5:01 ★★★☆

オーケストラの調律のような音、ただ、不協和音感はほとんどない、それをドローン音にしてボーカルが進んでいく。これはEnyaとかDeep Forestあたりを想起する幽玄で深い森のような音。

14.Betty 5:06 ★★★★

一瞬「Battery」に見えてメタリカカバーかと思った(そんなわけはない)。アルペジオギターとハーモニカ、ボーカル。フォークというかカントリーの曲。小さいころからカントリーポップが好きだったんだろうな、メロディセンスがとにかく根本的にカントリーポップ。後半、転調してベース音も入ってきて盛り上がる。

15.Peace 4:06 ★★★★

コツコツコツコツというシーケンス音が耳を惹く、骨格だけになったエレキギターの伴奏をバックに歌い上げる、インディーロック的音像。

16.Hoax 3:52 ★★★☆

ピアノとボーカル、隙間が多い。弦楽器がかすかに鳴っている。ハーモニーが入る。つぶやくような曲。

総合評価 ★★★★

完成度はもちろん高いが、音響に凝ったカントリーポップ。メロディやコード進行はとにかく雑味がないというか和音感が強く、歪みや不協和音感はほぼゼロ。インディーロック的な音もところどころ出てくるがあくまで表層的な装飾のレベルで曲そのものの構造にはあまり影響を与えていない。骨格にあるのは徹底して従来と変わらない本人のメロディセンス。ロック色は薄い。これはロックの文脈ではないなぁ。もちろん、カントリーもロックのルーツの一つなのだけれど。歪み成分が少なすぎる。

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