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連載:メタル史 1983年⑤Mötley Crüe / Shout at the Devil

オリジナルジャケット
反キリストのシンボルである逆五芒星

LAメタルの雄、Mötley Crüeのメジャーデビュー作。インディーズ時代に「Too Fast For Love(1981)」をリリースしているので厳密には2作目になります。X Japanで言えば「Blue Blood」みたいなもの。

なお、日本では「LAメタル」と言いますが、こういう「都市名+メタル」はあまり欧米では使われません。海外では「Hair Metal」や「Glam Metal」と呼ばれるようです。Glam Metalが一般的。グラマラスで両性具有的なスタイル、まぁ日本で言うビジュアル系みたいな一派で、80年代に大ヒットしたメタルアルバムはほとんどがこのGlam Metalのジャンルから出てきています(あとはThrash Metalからいくつか)。

逆五芒星は論争を生んだため
再発盤ではメンバー写真に差し替え

Mötley Crüeの中心人物、ニッキーシックスはもともとSisterというバンドをブラッキーローレス(のちにW.A.S.P.を結成)と組んでいました。Sisterは逆五芒星や悪魔的なイメージなどを演出として用いていたバンドで、本作のオリジナルリリース版は逆向き五芒星(反キリストのシンボル)をそのバンドから流用しています。リリース時、シックスはローレスに「逆五芒星を使っていいか」と尋ねたそう。ローレスは当時は「悪魔的なイメージだと将来的に活動を続けていけない」と感じていたようで「俺はもう使わないからいいよ」とこれを許諾。ただ、結果として本作が大ヒットしたからか、W.A.S.P.は翌年1984年により過激なイメージでデビューすることになります。

ローレスとシックス

1983年と言う年は、LAを拠点とするメタルバンドの長老格であるQuiet Riotが「Metal Health」でついに大成功を掴んだ年。Quiet RiotMötley Crüeの関係はN.W.O.B.H.M.におけるSaxonIron Maidenにも近いかもしれませんね。ベテランが先に成功を掴み、後から若手のカリスマが台頭してくる。1983年はHeavy Metalの中心地がUKからUSへ、ロンドンからLAに移った年とも言えるでしょう。そのLAにおいて、当時もっとも勢いがあったバンドがMötley Crüe。本作はリリース後2週間で20万枚を売り上げるヒットとなります。

ただ、LAという街はとにかく誘惑が多かったのか、あるいはバンドマン界隈が特殊だったのか、みな破天荒な生き方。ドラッグや内紛、女性関係などでさんざんな騒動を巻き起こします。Quiet Riotはそれで早々に失速しますし、Mötley Crüeも多大なトラブルを起こす。シックスは友人のポルシェを勝手に借りて乗り回して事故を起こし大怪我を負い、その痛み止めとして処方された薬から薬物を常用するようになりヘロイン中毒に。他のメンバーもさまざまなバンド(Van HalenAC/DC)の先輩ミュージシャンと大喧嘩を引き起こし、共演禁止に。また、ホテルに泊まるたびに器物破損するので出入り禁止を幾多の場所で引き起こし、保証金を取られるなど当時のマネージャーは心労が絶えなかったそう。

いわゆる「ハチャメチャなロックスター」というイメージは70年代からありましたが、それを一気にグレードアップしたというか、「バッドボーイズ」「無法者」のイメージを体現したバンドでした。「悪魔」だの「反キリスト」だのとUKのバンド達はコンセプトで言っていたのに90年代スウェーデンブラックメタルシーンがそれらをガチでやってしまったのにある意味では近いと言えるかもしれない。70年代から架空のイメージとして歌われた「ロックンロールライフ」「ロックンロールスター」というものをこれ以上ないほどリアルに体現したようなバンド。良くも悪くもMötley Crüeが「Girls Girls Girls」と歌うとリアルなんですよね。そういう意味では偽物ではなく本物であったバンド。

とにかく女性に囲まれるイメージを打ち出していた

彼らの功績の一つに、それまで男性リスナー主体だったメタルシーンに女性のリスナーを呼び込んだことも言われています。ある意味「女性の敵」を体現したようなバンドなのによくモテた。バンドのライブには多くの女性ファンが詰めかけます。アイドル的な人気を持っていた。それがGlam Metalというサブジャンルそのものの隆盛に繋がっていきます。一部の(主に男性の)若者が聴く音楽だったHeavy Metalが一気に男女に広がっていく。メタルのマーケットを確実に広げたバンド

1983年のモトリークルー

ゴシップばかりが先行しがちですが、少なくとも初期はかなりメタリックで、正統なHeavy Metalの伝統にも則っていました。悪魔的なイメージは本作以降では薄れ、「Sex Drug Rock’nRoll」みたいなイメージ、ロックスター的なテーマやイメージが強まっていきますが、本作はそれまでのHeavy Metalの文脈に沿った作品。まだロックスターとしてのハチャメチャな生活に浸りきる前、(すでにインディーズである程度の成功を手にしていたとはいえ)若き夢見るミュージシャン、挑戦者であった頃の作品です。

本作のプロデューサーはトム・ワーマン。もともとA&Rとして多くのアーティスト(BostonCheap TrickREO Speedwagonほか)を発掘した人ですね。プロデューサーとしてはMötley Crüeの他、Twisted SisterDokkenL.A. Gunsなども手掛けています。80年代に活躍した名プロデューサーの一人。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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