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N.W.O.B.H.M.の40年:Saxon / Carpe Diem(2022、UK)

NWOBHM度 ★★★★★

Saxon(サクソン)、1977年結成、1979年デビューでN.W.O.B.H.M.を代表する存在として80年代から活躍しているバンドです。N.W.O.B.H.M.からはIron Maiden、Def Leppardが破格の成功を収めましたが、それに次ぐ位置といえばSaxon。3バンドの中だとSaxonが一番デビューも速く(他の2バンドは1980年)、最初の狼煙を上げたバンドです。少しデビューが早くキャリアも長いMotörheadが最初に成功をおさめ、それに続く形で新世代のサクソン、メイデン、レパードが次々と現れてニューウェーブオブブリティッシュヘヴィメタルというムーブメントになりました。

それぞれの主要メンバーの年齢を比べてみましょう。

Lemmy Kilmister(Motörhead) 1945年生まれ
Biff Byford(Saxon) 1951年生まれ
Steve Harris(Iron Maiden) 1956年生まれ
Joe Elliott(Def Leppard) 1959年生まれ

レミーはもともとホークウィンドでキャリアがあったので一世代上。次にサクソンのビフバイフォードが来て、スティーブハリス、ジョーエリオットは少し下です。5歳離れているので、当時のシーンの中では対バンなどがあったらSaxonがちょっと兄貴分みたいな立ち位置だったのでしょう。

デビュー当時のSaxon 出典

さて、そんなSaxonはデビューから40年以上が経った現在も活発に活動中。2022年のニューアルバム「Carpe Diem」は23枚目のアルバムで前作「Thunderbolt」から4年ぶりのリリース。とはいえ、昨年にはカバーアルバム「Inspirations」をリリースしているので久々という感じはしません。むしろこれだけのベテランにしてはかなり活発な印象。Saxonって80年代に人気を得た後90年代は一気に失速し、2000年代中盤から少しづつ人気が戻ってきたバンドです。現在は第二の黄金期というか、古くからの強固なファンベースを持ちながら新世代にも「伝説のバンド」として再発見されているという好循環に入っていますが、不遇の90年代もコンスタントに活動を続けていたのは凄い。ここで腐らず続けていたのが今の復活に繋がっているというのは生き様として勇気をもらえます。

先日の年齢理論で、ビフバイフォード(ボーカル)の人生とSaxonのディスコグラフィーを重ねてみましょう。後、本国である全英チャート順位と、長い間高評価のドイツのチャート順位も入れておきます。(-)は圏外。

28歳 Saxon (英- 独-)
29歳 Wheels of Steel (英5 独-)
29歳 Strong Arm of the Law (英11 独-)
30歳 Denim and Leather (英9 独37)
32歳 Power & the Glory (英15 独28)
33歳 Crusader (英18 独20)
34歳 Innocence Is No Excuse (英36 独33)
35歳 Rock the Nations (英34 独44)
37歳 Destiny (英49 独45)
40歳 Solid Ball of Rock (英- 独23)
41歳 Forever Free (英- 独58)
44歳 Dogs of War (英- 独55)
46歳 Unleash the Beast (英- 独61)
48歳 Metalhead (英- 独40)
50歳 Killing Ground (英- 独26)
53歳 Lionheart (英- 独44)
56歳 The Inner Sanctum (英102 独36)
58歳 Into the Labyrinth (英119 独23)
60歳 Call to Arms (英112 独18)
62歳 Sacrifice (英87 独14)
64歳 Battering Ram (英50 独12)
67歳 Thunderbolt (英29 独5)
70歳 Inspirations (英56 独10)
71歳 Carpe Diem (リリース直後のためデータなし)

もともとデビュー時点で(この時代のバンドにしては)年齢が28歳と高め。それでも全英チャート10位以内に複数の作品を送り込んでいます。そして本国UKでの人気が衰え始める(90年代のグランジ・オルタナ、そしてブリットポップブームの影響、NWOBHMの終焉の影響が直撃)時、ドイツでは人気が盛り上がっていきます。少なくとも一定の人気を保つ。こうしたパワーメタル、正統派メタル(というのはつまりNWOBHMの流れを汲むもの、だと言い換えてもいいと思います)の人気はドイツが底支えしていたことが良く分かるチャート。人生で言えば40代はドイツを中心とした欧州大陸が主たる活躍のフィールドとしてバンド生活を続け、60代になってからUKでもだんだん人気が再燃してくる。そしてドイツではチャート10位以内に入るほど人気が高まっています。これだけのキャリアがありながらまだまだメタル界の最前線で現役感バリバリでアルバムを出し続け、商業的成功も収めているのは凄い。死ぬまで現役だったMotörheadを継ぐというか、すでにビフバイフォードの年齢はレミーの享年を越えていますが、本作を聴いてもらえば分かるように並のパワーメタルシンガーよりまだまだパワフルですからね。なお、ロブハルフォードも1951年生まれなのでビフバイフォードとロブは同い年(学年で言えばビフの方が一つ上)。70代のメタルシンガーというのは凄い。これより上だとオジーオズボーン、ロバートプラント、クラウスマイネが3人とも1948年生まれなので、それに次ぐ長老です。

それだけのベテランが出したアルバム名が「Carpe Diem(カルペディエム)」というタイトルなのがまたカッコいい。一部格闘技ファンには道場名として有名ですがラテン語で「今を生きろ(今咲いている花を摘め)」という意味。この年齢のバンドになると「次」はどうなるか分かりません。「Saxonのニューアルバムが出た」というだけで聴くべきアルバム。70代のメタルバンドですよ。生きる希望が湧いてきます。

なお、余談ですがモーターヘッドの最後の映像となった「Clean Your Clock」は実はSaxonとのダブルヘッドライナーツアーでの映像なんですよね。

Saxonのライブの様子も「Live In Munich 2015」というタイトルで映像化されています。見比べると同じステージなのが分かるというか、後ろにモーターヘッドのセットがあることが分かります。

このライブ(Motorhead、Saxon、Girlschoolの3バンドのライブ)は2015年11月20日、21日に行われたもの。

Motorheadがメインに書かれたライブ告知ポスター 出典

この約1か月後にレミーは鬼籍に入ってしまうため、ほぼ最後の瞬間をとらえた作品。そこでモーターヘッドからサクソンにバトンが継がれたというのは感慨深いものがあります。このバトンを次に継ぐのは誰なのか。

それでは良いミュージックライフを。


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