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連載:メタル史 1981年⑤Saxon / Denim and Leather

N.W.O.B.H.M.におけるリーダー格だったSaxonの4作目のアルバム。タイトルのDenim and Leatherとはこの当時のメタルヘッズに人気のデニムジーンズにレザージャケットの服装のことでファンに捧げられたアルバムとされています。1980年にリリースされたWheel Of SteelStrong Arm of the Lowと並んで三部作と言われることも。この3作が一般的にSaxonの黄金期とされることが多い印象です。

本作の裏ジャケット
左からピートギル(Dr)、ポールクィン(Gt)、ビフバイフォード(Vo)、グラハムオリヴァー(Gt)、スティーブドーソン(Ba)

本作のラインナップは前作と同じ。デビュー時から変わらないラインナップです。クィンは帽子を被っていますね。基本的にきちんとした撮影やライブでは帽子を被っています。

本作に収録された"And the Bands Played On" と"Princess of the Night"の2枚のシングルは成功をおさめ、本作も9位まで上昇。3作連続でのゴールドディスクを獲得します。

今回の連載でSaxonを取り上げるのは今回が最後なのでこの後のことも少しふれておきましょう。

本作リリース後、ドラマーのピート・ギルが手を負傷してしまいツアーに出れなくなってしまったためやむなく脱退(その後Motörheadに加入)。クラシックラインナップが崩壊します。バンドには元Toyah(ニューウェーブバンド)のナイジェル・グロックラーが加入し、ツアーを敢行。グロックラーは1日半ですべてのセットを覚えなければならなかったそうですが、そこからの付き合いは長くグロックラーは2024年もSaxonに在籍中です。本作のツアーからは名ライブ版Eagle Has Landed(1982)が生まれました。このライブ盤もUK5位に達するヒットとなります。

Saxonがリリースする次作「Power & Glory(1983)」はバンド史上最大のヒットとなりますが、UKよりドイツやフランスといった欧州諸国で売れ、USでも初めて155位にチャートイン。ただ、この頃にはN.W.O.B.H.M.はすでに終わりつつあり、UKではそこまでヒットせず(15位)。そしてデビュー時から所属したカレレレーベルを離れ、EMIと契約。本格的な米国進出を目指します。ただ、数作出したUS寄りのハードポップとすら呼べるアルバムは(今聞くと質が高いものの)押しなべて商業的に失敗し、メタリックな路線に回帰するも90年代は低迷。この時代にはUKよりもドイツを中心とした欧州で根強く支持され続けてバンド活動を継続し、2000年代から再評価の波が起きて現在に至ります。特に、2020年代に入ってからの作品はドイツ、スイスで10位以内にランクインしており、地位を強固なものにしています。80年代、N.W.O.B.H.M.が下火となりUKメタルシーンが退潮し、USはグラムメタム~アリーナロックが盛り上がっていった際、N.W.O.B.H.M.直系の「ヘヴィメタル」を根強く支持したのがドイツ、フランスといった欧州でした。

時を戻しましょう。今は1981年。N.W.O.B.H.M.の真っ盛りです。

本作のプロデューサーはバンド自身とナイジェル・トーマス。過去2作をプロデュースしたピート・ヒントンから離れ、セルフプロデュースに近い形を取ったようです。ナイジェル・トーマスはどちらかと言えばマネジメント寄りの人なのか、あまりプロデューサーとしては著名ではありません。シングル曲2曲は完全に自分たちのセルフプロデュース。特筆すべき点としてはスイスとスウェーデンで録音されていることですね。UKでもUSでもなくスイスとスウェーデン。長期旅行も兼ねた録音で気分を変えたかったのでしょうか。当時のUKの人気バンドがわざわざスイスやスウェーデンのスタジオで録音したのは珍しい気がします。今なら北欧メタルの音響、録音技術は世界最高峰レベルですが、当時はまだ北欧メタル萌芽期ですから。スウェーデンのポーラースタジオはABBAのメンバーが所有していたスタジオのようですね。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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