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25.異形の音楽の系譜を継ぐもの = Babymetal

Babymetalは2010年にデビューした日本のメタルアイドルユニットです。そもそもの出自はアイドル畑ですが、本格的なメタルサウンドとアイドルソング、ダンスの融合でシーンに衝撃を与え、中堅クラスのメタルバンドとして世界的な人気と知名度を獲得しました。Red Hot Chili PeppersやJudas Priestのツアーにも同行し、JPのロブ・ハルフォードから「メタルを引き継いでいってくれ」という言葉も得ています。

メタル音楽はそもそも異形の音楽です。ロック音楽は「反抗」や「カウンターカルチャー」という側面がありますが、ロックの中でもメタルは特に尖ったジャンルとされてきました。源流の一つであるBlack Sabbathにしても、当時は「それまで聞いたことがない音楽」でした。たとえば彼らの1stに収録された「Black Sabatth(黒い安息日)」は、トライトーン(減5度)を用いて、後にヘヴィ・メタルと呼ばれることになる音楽に「邪悪な響き」という要素を持ち込みました。それまではホラー映画のサントラやクラシックなどで使われていた技法でしたが、それをディストーションをかけたギターサウンドで再現することで「それまで聞いたことがない音楽」を生み出したのです。

同様にメタルの源流バンドの一つであるJudas Priestは、デビュー当時はより普遍的なハードロックバンドでした。彼らはさまざまな音楽的変遷と探索を繰り返して現在に至っていますが、通底しているのは「新規性のある音楽を作る」という姿勢のように思います。その時流行している音楽スタイルをいち早く察知し、そこにロブ・ハルフォードの金属的なボーカルと流麗なツインリードギターで独自性を加えていく。その結果、70年代にハードロックを一歩進めた「ヘヴィ・メタル」の鋭く切り込むような音像を生み出しました。レザー&鋲というファッションスタイルも試行錯誤の中から生まれたものです。常に「異形であること」を意識してきたJPだからこそ、Babymetalに理解と共感を示すのでしょう。

80年代になり、メタル音楽はその不穏な響きや邪悪なイメージを保ちつつメインストリームになっていきます。Motoly CrueやSkid Row、Whitesnake他、ハードロック・メタル系のアーティストがヒットチャートをにぎわせました。それに対してさらなる異形の音楽としてスラッシュメタルが隆盛します。その中で最大のモンスターバンドになったのはMETALLICAですし、Slayerは異形のままでメインストリームの一定の評価を勝ち取りました。

90年代以降、メタル音楽は急速に細分化していきます。世界最大の音楽シーンであるアメリカでグランジ・オルタナがメインストリームになり、それまでメインストリームだったメタル・ハードロック系のバンドを駆逐していきます。グランジ・オルタナやヒップホップを通過したKornなどのバンドも90年代に生まれていますが、90年代は音よりもテーマや歌詞での「重さ(心理的トラウマの吐露など)」が重視され、音楽的な異形さや挑戦という意味ではメインストリームは停滞していたようにも思います。とはいえ、再び地下に潜ったメタルシーンからはより過激さを増したデスメタルやブルータルコアの隆盛、Dream Theaterを筆頭とする高度な演奏技術を誇るプログレッシブ・メタルの隆盛などが起きていました。メタルシーン全体では「それまで聞いたことがない音楽」を変わらず生み出してたのです。

2000年代に入ると、再び「新しいメタル音楽」が音楽シーンのメインストリームに浮上し始めます。Slipknotは90年代にメタルシーンで培われたさまざまなエクスリーム・ミュージックの語法を駆使し、過激さを持ちながら思わず体を動かしてしまう説得力のあるリズムを生み出し、再び「異形の音楽」としてのメタル音楽を進化させました。グランジ・オルタナのヘヴィネスなコンセプトを通過し、その上でメタル音楽の演奏のタイトさや暴虐性と、合唱やモッシュによる身体的な共時性の快楽を提供し、巨大化していきます。同時に、80年代から活動しているスラッシュ勢もモンスターバンドとして存在感を保っています。

そして2010年代、Linkin ParkやAX7ら、「ポップさを兼ね備えたメタル」勢がメインストリームに散見される中、さらにポップに振り切った「異形」としてBabymetalが現れます。同時期にスウェーデンからAmarantheも現れており、「女性ボーカルでハイテンションなポップスをメタルの語法で奏でる」というシーンができつつあります。ただ、Babymetalの異形さはやはりステージアクトも含めてのものであり、いわゆるアイドルダンスを高速で舞い踊りながらメタルを奏でるという異形さは一度見たものに強烈な印象を残します。2019年に発表された3rd「Metal Galaxy」は2ndでやや減衰した「異形さ」が増しており、YouTube等による「聞くだけでなく観る時代」に合わせた「今まで観たことがない音楽」を生み出しています。


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