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X Ambassadors / The Beautiful Liar

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Xアンバサダー(略称はXA)は、ニューヨーク州イサカ出身のUSのポップロックバンドです。2009年に結成され、2013年にメジャーデビューEPをリリース。本作が3枚目のアルバムです。リードボーカルのサム・ハリスとキーボードのケイシー・ハリスは兄弟で、ケーシー・ハリスは生まれついての盲目です。

イマジンドランゴンズ、パニック!アットザディスコ、ジミーイートザワールドなどの前座を務めて知名度を上げ、2015年にリリースされたデビューアルバム「VHS」はRIAAプラチナム(USで100万枚相当のセールス)を記録。ただ、その後バンドメンバーが一人抜けたり、セカンドアルバムのリリースが延期されるなどゴタゴタがあり人気はやや失速気味。本作は再起を図る1作です。

『The Beautiful Liar』は、狂気、無力、自己不信、不安をテーマにしたラジオドラマのようなコンセプトアルバムです。影が生き返る、盲目の少女の物語を16トラックにわたって語っています。エッジの効いた、トラップの影響を強く受けたサウンドで、バンドの以前のリリースとは大きく変わっています。サムとケーシーは、このアルバムは、(ケーシーの目が見えないので)テレビの代わりにラジオドラマを聴いていた子供時代の影響を受けたと語っています。

Allmusicで★★★★☆と絶賛されていたので興味を持ちました。それでは聞いてみます。

活動国:US
ジャンル:オルタナティブロック、インディーロック
活動年:2009-現在
リリース:2021年9月24日
メンバー:
 サム・ネルソン・ハリス–リードボーカル、ギター、サックス、ベースギター、ドラム、パーカッション(2009年–現在)
 ケイシー・ハリス–ピアノ、キーボード、バックボーカル(2009年–現在)
 アダム・レビン–ドラム、パーカッション(2009–現在)

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総合評価 ★★★★

面白いアルバム。たしかにイマジンドラゴンズとかパニックアットザディスコあたりの今のUSで売れるロックバンド、メインストリームのポップロック感を持った曲もあり、プラチナムを売ったバンドだけあってクオリティが高い、(やや新規性には欠けるものの)ヒット性が高い曲もある。ところが、「ラジオドラマ」というコンセプトにかなり忠実に作られており、最初にラジオドラマのオープニングとか、途中のジングルっぽいものとか、CMとか、そのあたりがしっかり入ってきて中盤はかなり実験的。音楽的、というより「本当にラジオドラマに聞こえる」ことが優先されている。The Whoのセルアウト(1967)にも近い、けっこう遊び心があるコンセプトアルバム。全体の印象は散漫と言えば散漫なのだが、ラジオの雑多な感じといえばまさにその通りで、それが妙な魅力にもなっている。USでは商業的に一度成功したバンドということでどうもロック系の大手メディアからはあまり相手にされず、レビューがあったのはAllmusicのみ。ただ、「かつて売れていたポップロックバンドの新譜」で片づけるには挑戦的すぎる。いかにもヒットしそうな売れ線の曲がところどころに配置されつつ、アルバム全体としては実験精神があふれていて、降れ幅が独特なアルバム。4,14あたりは普通にUSでヒットしそう。YouTubeを見るとそれぞれ数十万再生はされているので固定ファンはついているのだろう。エモになるのだろうか。英語版wikiだと「トラップの影響が強い」とあったが、そういう曲は数曲で、全体としてみると「さまざまな音楽ジャンルを取り入れてみた」というか、「ラジオを聴いている感覚」を再現する方が優先されている印象。

余談だが、エモは固定ファンがしっかりつくジャンルのようで、同時にあまりロック系主要メディアからは扱われなくなる(扱われたとしてもあまり高評価はされない)傾向がある。このあたりの扱い、構造は(USで売れているような)メタルにも近いように思えている。なんというか、一定のサウンドスタイルとかメロディのパターンがあって、(商業的に一定以上の規模で活動するには)なぞることを求められるのかもしれない。なので、メディアからの評価は低くなる。けれど、一定の固定ファンはつく。し、聞いたらなんだかんだ楽しめる作品も多い。その中では本作は実験精神が強め。

1 Chapter One: The Sleeping Giant ★★☆

ドラマの始まり、カセットテープを入れるような音から始まり、SEの後ナレーションが入る。完全にラジオドラマのスタート。短いイントロ。

2 Beautiful Liar ★★★★

ややダウナーで夢見るようなビート。フレイミングリップス(00年代初頭ぐらいまでの)にも近いかも。つぶやくようなボーカルが入ってくるが、歯切れのよい、レッチリ感のあるヴァース。そこから幽玄なコーラスへつながる。トラップ的だがビートはゆったりしている。スローテンポで幽玄な曲。少しゴシックな感じもするが、サイケデリックな感覚の方が強い。エモ的な音の演出、ボーカルラインを持っているがテンポがかなりゆったりしている。

3 My Own Monster ★★★★

はずむようなリズム、ちょっとファンキーなポップ。マルーン5とかイマジンドラゴンズなど、2010年代のUSポップロックだが音は暗めでややシリアス。少しマイケルジャクソン的なアプローチもある(あそこまでビートがはっきりしていないが)。ポップロックなのだが、はじけるポップさというよりはどこか夜、すこし黄昏た表情がある。ディスコぐらいのゆったりしたビート。ゆったりと流れるビート感が落ち着いていて良い。

4 Adrenaline ★★★★☆

ややアップテンポに、音の表情が溌剌としてくる。ただ、カリフォルニケイション以降のレッチリ的な、どこか黄昏たUSロック感がベースにある。これは良質で王道なUSロックかも。今のUSロック感がありつつ適度にポップ。ただ、”ロック”な質感は残っている。コンセプトアルバムでもあるし。ちょっとデジタル感があるビート。ズンタタズンタタと更新するような、マイケミのブラックパレードとかのビート。

5 Bullshit ★★★☆

NIN的な、インダストリアルな低音にボーカルが乗る。ただ、攻撃性というか尖ったギターやスクリームは出てこない。アーシーなアコギのフレーズが入っていてカントリー感もある。カントリーダブステップ。

6 Chapter Two: Enter The Shadow ★★☆

再びナレーション、こういうナレーションが入り、いろいろなサウンドが入っているのは玉手箱感があって面白い。幕間。

7 Conversations With My Friends ★★★☆

ガレージ的な、太くて割れたギター音。そこから性急なリズムへ、ポストパンク的。1分未満の短い曲。

8 I Can See The Light... ★★☆

R&B的な、ゆったりとしたリズム、これも35秒。ラジオのジングル的なものだろうか。

9 Palo Santo ★★★★

ちょっとラテン的、ビートもラテン的。器用なバンドというか、コンセプトに沿ってさまざまな音楽性を取り入れて配置しているのだろう。ビートへのこだわりを感じる。次々とシーンが切り替わっていくのは面白い。

10 Theater Of War ★★★☆

カセットをかけ替えるような音、古い映画音楽、トーキー映画のサントラのような、SEと歌。銃声が響く。50s、60s前半のオールドスタイルの曲。

11 --A Brief Word From Our Sponsors-- ★★★

これはCMをイメージしているんだな。違う雰囲気の音が入ってくる。まさにラジオ番組、古くはThe Whoのセルアウト的な、コンセプトアルバムの一つの王道。

12 Love Is Death ★★★★

6-11曲がほとんど断片というかシーンだったので、久々に「曲らしい曲」。アダルトコンテンポラリーなビートにメロウなボーカルが乗る。ややゴシック寄りのポップロック。USメインストリームロックの曲、といった印象。

13 Somebody Who Knows You ★★★★

アコースティックギターのアルペジオ、掠れたバイオリン(のような)音。ボーカルが入ってくる、カントリーバラード的。掠れた西部。こういう音はUSは好きだよなぁ。この曲はキラーズの新譜にも通じる音。

14 Okay ★★★★☆

お、これは歌メロに力がある。歌い上げるタイプの曲。ありがちな展開といえばありがちなのだけれど、アルバムの流れの中でいい場所に配置されている。アンセム的な曲。ゆったりしたテンポと合わせて力強さがある。ラジオヒットするポテンシャルがあるけれど、単曲で聴くと「似た感じ」に聞こえるのかもしれないな。このアルバム、実験的な曲とポップロック、今のメインストリームUSロックの音像が入り混じっていてなかなか面白い。

15 Reincarnated ★★★★

はっきりしたビートだが隙間が多い。ボーカルも明るいメロディラインだがややけだるさがある。合唱に変わる。シンガロングなメロディ。「生まれ変わる、生まれ変わる、生まれ変わる」。再生の歌だろうか。明るさがある。

16 Author's Note ★★☆

エンディング、ナレーションとクレジット的な感じ。まさにラジオドラマの終わり。

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