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Grapevine / 新しい果実

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邦楽週間3日目はGrapevine(グレイプバイン)。1993年結成、1997年デビューの大阪出身のバンドです。現在のメンバーは3名で、ボーカル・ギター・田中和将、ギター・西川弘剛、ドラムス・亀井亨の3人組。田中と亀井の両名がそれぞれ曲を書く、メインソングライターが2名いるバンドです(西川も作曲に参加することはある)。ドラマーがメインソングライターの一人というのも少し珍しいですね。デビュー当時は4人組(+ベーシストの西原誠)でしたが、西原は持病により2004年に脱退。それ以降は3人組です。デビュー以来変わらないバンドメンバー。スピッツやミスチルみたいですね。

昔から名前は知っていましたが、あまり聞いたことがないバンド。「Grapevineの代表曲ってなんだっけ、粉雪かなぁ。あ、あれはレミオロメンだ…」ぐらいの認知でした。改めて、ブレイクしたヒット曲とされている「スロウ」を聴いてもいまいちわからず。これよりは「光について」が多少覚えがあります。2ndアルバム「Lifetime(1995)」はそういえば名盤特集とかでよく名前を見るかも。King Gnuの「白日」という曲名にどこか既視感があったのも、Grapevineが「白日」という曲を出していたからか。あれからずっと活動を続けていて、もう本作が17作目なんですね。日本のバンドって本当に多作ですよね。

さて、そんなわけでほとんど初聴のバンドです。本作は押しなべて評判が良いので聞いてみることにしました。90年代の(朧げな)印象しかないバンドですが、どう変化しているでしょうか。

活動国:日本
ジャンル: ロック、ブルースロック、オルタナティヴ・ロック
活動年:1997-
リリース:2021年5月26日
メンバー:
 田中和将 ボーカル、ギター
 西川弘剛 ギター
 亀井亨 ドラム

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総合評価 ★★★★☆

こんなバンドだったのか。90年代のブリットポップ、UKロックが好きだったんだろうなぁというルーツを感じつつ(マッドチェスター感とかシューゲイズとか)、日本ならではの独自性、グレイプバインならではの独自性をきちんと入れ込んでいる。ただ、これだけベテランバンドでありながら閉じた感じ、自分のお家芸、固定ファンに向けた曲ではなくアルバム全体が開かれている、同時代のバンドと同じ感性を感じる。現役感がある。これってなかなか難しいことで、お家芸を掘り下げるのも悪いことではない。たとえば人間椅子みたいに掘り下げ続けて突き抜ける例もあるし。このバンドは時代と共に変遷しながら根っこにあるのはUKロック的なメロディセンスとロックバンドとしてのシンプルな在り方なのだろう。同じメンバーで続けている、というのは、それが生活でありルーティンであり日常、”バンドがある人生”なのだ。自然体で、今その時々にカッコいいと思った音を鳴らす。そこにはもちろん、本人の音の嗜好性とかメロディの嗜好性、歌詞の特性などが出てくるし、身体性(声や演奏のクセ)の制約も大きいから結果としてある種の統一感が出てくるのだけれど、たぶんその都度その都度変化してきた、それを繰り返してきたバンドなのだろう。90年代からの連続性を感じたのは「3.Gifted」ぐらいで、他はあまり「グレイプバインというバンドに持っていたイメージ」とは結び付かなかった。だからといって散漫なわけではなく、アルバム全体を通して統一感があるのは、そうした「自然体の変化」の積み重ねで今に至っているからなんだろう。継続するというのは凄いことだし、その凄いことを成し遂げるだけの才能があるバンド。「5.ぬばたま」や「10.最期にして至上の時」は実験性が高い。「1.ねずみ浄土」も方向性は違うけれど実験的。個人的にはマッドチェスター、プライマルスクリーム的な「9.リヴァイアサン」が一聴目としては耳に残ったかな。「6.阿」もマッドチェスター感あり。あとはニューウェーブ、シンセポップ感のある「8.josh」も面白かった。どんな進化をたどったのか、他のアルバムも聴いてみたくなった。

1.ねずみ浄土 ★★★★☆

アカペラから、少しゆがんだファンク。粘り気のあるビートだがそこまで低音はねっとりしていない。歌い方がちょっと岡村靖幸的な粘り気がある。ベテランの味があるなぁ。ギターが右チャンネルは歯切れよく、左チャンネルは引っ張る。途中から役割が入れ替わる。歯切れのよい音と残響音を左右で切り替えて構築している。隙間が多い、アーバンでアダルトな音。洗練されているが適度にノイズも混じっていて音に芯とスリルもある。同じようなベテランバンドだとカーネーションにも近い感覚もあるな。世代的にカーネーションよりは10年ぐらい後だと思うけれど。

2.目覚ましはいつも鳴りやまない ★★★★☆

前の曲から引き続き、弾んだファンクなギターから、もう少し隙間が減り、音の密度が均質化する。緊張感が緩和してポップな感覚が強まる。軽快に曲が進んでいく。ボーカルがだいぶ落ち着いている。90年代的の高音を多用する感じ(という印象だった)から変わっている。そりゃそうだよな。けっこう洋楽的な歌メロかも。それほど日本語の母音感が強くない、意味より音として入ってくる(聞き取ろうと思えば聞き取れるけれど)。ちょっとマルーン5とか、あのあたりの感覚もある曲。

3.Gifted ★★★★☆

オルタナ的な音像に。反復されるギターリフ。ちょっとシューゲイズ的でもある。音が渦を巻くギターサウンド。反復するビート、揺らめくようなボーカル、酩酊感を生む。おお、これは90年代のグレイプバインのイメージを引き継いでいるな。USよりはUKっぽいメロディ。変わらないながらもベテランのお家芸、十八番的な凄味がある。継続は力。

4.居眠り ★★★★☆

音がフレッシュだなぁ。これだけのキャリアがあるベテランにしては音や歌い方がフレッシュ。もちろん相応の落ち着きはあるのだけれど、枯れた感じはない。まぁ、そうはいっても90年代後半デビュー組だからか。メロディがうまく展開する、シーンが変わる。最近のJ-POPはかなり進化していて、曲展開がかなり複雑化している(転調や変拍子がメロディの中に自然に入っていたり、同じキーで転調したように聞かせたり)がそうした最近の感覚を取り入れている。

5.ぬばたま ★★★★☆

ピアノ、アンビエントでリバーブが効いた、空間を埋めるピアノ。けだるいビートが入ってきてダウナーなボーカルがメロディを紡ぐ。酩酊感と漂うような浮遊感がある曲。途中からかなりプログレッシブな展開になる、スロウで酩酊感があると思っていたらやりたい放題展開していく。不思議な異物感を持った曲。

6.阿 ★★★★☆

キラキラしたキーボード音、そこにブンブンうなるベースが入ってくる。バイクのふかし音のような。そこから比較的落ち着いたビートが入ってくる。まぁ、ここから暴走ロックンロールにはならないだろうと思っていたが。浮遊感があるロック。ベースのうねりが曲を引っ張っていく。ベースリフ的な感じだな。ボーカルは高音で、浮かんだ感じ。途中からベースのうねりが途切れ、流れを断ち切るように塊感のあるギターのコードストロークが振り下ろされる。ああ、このベースはマッドチェスター感があるな。プライマルスクリームとか。間奏でやや和風、もののけ的なフレーズが出てくる。そういえば変なタイトルだなぁ。”阿”一文字だと「おもねる、へつらう」という意味になる。

7.さみだれ ★★★★☆

ミスチルみたいな感じ。日本語の載せ方とコードに対するメロディの取り方でそう感じるのかな。途中からメロディ展開が変わっていく、メロディセンスが違うからね。日本語の響きがくっきり聞こえるロックバラード。ただ、言葉の載せ方は英語的であり、意味より響きが重視されている感じもする。メロディの展開の仕方、メロディセンスは見事。きちんと音にドラマがあって盛り上がっていき、「ありがちな曲」感を越えて「いい曲」になっている。

8.josh ★★★★☆

浮遊感がある、デジタル音。今までと違ってニューウェーブ、シンセポップ感が前面に出ている。そういえばこのジャケット、ニューオーダーの権力の美学(1985)にも似ているなぁ。静物画、というだけだけれど。でも、シンセ音が主体で、裏声も入ってきてメロディがじわじわ展開していくとちょっとゴスな雰囲気も出てくるな。ニューオーダーとかキュアー的。もっと音は明るい、日本的なきめ細かさ(ヤマハサウンド、弦がキラキラした感じ、といえば伝わるだろうか、、、)もあるけれど。

9.リヴァイアサン ★★★★★

ファンタジックなタイトルの曲。伝説の水龍。曲はロックサウンド、一時期のラルクアンシエル的な感じもある。えーと、なんて曲だっけ、ああ、ドライバーズハイかな。でも、プライマルスクリームの方が近いか。マッドチェスターを通過したロックンロール、ガレージロックリバイバルな感じ。歌詞世界はブランキージェットシティみたいな、イメージを想起させる単語がいろいろと断片的に出てくる。「だまされんなよ高校生」と聞こえるから歌詞を見てみたら本当にその歌詞だった。なかなかフックがある。

10.最期にして至上の時 ★★★★☆

ピアノと幽玄なギター、その上にかなり変な言葉の載せ方をした日本語のボーカルが乗る。5.ぬばたまに近い、異質感がある変な曲。ビートが入ってくる、シンバルのチチチチという音が強調されている。揺らぐような酩酊感のある曲だけれど、ところどころ音響的に尖っていて、霞の中の火花、いや、泥の中のガラス片といった感じ。ゆだねて揺らいでいると尖った音が入っている。

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