見出し画像

Space Chaser / Give Us Life

画像1

ジャケットがターミネーター。SF感あふれるいいジャケットですね。”あの頃”のメタルの感じが薫り立っています。これは聞くしかないでしょう。

Space Chaserはドイツのスラッシュメタルバンド。N.W.O.T.H.M.(New Wave Of Tradisional Heavy Metal)の流れになるのかな。UK(北アイルランド)のGama Bombとかにも近い、オールドスクールなクロスオーバースラッシュが持ち味のバンドです。2011年デビューで本作が3作目。

活動国:ドイツ
ジャンル:スラッシュメタル
リリース日:2021年7月16日
活動年:2011ー現在
メンバー:
 Sebastian Kerlikowski Bass
 Matthias Scheuerer Drums
 Martin Hochsattel Guitars (lead)
 Leo Schacht Guitars (rhythm), Guitars (lead) (additional), Vocals (backing)
 Siegfried Rudzynski Vocals

画像2

総合評価 ★★★★

硬派なアルバム。スラッシュメタル好きにはおすすめ。ぶっ飛ばされるほどではないけれど、「お、なんかいいな」と思ったら最後までそれが続きます。じわじわ良さが沁みてくる系。全曲、クオリティが保たれているのも好印象。解放感を演出するようなコーラスラインは少なく、ややパワーメタル的(カイハンセン声)なメロディも出てくるけれどハードコア的なアジテーションも強い。ギターも基本的に硬質で無機質なリフを奏でるが、かすかに抒情的なメロディが入り込んでくる。突出した曲がないのだが、逆に言えばあきらかにつまらない瞬間、退屈な瞬間もない。「ここがすごい!」「この曲かっこいい!」というより「どの曲も悪くない」「聞いていて心地よい」といった感じ。それがアルバム全体を通して続くので聞いているうちに「すごいな」となる。まだキャリア何十年のベテランのような存在感はないけれど、自分たちの持ち味をしっかり分かって曲作りをしている印象。先日取り上げたLAのVoid Vatorのように、フレッシュなスラッシュメタル感はあった。Void Vatorのほうが派手(LAメタルの影響も感じる)けれど、こちらはしっかりジャーマンメタル。ギターリフは80年代、90年代に通じるものがあるけれどリズム隊のアグレッションや音作りがしっかりモダンなのが聞いていて心地良い。実際に90年代のメタル(特にジャーマンパワーメタル系)と聞き比べてみるとリズム隊の音の強さがだいぶ違う。

1.Remnants of Technology 03:50 ★★★★

フランジャーが効いた回るようなギター、いかにもすらっしーなリフ。そこからドラムがなだれ込んでくる。ややDjentな金属的なピッキングハーモニクス音とシンバル、金物の使い方がうまい。ボーカルは爬虫類系。Overkillとか古き良きスラッシュ。ボーカルのミックスは比較的小さめ。ベースもしっかり前面に出てきているのは良い。ギター、ベース、ドラムのバランスはいい。ギターの音は多少丸みがある。80年代後半から90年代前半のギターサウンドっぽい。ドイツだからKreatorとかと比較すべきなんだろうな。80年代ドイツスラッシュに比べるとだいぶ整合性は取れている。80年代ジャーマンメタルは本当に初期衝動、B級感が強かったから、それに比べるとかなりかっちりしている。MVが妙に長いというか、けっこう本格的なSF仕立てでドラマになっている。

2.Juggernaut 03:52 ★★★★

ツーバス連打、隙間がない少し早めのミドルテンポ。重戦車感。ドイツらしいジャーマンテクノ、ハードコアテクノ的な機械的なバスドラ連打。その上でメタルドラマが展開していく。ドラムの音作りはけっこうオーガニックで人力感は強い。なかなか硬派、メロディアスすぎず、フックもそれほど強くないがしっかりリフが絡み合う。ドラムとベースの音は渦巻く感じもあり、この辺りはややモダン。ボーカルのシャウトもなかなか、突き抜ける感じまではいかないがそこが無骨でよい。

3.Cryoshock 04:31 ★★★★☆

疾走するがけっこう引っ掛かりがあるリフ。音圧がやや減って軽やかな疾走感に。全体として軽薄なパーティースラッシュ(悪い意味ではなく、考えずノレるという意味)ではなく、もうちょっと重厚感がある。曲そのものはけっこう軽やかというか、若手バンドらしい弾むような若々しさはあるのだけれど、音作りはけっこう重め。アメリカ西海岸的な軽やかさはなく、ドイツらしさがある。歌メロはハードコア的だが、音像が整理されているんだな。やけくそな攻撃性ではなく統率のとれた小隊。

4.A.O.A. 02:49 ★★★★

ちょっと最近のメイデンっぽいスタート。音作りがケヴィンシャーリー的なのかな。ボーカルが入ると世界観が違うが。ああ、でも、90年代メイデン的かも。Fear Of The DarkとかNo Prayer For Dyingにはけっこう吐き捨てるようなボーカルスタイルの曲もあったし。絡み合うメロディと機械的なボーカルライン、Judas PriestのMetal Meltdownを少し思わせる絡みもあったり。ああいう超音波系の高音シャウトはないが。ボーカルスタイルはあくまでハードコア寄りのスラッシュ。そこまで極端なスクリームはなくメロディは一定に収まる。アジテーションに近い。最後笑い声、ブルースディッキンソンをやはり意識しているのか。

5.The Immortals 03:43 ★★★★

だんだん90年代Judas Priestらしさ、Painkillerの頃の感じが出てきた。高音を出そうとするとB級ジャーマンスラッシュ感が出てきてなんだかほろ苦い感じ。こういう発声のジャーマンメタルバンドはほかにもいたなぁ。UDOに比べるとダミ声度はかなり落ちるが、基本的にAccept系のボーカルスタイルだと思う。だが、高音を出そうとするとなんというかちょっとすっとぼけた声になる。ああ、カイハンセンだ、初期Helloweenのカイハンセン。そんな感じがする。そうだな、Judas PriestらしいというよりGamma Rayリスペクトなのかもしれない。さらにルーツに行けばJPがいるだけで。

6.Signals 03:21 ★★★★

硬派なスラッシュ、ミドルテンポで攻めてくる。突き抜けたものはないが減点要素もあまりない。バランスよく心地よい。ザクザクしたギターリフ、硬質なボーカル、うねるベース、タイトなドラム。リズム隊だけがモダンだがほかのスタイルは80年代後半から90年代の感覚が強い。このミックス感が面白い。かっちりと整合性があってザクザク感も強いが各楽器は比較的混然一体としていてライブ感もそこそこある。良いミックス。

7.Burn Them All 04:01 ★★★★

やや隙間があるリフづくり、緩急をつけている。そこからツーバスの連打。なんだろうなぁ、こういうジャーマンスラッシュメタルは久しぶりに聞いた気がする。やはりKreatorとかのベテランに比べるとフレッシュだし、世代感覚が違う。そのうえで表現としては90年代的。こういうと変だが、メタラーのBGMとしてすごく良い。適度に心地いいし、かといってテンションが上がりきるほどフックはない。お、この曲のギターソロはちょっと耳を惹くな。

8.Give Us Life 04:14 ★★★★

ミドルテンポでひっかくようなリフ。Black Albumのメタリカみたいなリズムだがドラムの音はあんなに特徴的ではないしオンタイム。後ろにタメてはいない。行進的。腕を振りながらザッザッと歩く感じ。打ち付けるようなリフ、おお、これはまさにスラッシュ(鞭打つ)感じの感想。ザクザクとしたリフの中でボーカルがアジる。最後は行進的な、ドイツ唱歌的なリズムに戻る。

9.Antidote to Order 03:10 ★★★★☆

パンキッシュなコーラスからスタート。これは楽し気。コンパクトでタイトにまとまっている。フックが効いている。パンキッシュでハードコアな色が強い。適度に展開していく感じが初期メイデン感もある。とはいえ展開といってもシンプルな構成、ツインリードとベースドラムだけなので無骨。ハードコアの人にも訴求するかも。

10.Dark Descent 06:02 ★★★★☆

リフの展開が凝っている、リズムもツービートでややデスメタル感もある音像。ボーカルはあくまでスラッシュスタイル。ハードコア的だな。メロディに色目を使わずあくまで硬派なメロディ。硬質な世界観。この曲は曲作りが凝っている。ギターソロは抒情的。アルバムラストにふさわしく、彼らなりのドラマティックな大曲。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?