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連載:メタル史 1980年③Judas Priest / British Steel

鋼鉄神(Metal God)の異名をとるJudas Priestが近代ヘヴィメタルを確立したとも言われるアルバム。彼らの異名である「Metal God」という曲も収録されたアルバムです。Judas Preistは1969年、バーミンガムで結成されました。同郷のBlack Sabbathの結成が68年なのでほぼ同時期。サバスのギタリストであるトニーアイオミが1948年生まれ、プリーストのグレンティプトンは1947年生まれなので年齢的にも同じぐらいです(ただ、プリーストの中ではティプトンだけ4歳ぐらい年上なので、メンバー全体で言えばサバスの方がちょっと先輩)。

Black Sabbathが1970年のデビューと共にスターダムを駆け上っていったのに比べ、Judas Priestは70年代はそれほど商業的成功には恵まれませんでした。もちろん、メジャーレーベルとの契約をずっと維持していたので一定以上の規模では活動を続けていましたが、決定打がなかった。そんな彼らが折からのN.W.O.B.H.M.ブームに乗り、一気に開花したのが本作です。

Judas Priestの特徴として、けっこうアルバムごとに音像が変わるというか、いろいろな要素を取り入れています。初期はQueen的なコーラスやめまぐるしい曲展開を目指していたし、時代時代で模索している。これが良い効果を得るときもあればなんだかとっ散らかったアルバムを作ることもあります。作曲は主にボーカリストのロブハルフォードが歌メロや歌詞を作り、メロディはグレンティプトンとKKダウニングの二人が曲を作る体制。グレンティプトンはプロデューサータイプでKKダウニングはプレイヤータイプなのかなと個人的には思っています。

1980のJudas Priest
左からKKダウニング(Gt)、イアンヒル(Ba)、ロブハルフォード(Vo)、デイヴホランド(Dr)、グレンティプトン(Gt)
出典

で、このギタリスト二人がそれほど仲が良くない。ロブハルフォードの自伝によると常にライバル意識というか緊張関係にあったようです。二人ともリードギタリストだし作曲もできるし、衝突するところもあったのでしょう。それ故なのか、「何かを取り入れよう」となったときの完成度が高いんですよね。二人で競争心みたいなものが芽生えるのかもしれません。で、極端なところまで行く。US市場を狙おうとなるとグラムメタルな曲を作り、シンセを取り入れるなら思い切り取り入れ、スラッシュメタルが流行ると強烈に攻撃的なものを生み出したりする。とにかく楽曲的には極端に変化します。その中でロブハルフォードは比較的同じテイストの歌メロや歌詞の世界観を持っている。この3つの歯車が時に噛み合い、時に軋みながら多大なエネルギーを生み出してきたバンド。本作はそんな彼らの歯車が見事に時代と噛み合った作品です。

なお、作曲面でも本作はクレジットが全曲この3人の共作。それまでのアルバムは個別にクレジットされていた(ティプトン単独曲やダウニング単独曲があった)ので、この3人ががっつりタッグを組み、一つの目標に向かって団結したのも功を奏したのかもしれません。プロデューサーはトムアロム。Black Sabbath(1970)やParanoid(1970)のプロデューサーで、1980年にはDef Leppardのデビューアルバムも手掛けています。Judas Priestとの付き合いは一つ前のライブアルバム「Unleashed in the East(1979)」から。この後、Judas Priestの黄金の80年代を支え、途中間をあけつつも「Firepower(2018)」でもタッグを組むなど長年にわたって関係を続けていくことになります。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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