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連載:メタル史 1980年⑦Diamond Head / Lightning To The Nations

Diamond Headは1976年に結成され、N.W.O.B.H.M.が勃興しつつあったロンドンのシーンで話題になったバンド。最初のデモテープは「N.W.O.B.H.M.」という単語の生みの親であるSounds誌のジェフバートン(のちにKerrang!を創刊する)に送られ評価され、AC/DCのロンドン公演やIron Maidenのライブのオープニングアクトを務めるなど、着実に知名度と評価を上げていきます。

中心人物はギタリストのブライアン・タトラー。彼がドラムのダンカン・スコットとバンドを始め、ボーカリストのショーン・ハリスとベースのコリン・キンバリーが加入。バンドとして活動を始めます。地元でマネージャーもつき、知名度もつき、各種レーベルからのオファーも来始め、このままN.W.O.B.H.M.の波に乗って世の中に出ていく…かと思われたのですが、ボーカリストのハリスの母親がマネジメントに首を突っ込みます。母親リンダ・ハリスと、母親の恋人であったレグ・フェローが実質的にマネジメントを担当するようになり、それまでのマネージャーはバンドから去ってしまう。マネジメント経験がないリンダとレグによってバンドはレーベルと契約を結ぶことができず、N.W.O.B.H.M.の波に乗り遅れてしまいます。別に悪意があったわけではなくリンダは息子のことを考えていただけでしょうし、レグは地元の紙工場の経営者であり、多少なりともマネジメントの知識を持っていたことで音楽業界の慣習(新人バンドには不利であることも多い)より自らの経営知識を持ってバンドをサポートしようとしたのでしょう。

1980年代初頭のDiamond Head
左からショーンハリス(Vo)、コリンキンバリー(Ba)、ブライアンタトラー(Gt)、ダンカンスコット(Dr)
出典

ただ、結果としてレコード契約を得られなかったバンドは自主製作でアルバムを作り始めます。それが本作。もともと自主製作版として制作され、7日間でレコーディング。当初は無地のボール紙に包まれ、メンバー一人のサインが入っているだけのジャケットがないものでした。上述のレグが持っていたボール紙工場で安価に作れたためであり、当初のプレス数は1000枚。通販かライブ会場のみで流通するコレクターズアイテムでした。なお、レグは本作の共同プロデューサーも担当。音楽的インプットはほとんどできなかったでしょうから(別に音楽家ではない)、単にお金と口を出しただけでしょう。プロフェッショナルな環境ではなく知り合いベースで作り上げていったと思われるので他にも曲によって外部のエンジニアやプロデューサーが参加しています。このアルバムをMetallicaのラーズウルリッヒが手に入れ、多大な影響を受けることになります。

アルバムジャケットは複数種類あり、当記事一番上のジャケットは最新の再発盤のもの。もともとは真っ白な紙だけであり、その後リリースされた際には下記のジャケットデザインが付きました。

過去のジャケット
各種ディスクガイドなどではこのジャケットが多いかも

他にもドイツのウルフレコードからリリースされた際のジャケットもあるし、また2020年に再録音盤も出されたのでそのジャケットもあるのでややこしいのですが、現在ストリーミングプラットフォーム等で使われているジャケットは一番最初に載せたもののようです。

オリジナルジャケット、真っ白
このアルバムの通称が「White Album」である理由
ウルフレコードバージョン
再録バージョン、「LIGHTNING THE NATIONS 2020」の記載あり

そんなマネジメントの不運もあり、彼らはN.W.O.B.H.M.が勃興する1980年に本作のような名作をレコーディングしておきながら成功を逃してしまいます。その後いろいろ紆余曲折がありながらもマネジメントを改善し、MCAとレコード契約を得て1982年に(正式な)デビューアルバム「Borrowed Time」をリリースします。ジャケットデザインも凝っているしチャートでも24位まで上昇、MCAとしても力を入れて売り出した雰囲気がありますが、残念ながら本作に込められた煌めきをより高めることはできませんでした。その後活動休止してしまいますが、90年代、00年代も断続的に活動。2014年からは新しいボーカリストを迎えそれ以降は安定して活動中です。90年代、00年代は評価的にも商業的にも低迷していましたが2014年の再始動以降は評価の高い作品をリリースしています。

本作はN.W.O.B.H.M.史に残る名盤で、Metallica、そしてMetallicaの初期メンバーであったデイブムステイン率いるMegadethに多大な影響を与えました。特にMetallicaは本作収録7曲中5曲、「The Prince」、「Sucking My Love」、「 Am I Evil?」、「It's Electric」、「Helpless」をカバーしており、Garage Inc.に収録。それによりN.W.O.B.H.M.リアルタイム世代だけでない幅広い知名度を得るようになります。

もともとはデモテープとして作られたアルバムでありながらその完成度の高さから2008年にBurrn!誌が本作を、Black SabbathMaster of RealitySlayerRaign in Bloodに次ぐ史上3番目に優れた「リフ・アルバム」と評価し、2017年にはローリングストーン誌が「史上最も偉大なメタルアルバム100枚」のリストで本作を42位にランク付けしました。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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