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54.生命の躍動と癒しを感じるハワイ音楽 = Kimie Miner

Kimie Miner(キミエ・マイナー)は1985年生まれ、ネイティブハワイアンとポルトガル系のミュージシャンで、カイルア・コナとホノルルで育ちました。2009年にデビューし、2015年の2ndアルバム「Kimie Miner」でハワイのグラミー賞と言われるNāHōkūHanohano Awards(ナ・ホク・ハノハノ・アワード)のコンテンポラリーアルバムオブジイヤーを獲得。ハワイの新世代アーティストとして確固たる地位を築いています。デュエットしている男性(ギターボーカル)はImua Garza(イムア・ガルザ)で二人はカメハメハ高校の同級生、この曲は高校2年生の時に共作した曲だそうです。キミエとイムアは2019年に共同プロデュースで「ハワイアンララバイ」というコンピレーションアルバムをリリースし、プロデューサーとしてグラミー賞にもノミネートされました。包容力があり、どこか親しみやすい、力強さもある歌声の持ち主です。

ハワイ伝統音楽は歴史が古く、ポリネシア文化全体に影響を与えています。宗教的なチャントや踊り(フラダンス)音楽を多く含み、ウクレレやスチールギターなどの独自の楽器や、スラックギター(オープンチューニングのギター)奏法など独自の要素を持っています。アメリカ本土のカントリーミュージックでスチールギターが使われるようになったのはハワイ音楽の影響です。従来のゆったりとしたいわゆる「ハワイアン」に加えて、レゲエに通じるリズム、ロック的なダイナミズムを加えた新世代のハワイアン・ポップスが今のハワイ音楽の主流です。特徴としてはアコースティック、生楽器や生演奏、コーラスに重点が置かれていることで、あまり打ち込みによるリズムやディストーションサウンドが前面に出てきません。さわやかな南国を感じる空気感を持ちながら、現代を生きる音楽としての新しいハワイ音楽です。いわゆるハワイアン(伝統音楽、フランダンス)、現代のメインストリームであるハワイアンレゲエ(Island Reggae)、より自由にさまざまな音楽の影響を伝統楽器と組み合わせているウクレレやスラックギターなどのインスト音楽、の大きく3つのジャンルに今のハワイ音楽は分けられます。

ハワイ音楽って、場所やシチュエーションを選ばないんですよね。いつでも聞けるというか。疲れている時も、アッパーに行きたいときも聞ける。リズム・メロディー・ハーモニーがしっかりしていて、かといって極度に主張の強い強い音(打ち込みの極端な低音やディストーションや叫びなど)がほとんどない。管楽器も入っても控えめ。歌メロもずっとつながって自然に流れていきます。個人的には激しめで主張強めの音楽を聴くことが多いですが、人と過ごす時や作業中のBGMはハワイ音楽を好んで聴いています。この「時と場所を選ばず空間をやさしく満たす」感じがハワイ音楽最大の魅力かと思います。

Mike Love(マイク・ラブ)は2012年デビュー。1stアルバムの「The Change I’m Seeking」は2013年のナ・ホク・ハノハノ・アワードで「Reggae Album of the Year — 2013」を受賞しました。洗練されたハワイアンレゲエのリズムと、同郷のヒーローであるJack Johnsonの影響も感じるサーフ感、言葉の多様なリズム、そしてスラックギター奏法の影響を感じるギターと現代ハワイ音楽の美味しいところをハイブリッドしたようなサウンドを奏でています。

続いてのEKOLU(エコル)はハワイアンレゲエを代表するバンドの一つです。1995年結成、1999年デビューのベテラン。ボーカルが非常に巨体です。ナ・ホク・アワードを複数回受賞している人気バンド。あまりハワイ島以外への情報発信に熱心ではないようでMusic Videoなどもありませんが、完成度の高い音楽を奏でています。個人的には伝統音楽とハワイアンレゲエのブレンド具合が絶妙で、ハワイの空気に一番合うと思っているバンドです。

Josh Tatofi(ジョシュ・タトフィ)は2011年デビューのミュージシャン。先のMike Loveと同世代の若手です。父親のTiva Tatofiはハワイアン・レゲエのパイオニアの一つである「Kapena」のオリジナルメンバー。父親からの影響もたっぷりと受けつつより洗練された新世代の音世界を作り上げ、2016年リリースの2ndアルバム「Pua Kiele(プア・キエレ~キエレの花)」では「第40回ナ・ホク・ハノハノ・アワード(2017)」で最優秀男性ヴォーカリスト賞・最優秀アイランド・ミュージック・アルバム賞に輝き、「第60回グラミー賞(2018)」では、「ベスト・リージョナル・ルーツ・ミュージック・アルバム」にノミネートされました。

今度はお父さんの「Kapena」を。Kapenaは1986年デビューの歴史あるバンドで、残っているオリジナルメンバーはリーダーのケリー・ボーイのみ。ほかはケリーの息子・娘たちによるファミリーバンドとして活動しています。ハワイ音楽シーンにはこうした家族バンドがけっこういます。こちらは現在活動中のファミリーバンドの方ではなく、オリジナルメンバーによるリユニオンライブ。ハワイ音楽を高品質な動画と録音で世界に発信している映像プロジェクト「HI*Sessions」の企画で実現したもので、幻の再結成です。音楽を楽しんでいる姿が最高ですね。

HI*Sessions」は素晴らしいプロジェクトで、ハワイのミュージシャンのライブを高品質の映像で届けてくれます。ハワイには今まで見てもらった通りライブでの再現性が高い、というか、スタジオよりライブの方が良いアーティストが多いです。基本、ライブ音楽の人たちなので、それをきちんと撮影すれば良質の音楽コンテンツになる。2011年に開設され、高いクオリティを維持して継続し、今やハワイ音楽の最重要メディアと言っても過言ではないでしょう。以前紹介したジェイクシマブクロもこのプロジェクトの映像ですね。

伝統音楽色が強いアーティストも紹介しましょう。Holunape(ホルナペ)は2000年結成、2005年デビュー。2006年のナ・ホク・ハノハノ・アウォードの「デュオ&グループ」部門を受賞しました。メンバー3名のうち2名はカメハメハ高校の同級生とのこと。カメハメハ高校の軽音楽部(と言うのかな?)はレベル高そうですね。オールドスタイルの、祈り(チャント)やダンス性がある音楽を奏でています。一般的に「ハワイアン」というとこういう音楽を連想するかもしれません。ただ、実際ハワイの街中でよく流れているのは今まで見てきたようなハワイアンレゲエの方が多いです。観光地やホテルのショーではハワイアンも多いです。どちらも聞いていて心地よい音楽です。

ジェイク・シマブクロに続いて新世代のウクレレ・アーティストを。TAIMANE GARDNER(タイマネ・ガードナー)は1989年ハワイ・ホノルル生まれ。サモア人の母とアメリカ人の父を持ちます。5歳からウクレレをはじめて6歳にはウクレレ・コンテストで優勝。ウクレレ天才少女と呼ばれます。ウクレレでフラメンコを弾きまくるという荒業。従来のウクレレの枠にとどまらず、さまざまな音楽を弾きまくっています。ウクレレは小さいから、弾きながら踊るとカッコいいですね。絵になるアーティストです。

スラックギターもご紹介しましょう。スラックギターとはオープンチューニング、つまりどこも抑えなくて弾いてもコードの音になる、というか、まぁ自由にチューニングを変えたギターです。チューニングを変えることですこし緩くなる、だからスラック(緩い)ギターです。それぞれの家族で微妙に違うチューニングを代々受け継いでいる、という話も。このアーティストはJeff Peterson(ジェフ・ピーターソン)。オアフ島マノアのハワイ大学の元ギター教授で、オーケストラとの共演も多数。今まで9つのナ・ホク・ミュージックアワードを受賞しており、ハワイを代表するスラックギタープレイヤーです。

今日の最後は、ハワイ音楽シーンが生んだスーパースターBruno Mars(ブルーノ・マーズ)でお別れしましょう。1985年、ハワイ州ホノルル生まれ。打ち込み音主体であまりハワイ音楽の印象はありませんが、デビュー当時はハワイ的なアコースティック感のある曲もありました。この曲なんか、今日の流れで聴いてくるとまさにハワイ音楽でしょう? やはりハワイの、ホノルルの空気の中から出てきたアーティストなんだなと思います。

それではまた次回。



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