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85.北欧メロデスの歴史+フィンランドフォークメタルの始祖にして到達点 : Amorphis /HALO(2022、フィンランド)

Amorphis(アモルフィス)は1990年結成、1992年デビューのフィンランドのバンドです。バンド名の由来は「amorphous(形のない、不定形の)」という英語から。いわゆる「北欧メロディックデスメタル(メロデス)」の第一世代に数えられるバンドです。2022年、14枚目のニューアルバム「HALO」がリリースされました。このタイミングでAmorphisの歴史、北欧メロデスの歴史を紐解いてみたいと思います。

北欧メロデスとは北欧、主にスウェーデンを中心としたムーブメントです。中心地は大きく二つの都市、ストックホルムとヨーテボリ(イェテボリとも、綴りはGöteborg)。ストックホルムはスウェーデンの首都ですね。

ヨーテボリが西、ストックホルムが東

ヨーテボリは人口52万人、スウェーデン第二の都市です。ちょっと日本に例えるのが適切か分かりませんが、ストックホルムが東京ならヨーテボリは大阪みたいなものか。なお、スウェーデンの人口は約1000万人。神奈川県の人口が900万人なので全体で神奈川県よりちょっと多いかな、ぐらいですね。北欧3国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)の中ではかなり都会。言い換えればノルウェーとフィンランドはいわゆる「田舎」。

この二つの都市のうち、最初にストックホルムでいわゆる「デスメタル」のバンドが生まれてきます。だいたい1987~1988年ごろが黎明期で、最初のバンドがEmtombed(エントゥームド)やDismember(ディスメンバー)。そのルーツをたどるとUKのVenomの1st「Welcome To Hell(1981)」やUSのPossesedの「Seven Churches(1985)」あたりが挙げられますが、海の向こうのそれらのバンドより衝撃を与えたのは同じくスウェーデンのBathoryでしょう。少し「北欧メロデス以前」を前段として振り返ってみます。

1980年代から起こったヘヴィメタルの激烈化

大きく言えば80年代を通して「ヘヴィメタル」がUSでメインストリームの成功を収める中、アンダーグラウンドな世界ではよりエクストリームなメタル(より速い、より歪んだ、より攻撃的な)が生まれていました。それらはプロダクション(音質)が悪く、荒々しく、マニア向けであったけれど、それゆえにメインストリームの音楽では飽き足らない若者たちの心をつかんでいった。そうした動きが同時多発的に世界中で起こり始めたのが80年代後半~90年代前半です。

そして、そうしたエクストリームなメタルはルーツにハードコアがあることも多く、「歌」ではなく「叫び」、ギターソロの排除、メロディの排除で「音の塊」や「音圧そのもの」で圧倒するような構造のものが初期は多かった。むしろ、80年代までの「ヘヴィメタル」は基本的にはメロディアスでボーカルも「歌(いわゆるハイトーンボーカル)」が主体でしたが、ハードコアは逆だった。「叫び」と「音の塊」であり、ハードコアとメタルは全く別の音楽だったのがだんだんと「激情を表現する手段」として融合していく。そして「デスメタル」や「ブラックメタル」が生まれていきます。どちらも叫び声(デスボイスやグロウルと呼ばれる、獣の慟哭のような声)を用いていますが「メタル」の要素、つまりある程度曲構造(ギターリフなど、メタルは比較的かっちりしている)があり、メロディやギターソロも組み込まれているものが生まれる。けれど、従来のメタルに比べるとかなり表現が激烈になっています。85年当時で聞き比べてみましょう。

85年当時、メインストリームの「メタル」がこちら。

こちらは1984年の作品ですが、ヘアメタルやLAメタルではなく「メタルの主流」と言えるJudas Priestの作品。一般的なロックに比べれば激しさはありますがかなりメロディアスで曲構造もかっちりしているのが分かります。

もっと「激しい」印象のあるMetallicaも聞いてみましょう。1986年の「メタルマスター」。

いわゆる欧州的なメロディアスさではありませんし、リフ主導のためポップスの曲構造(ヴァースー(ブリッジ)ーコーラスの反復)からは逸脱していますが、かなりかっちりした曲構造を持っていますし、ボーカルはメロディアスです。

これらと「デスメタル」の源流とされるPosessedの「Seven Churches(1985)」を聞き比べてみましょう。

明らかに異質でアンダーグラウンドな雰囲気があります。こうした「エクストリームメタルの潮流」はメインストリームのメタルへのカウンターカルチャーであり、自分たちなりのアイデンティティの模索であった。「ヘヴィメタルがメインストリームになる」ということはメジャーレーベルと契約できるアーティストが増えメタルのアルバムのリリース数も増える。結果として「新しい音像」がより速く開拓されていきます。

北欧メロディックデスメタルの隆興

北欧のメロディックデスメタルは先述の通りスウェーデンで芽生えました。世界各地でより激烈な表現のメタルが発生していく過程で、北欧ではBathoryが独自の音世界を築き上げ、後に北欧ブラックメタルと呼ばれる音像を確立します。その記念碑的名盤とされているのが「under the sign of the black mark(1987)」です。

Bathoryは実質的にクォーソンというマルチアーティスト(なんでも演奏できるアーティスト)のソロプロジェクトであり、サポートミュージシャンも使っていましたがほぼすべての楽器を自分で演奏していた。それゆえに宅禄というか、流行から隔絶したホームデモのような特異さが生まれています。初期はまだ他者(特にUKのVenom)の影響も感じられましたが、それらを土台に独自の音像を確立。もともとBathory(バソリー)というバンド名の由来は「血の伯爵夫人」ことエリザベート・バートリーであり、吸血鬼伝説に基づいたオカルティックな世界観を展開していましたが、だんだんと北欧神話に接近。同時に「北欧神話の世界観」を表現するためにブリザード(猛吹雪)のような掻き鳴らすギターやブラストビート、神々の荘厳さを感じさせるシンセサイザー、欧米とは異なる(おそらくスウェーデンの民謡などに影響を受けた)土着的なメロディなどを導入。これがいわゆる「北欧メロデス」を含む北欧のエクストリームメタルの一つのひな型となります。

ここからは大きく二つの流れが生まれ、一つはスウェーデンのメロディックデスメタル。もう一つがノルウェーのブラックメタルです。ノルウェーのブラックメタルは教会放火事件や殺人事件が起こったりしてかなり陰惨。映画「ロードオブケイオス」でも描かれたシーンです。Mayhem(メイヘム)、Burzum(バーズム)など、ノルウェジアンブラックメタルの第一世代が活動を始めたのは1980年代中盤~後半であり、アルバムリリースはだいたい1990年代に入ってから。ノルウェジアンブラックメタルを語る上で良くも悪くも欠かせないMayhemの「De Mysteriis Dom Sathanas」は1994年です。これはユーロニモスとヴァーケネス(このアルバムではグリシュナック伯爵という名前で参加)が参加していて、殺人事件の加害者と被害者が共演しているといういわくつきのアルバム。

で、今回掘り下げるのは北欧メロデスです。北欧メロデスはスウェーデンが中心で、さらにストックホルムとヨーテボリという二つの中心地があった。ストックホルムの方がやや早く、中心的な存在がEmtombedDismember。そしてヨーテボリではAt The Gatesが1990年に活動を始めます。黎明期の北欧デスメタルはこんな感じ。

特徴はあるもののまだ「メロディック」さはあまりありません。ここからメロディアスさが急激に出てくるのはやはりノルウェジアンブラックメタルの影響でしょう。先ほど書いたMayhemの「De Mysteriis Dom Sathanas」や、スウェーデンのDissection(ディセクション)が死したユーロニモスに捧げたSomberlain(1993)などがメロディアスなブラックメタルのスタイルを確立させた。Bathoryが提示したひな型をより洗練させ、進化させています。かなりメロディアスになったDissectionのSomberlainを聞いてみてください。

こうした「メロディの奔流とエクストリームメタルの融合」というひな型がいくつか提示され、それを他のバンドがさらに発展させていきます。だいたい1995年ごろには北欧メロデス初期の名盤とされるアルバム、たとえばIn Flames「The Jester Race(1995)」、At The Gates「Slaughter of the Soul(1995)」、Dark Tranqullity「The Gallery(1995)」、Edge of Sanity「Purgatory Afterglow(1994)」などが出そろいます。先日、「90年代のBurrn!の影響を考える ー Burrn!は誰を表紙にしていたのか?」という記事を書き、そこで(主に日本市場から見た)90年代のメタルシーンの変遷を紐解いてみたのですが、95年といえばグランジムーブメントがひと段落した年。そこで「メタルシーンの中心」が空洞化してしまったんですが、日本においては一つの大きな潮流として「北欧メロデス」がフューチャーされてきます。マニアックな流れではありましたが、コアなメタラー(関東近郊であればディスクユニオン御茶ノ水HM館に通うような人々)の間ではこの頃すごく盛り上がっていたんですよね。この時代の空気を感じさせる1曲、In Flamesの「Moonshield」をどうぞ。「泣きのメロディ」と「デスメタル」が融合した「北欧メロデス」を具現化した曲。

また、聞いてもらえば分かるように「北欧メロデス」は決して疾走一辺倒ではありません。むしろミドルテンポのパートも多いというか、「ここぞというところだけ疾走する」感じ。ブラックメタルは基本的にブラストビートでずっとドラムが走っているのに比べるともっとミドルテンポで、曲構造もかっちり(パートパートが分かれており印象的のフレーズの反復や起承転結がある)しています。こうした北欧メロデスシーンが盛り上がりを見せる中、Amorphisも第一世代として1992年にアルバムデビューしました。

フォークメタルの一派としての北欧メロデス

北欧メロデスはスウェーデンを中心としたムーブメント、と書いてきましたが、Amorphisはフィンランドのバンドです。北欧、というとひとくくりにされるところがありますが実はスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドでそれぞれ個性が違う。その中でもフィンランドは特に文化が違います。歴史的にスウェーデン、ノルウェー、デンマークの3国はカルマル同盟という連合体を作っているなど結びつきが強い。その中でフィンランドは一時期はスウェーデン領でもありましたが、北方にすむフィン人(スオミ人)は独立の気風が高かった。そして独立運動を経て「フィンランド(フィン人の国)」となったのが今のフィンランドです。東にロシアという大国があり、スウェーデン(およびデンマーク・ノルウェー)ももともとは侵攻された側であったフィン人は独自の文化、言語、神話を持ち、それを大切にしています。北欧メタルの各国の違いについては以前下記のような記事を書いたので興味のある方はどうぞ。

北欧メタルを掘り下げる①:ノルウェー編
北欧メタルを掘り下げる②:スウェーデン前編
北欧メタルを掘り下げる③:スウェーデン後編
北欧メタルを掘り下げる④:フィンランド編

で、このAmorphisも登場時は「北欧メロデス」の一派に括られていたんですが、当時から「何か他のバンドとはちょっと違うな」という気がしていました。「泣き」の度合いも強いし、なんというかハンドメイド感というか「自分たちならではの作家性」みたいなものもある。出会った当時はそれほど「スウェーデン、ノルウェー、フィンランドで音像が違うんだ」という意識はなかったのですが、改めて聞きなおしてみるとやはりフィンランドならではの独自性というか、スウェーデンのメロデスシーンとは違うセンスを感じます。

もちろん影響は受けているというか、自分たちのアイデンティティを確立するうえで、隣国スウェーデンやノルウェーで盛り上がりつつあったメロデスのムーブメントは意識してたでしょうが、物理的に活動場所が離れているので最初の時点ではイベント等での対バンなどもなかったはず。フィンランドには「メロデスシーン」と呼べるものもなかったので、自分たちで作り上げていかなければならない。ライブもそうそう見れなかったでしょう。少し離れた場所で自分たちの音楽、「フィンランドならでは」「Amorphisならでは」の特異性を育むことになったのだろうと思います。

少し視野を広げてみると、この頃世界中のメタルシーンで「自国の伝統音楽を見直す動き」が起こっています。US、UK主導であったメタルシーンが細分化、多様化していく中でさまざまなバンドが自分のアイデンティティを見つけようとトライアンドエラーを繰り返し、そこで「自分たちならでは」のものとして自国の伝統に目を付けた。いわゆる「フォークメタル」と呼ばれるムーブメントです。フォークメタル初期の作品としてはUKのSkycladの「The Wayward Sons of Mother Earth(1991)」が挙げられます。伝統楽器(フィドルなど)を大胆に取り入れた構造でメロディアスながらボーカルはデスボイス(ダミ声強め)というスタイルを生み出しています。1曲どうぞ。

UKのバンドではありますが、バイキングミュージックの影響も強く見受けられます。もともとデスボイス(英語:Death GrowlまたはGrowl)のルーツはバイキングミュージックであると言われ、12世紀ごろの文献にもそうした記録があります。こうした「だみ声を使う歌い方」というのは世界中にあり、中央アジアにもありますね。たとえば中央アジアのこうしたデスボイスっぽい歌い方の例としてHassakをどうぞ。

ハードコア由来のがなり声、ブルースやソウル由来のシャウトなど「叫び声を音楽に取り入れる」ものは古来からありルーツとして一つには絞れませんが、いずれにせよ同時多発的に「自国の伝統音楽をエクストリームメタルに融合させる」動きが世界各地で起こり、ボーカルスタイルはグロウルが多かった。そうした世界的なフォークメタルムーブメントの中でAmorphisは生まれます。日本だと北欧メロデスがクローズアップされていたので北欧メロデスの方が大きいムーブメントに思われがちな気がしますが、広い視点で見ると北欧メロデスというムーブメント自体、当時世界中で起きていたフォークメタルムーブメントの一つ(スウェーデン版)ととらえることもできます。

「世界中で起こっていた」と書いたので、他の地域のフォークメタルの例にも少しふれておきましょう。同時期(90年代前半)に民族音楽とエクストリームメタルを融合した例としてはイスラエルのOrphand Landが思い浮かびます。結成1991年、デビューアルバム「Sahara(1994)」はかなり中東色が強く、トルコのPentagram(欧米ではMezarkabulという名前で活動)と共に「オリエンタルメタル」の先駆者です。

個人的にはAmorphisはスウェーデンのメロデス勢よりOrphaned Landと共鳴するものを感じたりします。孤高の存在というか。他にも、ブラジルではSeplturaが自国の伝統音楽を取り入れたエクストリームメタルを90年代前半から(1991年の『Arise』のAltered Stateあたりからブラジル特有のパーカッションが出始め、94年の『Chaos A.D.』では顕著に)奏で始めます。

Amorphisの歩み

Amorphisの歴史を振り返ってみましょう。

1992.Karelian Isthmus

Amorphisの結成は1990年、アルバムデビューは1992年の「Karelian Isthmus(カレリアン・イスムス)」です。上述のように世界中でフォークメタルのムーブメントが起こり始め、隣国スウェーデンではメロデスが、ノルウェーではブラックメタルシーンが立ち上がりつつあった時期。最初のアルバムではスウェーデンのメロデスシーンとの共通点が多く見られます。

カレリアン・イスムス」とはフィンランドの地名でロシアとフィンランドの古戦場。かつてはフィンランド領であり、現在はロシア領です。ロシア第二の都市サンクトペテルブルグを含む地域。あまり知られていませんが、フィンランドは第二次次大戦の日独の同盟国、つまり枢軸国でした。なぜならロシア(当時はソ連)とずっと戦争状態にあったから。ソ連に対抗するためにドイツ(とその同盟国である日本)とも同盟を結んだ。ドイツが降伏した後もソ連と継続戦争を行い、その過程でカレリアンイスムスを征服されるものの国家としては独立を保ちます。ただ、東欧諸国ほどではないにせよソ連の影響を強く受け、西欧諸国ともソ連とも一定の距離感を持つ独自路線を歩まざるを得なかった歴史を持っています。ウクライナのNATO加盟可否がクローズアップされていますが、フィンランドも同様にNATO加盟を今訴えています(が、ロシアが認めていない)。北欧三国で言えばNATO加盟国のノルウェー、中立のスウェーデン、ロシア寄りのフィンランド、とされています。そうした歴史を感じさせるタイトル。日本だと「樺太」みたいなタイトルと言えばいいでしょうか。ただ、このアルバムではAmorphisの特徴であるフィンランド神話への言及はまだ見られず、ケルト神話への言及が主に見られます。デビューアルバムからメタル音楽としての完成度は高いものの(いまだにライブで演奏される曲も多い)、「Amorphisならでは」の独自性は模索中という1枚。

Amorphisディスコグラフィー

ここでキャリア全体の見取り図としてAmorphisの年表を書いてみます。現在のメインソングライターであるEsa Holopainen(エサ・ホロパイネン)の年齢も併記します。ホロパイネンは1972年生まれ。他のメンバーも2~3歳差はあるもののだいたい同年代です。

1990年 Amorphis結成(Esa Holopainen 18歳
1992年 「The Karelian Isthmus」リリース(20歳
1994年 「Tales from the Thousand Lakes」リリース(22歳
1996年 「Elegy」リリース(24歳
1999年 「Tuonela」リリース(27歳
2001年 「Am Universum」リリース(29歳
2003年 「Far from the Sun」リリース(31歳
2006年 「Eclipse」リリース(34歳
2007年 「Silent Waters」リリース(35歳
2009年 「Skyforger」リリース(37歳
2011年 「The Beginning of Times」リリース(39歳
2013年 「Circle」リリース(41歳
2015年 「Under the Red Cloud」リリース(43歳
2018年 「Queen of Time」リリース(46歳
2022年 「Halo」リリース(50歳

メンバー変遷も見てみます。

Amorphisメンバー変遷

ギタリスト二人が創立時から変わらぬメンバーとして在籍。ベースは一時脱退(2001-2017)していたものの現在は創立メンバーが復帰しています。他のメンバーは2004年から変わらず。メンバーチェンジで影響が大きかったのはボーカル加入と交代でしょう。1995年まではリズムギタリストのTomi Koivusaari(トミ・コイヴサーリ)がボーカルを兼任していましたが95年に専任ボーカルPasi Koskinen(パシ・コスキネン)が加入。そして2004年/2005年にボーカルが現在のTomi Joutsen(トミ・ヨーツセン)に変わります(2004年のコスキネンの脱退後はしばらく次のボーカルが決まらず、ヨーツセン加入は05年になってから)。しかし、そこそこメンバーチェンジが多いにも関わらずずっとコンスタントにアルバムをリリースしているのは凄い。創作への熱量を感じます。

Amorphisの特徴として、「フィンランド神話Kalevala(カレワラ)」への言及が挙げられます。フィンランドの詩人Pekka Kainulainen(ペッカ・カイヌライネン)とタッグを組み、ある時点から全曲の作詞をカイヌライネンが担当。決まった作詞家とタッグを組むメタルアーティストは少ないですね。音楽全般で見ればエルトンジョンとバーニートーピン(作詞家)のタッグが著名ですが、同様の「全曲作詞」を(バンドメンバーではない外部の)詩人に依頼するというのは珍しい。これが独自の世界観の確立に大きく役立っている気がしますし、コンスタントにアルバムを出せる(=アルバムごとのコンセプトが次々と湧いてくる)理由の一つなのかもしれません。

1994.Tales from the Thousand Lakes

Amorphisのアルバムを振り返っていきましょう。94年の2作目、ホロパイネン22歳の時にリリースしたのが現在でも北欧メロデスの名盤とされるTales from the Thousand Lakesです。このアルバムから今につながる「カレワラ」への言及がスタート。まず、歌詞が伝統的な詩(カレワラ)から取られています。そしてクリーンボーカルの導入と専任キーボーディストの参加により音像が飛躍的に変化。北欧メロデスとは違う、独自の「フィンランドフォークメタル」を確立した名盤だと思っています。僕がAmorphisに出会ったのはこのアルバムから。

ここで目立つのが中近東的な音階(アラブ音楽)の導入なんですよね。それでOrphand landを連想するわけですね、特に文化的に近いというわけでもないんですが。フィンランドの伝統音楽というのはカレリア音楽と言われ、フィンランド人の作曲家ジャン・シベリウスの「カレリア組曲」などが著名。ただ、アラブ音楽の影響は感じません。他のフィンランドの伝統音楽を聴いてみてもアラブ音楽の影響はほとんど感じないのでカレリア音楽とアラブ音楽との融合、というのはここでAmorphisが生み出した特異なものだったと思います。1st「カレリアン・イスムス」でもよく聞けば多少アラビックというか、エスニックな音階は出てきていましたがこの2ndで一気に開花。ホロパイネンは影響を受けたギタリストにJohn McLaughlin(ジョン・マクラフリン)の名前を挙げているので、彼がインド古典音楽とジャズ・フュージョンの融合を図ったように「西洋音楽にはない音階」をロック音楽に取り入れて見せることは彼のもともとのビジョンだったのかもしれません。1994年の時点でここまで自然にこうしたエスニックな音階をエクストリームメタルに取り入れて見せたセンスは見事。ミドルテンポで奏でられるアラビックな音階が神話的、中古代からの歴史的な荘厳さを感じさせ、さらにフィンランドらしいメロディと融合することでどこかぬくもりを感じるというか、「極寒の地でふと灯される焚火」のような厳しさと暖かさがあります。特異かつ完成度の高い音像がコアなメタルファンの心をつかみ、じわじわと広がっていった結果現在では全開で25万枚のセールスを記録。こうしたジャンルでは音楽的評価でも商業的成功としても金字塔の一つと言えるアルバムです。

後、改めて聴くとこのアルバムはドラムはMetallicaのブラックアルバム(1991)の影響も受けていますね。ちょっとドラムが浮き上がって聞こえるサウンドプロダクションといいタメ気味のリズムといい、ラーズウルリッヒの影響を少し感じます。

1996.Elegy

そして2ndの成功と好評を経て専任ボーカルが加入。新ボーカルでの初アルバムElegyを1996年にリリースします。こちらは前作のアラビック+北欧メロディ+フィンランド神話の世界観、音像をさらに突き進めた内容に。また、前作が一定の成功を収めたことでプロダクションが良くなり一気に音が洗練されています。

ボーカルはグロウル部分はそこまで変化を感じませんが、クリーントーン(普通の歌い方)のところでは大きな差異が。この時のボーカル、パシ・コスキネンはちょっとジェイムスヘッドフィールドっぽさもあるんですよね。なんとなく全体としてMetallicaオマージュを感じるのがこのバンドの面白さの一つ。全体的にはメロディセンスが全然違うのでまったく違う感じなんですが、ドラムパターンやボーカル、あとはカークハメットを意識したようなギターのワウサウンドだとか、ところどころオマージュを感じてニヤリとします。このアルバムリリース時でホロパイネン24歳。まだまだ「好きなものの影響」がダイレクトも出ていますが、その中でもしっかりと独自性を持っているのは見事。ただ、ボーカルの表現力が向上したことやプロダクションが整理されたことでむしろ特異性が減った部分もあり、「聴きやすさ」は増したものの個人的な愛着としては2ndの方が好きです。なんだか前作の方が「自分たちの作りたいものに向かって無心に探求していった」感があるんですよね。このアルバムはややメインストリーム寄り。フィンランドのナショナルチャートでも8位に入るヒットとなります(前作まではチャートアクションは記録なし)。USでも15,000枚を売るなど一定の評価を得る。20代半ばにして「(欧州の中でも辺境である)フィンランドの若者たちのメタルバンド」から「世界で活躍する中堅メタルバンド」へ周囲からの評価が変化しており、そこに適応すべく背伸びしていたのかもしれません。キーボードがキム・ランタラに変わったのも影響があるのかも。キム・ランタラが作曲に関わった「4.On Rich and Poor」なんかは今までになく疾走感がある分かりやすいアンセムですし、突然ダンサブルになる「6.Cares」とかは今までにない新機軸。僕の個人的愛着はさておき、こちらも90年代北欧エクストリームメタルを語る上で名盤に挙げる人も多いであろうアルバムです。

1999.Tuonela

ここで音楽性がだいぶ変化するというか、エクストリームメタル色がかなり急激に薄まります。前作から3年の月日を経てリリースされたTuonela(トゥオネラ)はクリーントーン主体のボーカルでボーカルラインそのものがメロディアスに。曲によっては変拍子感の少ないDream Theaterみたいに聞こえる場面も。トゥオネラとはフィンランド神話の死者の領域のことであり、相変わらずフィンランド神話をテーマにしたコンセプトやところどころに差しこまれるアラビックな音階と全体としての北欧感は健在ながら一聴した感覚は前作までとかなり異なります。

これには1997年にデビューアルバム「Greatest Lovesongs Vol.666」がいきなりフィンランドで4位まで上昇したHIMの影響もあったのかもしれません。ゴシックでメロディアスなHIMが成功したことでフィンランドのメタルシーンのトレンドがそちらに移った。フィンランド出身でAmorphisとほぼ同時期に活動をスタートしたSentencedもエクストリームメタル色を薄めてゴシック色を強めたアルバムDownを1997年にリリースしており、前作から今作までの間にそうしたメロディアスなメタルがフィンランドで盛り上がりを見せておりAmorphisもその波に参加していった、という背景があったのかもしれません。ただ、この路線変更は日本では受けなかった。前作「Elegy」はオリコン78位に入るなど一定の評価と存在感があったのですが、このアルバムからしばらくAmorphisを聞いていなかった、というメタラーも多いのでは。1999年にはフィンランドのChildren of bodomが2ndアルバムにして名盤「Hatebreeder」をリリースした年でもあり、こちらはいわゆるジャーマンメロディックスピードメタル(Helloweenとか)のような疾走感を持ちながら北欧メロデス感を持っており、日本での「フィンランド出身の北欧メロデス」の代表格に躍り出ます。そんなこともあって日本では話題にならず。フィンランド本国では前作と同じ8位、USでも13,000枚程度を売り上げるなど本国やUSでは前作とほぼ同程度の成功を収めたのですが、日本では失速します。今聞いてもちょっとエッジには欠ける印象はありますが、決して悪いアルバムではありません。ホロパイネン27歳。手に入れた成功の維持、バンドの活動規模の維持のために過去に安住するのではなく果敢に変化していく過程が伺えます。ただ、Amorphisは音像は時代時代で結構変化していくんですが、基本的なメロディセンスとか空気感は連続しているんですよね。それが長年人気を保っている秘訣なのかもしれません。キャリア全体で言えばやや自分たちの音楽性に迷っている時期と言える作品。このアルバムを最後に創立メンバーであったベーシストのオリ・ペッカ・レインがバンドを離脱します。

2001.Am Universum

2年の時を経てリリースされたAm Universum(アム・ユニヴァーサム)。Universumはユニヴァースのラテン語。前作の方向性をさらに推し進め、より一般的な「ハードロックサウンド」になっています。プログレ色も強く、アルバムのオープニングはPink Floydのディヴィッドギルモアのギターを想起させます。曲中にもサックスソロが出てきたり、プログレハード的な音像とも言えるかも。ただ、メロディセンスは健在でむしろ前作より突き抜けていてバンドサウンドそのものはイキイキしています。

「北欧メロデス」を期待して聴くと肩透かしですが、いわゆる「メロディアスな北欧ハードロック」を聴きたい人には今聞くと「いいじゃんこれ!」となるかも。フィンランド的なメロディも満載です。やっぱり根本的に作曲能力が高いのがこのバンドの魅力なんでしょうね。ソングライターが常に複数名いて、メインソングライターはエサ・ホロパイネンですが他のメンバーも積極的に参加しています。これはドイツのHelloweenにも近いですね。Helloweenもメインソングライター(的な立ち位置)のマイケルヴァイカートだけでなく常に作曲できるメンバーがいて、途中加入したアンディデリスも素晴らしいメロディメイカー。こうした「複数名のソングライターがいるバンド」はバンド内で化学反応や競争が起きるのか曲の水準が保たれている気がします。作曲面でこのアルバムで特筆すべきはキーボーディストがSanteri Kallio(サンテリ・カリオ)に変わったこと。カリオは現在まで在籍するキーボーディストで、今ではホロパイネンと並ぶメインソングライターの一人です。同じぐらい作曲に貢献している。このアルバムは作曲のクレジットが全曲「Amorphis」名義なんですよね。それまでは併記であっても「誰が作曲したか」が明示されていたのに、そこは大きな変化。多少うがった推測ですが、これはバンドでジャムセッションをしながら皆で作っていったというより、新加入したカリオの貢献が大きかったんじゃないか。だけれど、加入したばかりだから単独クレジットを与えなかったんじゃないか、とも思えます。作曲クレジットってそのバンドの力関係を一番分かりやすく表すものの一つだと思っていて、基本的に今までのアルバムだと創立メンバーのうちの誰かがクレジットされていたんですよね。キーボーディスト作曲はあっても1曲、みたいな。おそらく、カリオが才能にあふれていてどんどん曲を持ってくる(最近のアルバムを見るとホロパイネンと曲数でほぼ拮抗している)、けれどAmorphisに入ったばかりだしまだなじまない部分もあるので、皆で練り上げるという形を取った。だからバンド名義のクレジットになったのかな、と思います。音像的にはかなり角が取れてしまっていますが、改めて聞きなおしてみると曲はいいアルバムです。ベーシストの交代もサウンドには影響を与えていますが、それよりはカリオ加入による新鮮なメロディセンスの導入に耳を惹かれます。ホロパイネン29歳、20代最後のアルバム。もしかしたらこの時は「グロウルとかデスメタルは若いうちだけのもので、もうすぐ30なのだからもっと大人な音楽性に変化しなきゃ」とかも思っていたのかもしれません。このアルバムの頃は日本での存在感はかなり低迷していた気がしますがフィンランドのナショナルチャートでは4位まで上昇。フィンランド国内の「メロディアスなハードロック」ブームにはうまく乗っています。

2003.Far from the Sun

2年の間を経てニューアルバムリリース。ここでドラマーがメンバーチェンジし、創立メンバーでもあったジャン・レヒベルガーが戻ってきています。フィンランド(というか北欧全般)のバンドって入れ替わりは激しいのですがけっこう友好関係を保つというか、一つのコミュニティの中で生活スタイルに合わせて脱退や復帰を繰り返している印象。ビジネス上の深刻なトラブルで喧嘩別れ、みたいなものよりは「その時の生活や嗜好に合わせて脱退や復帰をする」という側面が強い気がします。Amorphisのように一定以上の規模で活動するバンドはワールドツアーもあるし、ライフスタイルとして年の半分ぐらい家を空けることもありますからね。ライフステージによっては参加継続が難しくなることもあるのでしょう。

さて、本作は前作と同じくモダンなハードロックという印象、北欧色も薄まってよりメインストリーム色が強くなった感じもします。アラビックなテイストなどAmorphisらしさも残っていますが、なんだかキャッチーな感じ。メロディックハードロック(メロハー)的とすら言えます。ギターサウンドとかはそこそこヘヴィなんですが、ボーカルスタイルと歌メロはけっこう爽やかでキャッチー。なんというか「グランジを通過したUSハードロックバンド」という感じで、00年代前半のUSで流行っていそうな感じです。アルバム途中からはストーナーロック感も出てきます。当時、Queens of The Stone AgeのSongs for the Deaf(2002)がUSでヒットしていたからその影響かもしれません。

前作「Am Universum」はおそらくUSでの活動拡大も狙った路線だったのでしょうが売上は1万枚を切り前々作を下回る結果に。挽回も狙っていたのかもしれません。ただ、本作はさらにUSではセールスが落ちてしまった様子で、フィンランドでも7位と前作を下回る最高順位に。この結果を受けてか、ボーカルであったパシ・コスキネンが脱退してしまいます。コスキネンはTuonela(1999)以降のアルバムほぼすべての曲の作詞もしていましたし、バンドのコンセプトを決める上でかなりの影響力を持っていたと思われ、おそらくバンドのメインストリーム指向、メロディックハードロック的な路線はコスキネンの意思もあったと思われます。それが脱退したということはこの路線での限界を感じたのかもしれません。ホロパイネン31歳、20代の終わりと共にAmorphisの一つの時代も終わりを告げます。この時期の迷走を感じさせるかのように、2000年と2003年に立て続けにベストアルバムを出しています。初期のメロデス路線、メロデスにフォークメタルを加えた独自路線までは良かったものの、そこから専任ボーカルを迎えメインストリームに近づいていき、下手に成功してしまった分期待されるプレッシャーに応え続けたようとした20代だったのかな、、、と。ベストアルバムを立て続けにリリースしたのも契約上の問題などでしょう。まぁ、この辺りのバンドストーリーはインタビューなどで本人が話しているわけではないので僕の勝手な物語ですが、バンドを追っていく楽しみってそこに自分や知人の人生を重ねたり、何等か共通するものを見出して共感することだと思うんですよね。20代後半の自分や知人の話を重ねると「ちょっと仕事で成果が出始めた20代後半はとにかくがむしゃらだったけど今思うと迷走していた部分もあったなぁ」と思ったり。1999年から2003年までの3作はAmorphis史の中ではやや迷走期だったと位置づけてしまって良いでしょう。辛口レビューなRYMでも似たような評価

2006.Eclipse

原点回帰、復活の1作。ボーカルがトミ・ヨーツセンに変わり、ベース以外は現在まで続くラインナップが完成。音楽的にもメロデスというかグロウルボーカルが復活。これは大きい。音像にも荒々しさが戻ってきます。とはいえ今までのメインストリームで通用する力強いメロディは健在で、アリーナロック的なスケール感もありつつしっかりとエクストリームメタルへ回帰した作品。歌詞もボーカリストが自作するのではなくフィンランドでは有名な詩人Paavo Juhani Haavikko(パーヴォ・ハーヴェッコ)の1982年の作品から借用しています。彼らの変わらぬテーマであるフィンランド神話のカレワラに描かれた悲劇の人物クレルヴォをテーマにした作品。コンセプト的にも音像的にも原点回帰、というイメージ。1996年のElegyに近いというか、Tales from the Thousand Lakesから「その路線のままで進化したらどうなっていたか」というifを2006年時点のAmorphisが体現してみせたような作品。この作品はコアなメタラーからすでに過去のバンドとして扱われていたAmorphisを再び注目させることになります。

また、フィンランド本国でもAmorphisの復活、自らの特異性を取り戻した音像は高い支持を集め、初のナショナルチャート1位を獲得。完全復活を遂げます。日本でも160位という順位ながら久しぶりにランクイン。前作まではVirgine、EMIというメジャーレーベルと契約していましたが本作からはドイツのニュークリアブラストと契約したのも大きかったのかも。コアなヘヴィメタル専門レーベルですからね。そこで自分たちならではのユニークな音像、コアなメタルコミュニティに向けたAmorphisの魅力の再発見が行われたのでしょう。また、前3作では作曲クレジットがAmorphisというバンド名義になっていたのが各作曲家個別名に戻っています。ここで前面に出てきたのがキーボーディストのカリオ。4曲に参加、3曲は単独曲とホロパイネンに次ぐソングライターであったことが判明します。前作から本作までの間にバンド内では様々な話し合いが成され、方向性を模索し、結果として原点回帰を感じさせながらも「次のAmorphis」を音楽的にも体制的にも、そして契約的(新しいレーベル)にも築き上げ、新しい環境での旅立ちとなる作品。それが商業的にも成功したというのは感動的な物語です。ホロパイネン34歳の時。ここからAmorphisの第二の黄金期がスタートします。

2007.Silent Waters

前作の成功がよほどうれしかった&アイデアが湧き出てきたのでしょう。前作から1年のインターバルというAmorphis史上最も短いインターバルでリリースされたアルバム。このアルバムで特筆すべきは作詞が全曲詩人ペッカ・カイヌライネンが担当していること。これ以降の全アルバムで、基本的にカイヌライネンが作詞を担当するようになります。元はフィンランド語の詩を英訳したものだそうで、テーマはカレワラに登場する英雄であるレミンカイネン(Lemminkäinen)の物語。これがバンドの再生と高揚感を表しているような素晴らしい出来で、新生Amorphisの評判をさらに高めます。

しかし、新ボーカルのトミ・ヨーツセンは「ボーカリスト」に専念するタイプのようですね。作詞作曲などにはかかわらず、仕事人的な立ち位置でボーカルに専念。それが結果としてAmorphisのバランスを好転させたのでしょう。チームワークというのは「できること」がぶつかりすぎてもいけないし、皆がバラバラでもいけない。その後のコンスタントなリリースと高い水準での音楽的クオリティの維持をこのチームの相性はかなり良い。Amorphisのいいところは適度にプログレッシブだし、適度にアグレッションも高いのだけれどどこか人懐っこいというか、口ずさめるような歌メロがあるところなんですよね。分かりやすい。この歌メロのセンスは迷走期と言ってしまったものの1999-2003の間の「歌モノ3部作」で培われたセンスだと思うし、Virgin/EMIというメジャーレーベルでの下でUSマーケットにチャレンジした経験が活かされていると思います。この頃になると当初から持っているアラビックな音階のセンスなどもすっかりこなれており唐突感や異物感はない。そこにメロディックハードロック的なセンスやUSのメインストリームメタル的な同時代性も意識しつつ、しっかり「自分たちの歴史」を踏まえた音像になっていて「Amorphis印のサウンド」として堂々とした風格すら感じるようになっています。ホロパイネン35歳。波に乗っています。このアルバムはフィンランドチャートでは最高位3位と前作より最高位は落としたものの売上そのものは20,000枚近くをフィンランド国内だけで売り上げており国内売上では1位の様子。フィンランドはそれほど市場として大きいわけではありませんが、メタル大国ドイツでも順位を上げて44位にチャートイン。これはドイツのレーベルであるニュークリアブラストからのリリースということも大きいでしょう。日本でも74位にチャートイン。

2009.Skyforger

成功をおさめた前作の路線を引き継ぎつつ、よりTales~の頃の「かきむしられるようなメロディ感覚」が戻ってきた中期の名作。ギターのメロディとボーカルのメロディラインが絡み合う感覚が強まっており、初期にあった「極寒の地でふと灯される焚火」のような独特の厳しさと優しさの感覚が戻ってきています。プログレ的な要素もあるんですが、プログレと言っても強いのは(ロジャーウォーターズが抜けた後の)Pink Floyd的な浮遊感と抒情性なんですよね。歌心があるギターフレーズとボーカルライン。

本作も前作同様、作詞は全曲を詩人カイヌライネンが担当。カレワラから鍛冶の神であるイルマリネンを中心とした物語が描かれます。「一人の人物(神)から見た物語」であり、カレワラの中のいくつかのエピソードが描かれるスタイル。作曲面では全10曲中ホロパイネン4曲、カリオ4曲とソングライターがすっかり2枚看板に。あとは初期からセカンドソングライターであったコイヴサーリが1曲、ボーカルのジョーステンも1曲(10.From Earth I Rose)を提供。ジョーステンも作曲するんですね。今回は共作はなくそれぞれが曲を持ち寄るスタイル。その分バラエティがあるというか、キャラクターが立った楽曲が揃っています。ホロパイネン37歳。デビューから17年たち、すっかりベテランの風格です。フィンランドでは再び1位獲得、ドイツ55位、日本65位。

2010.Magic&Mayhem – Tales from the Early Years

こちらはオリジナルアルバムではなく、初期3枚(カレリアンイスムス、テイルズ~、エレジー)から選んだ曲を新ボーカル、新体制でレコーディングしなおしたアルバム。ニュークリアブラストに移籍して、新しいレーベルでも音源を利用しやすいようにリレコーディングしたのかもしれませんし(そういう例は他のアーティストでも散見されます)、バンドの状態が良いからもう一度初期の作品を録音しなおそうと思ったのかもしれません。いずれにせよ、文字通りの「原点回帰」。初期の曲を演奏するとやはり荒々しいですね。完全なメロデススタイルの1stからの曲が一番強烈に生まれ変わっています。

ホロパイネン38歳、そろそろ40代が近づいてきます。本作は企画盤ながらフィンランドチャートで8位にチャートイン。なお、これだけ人気がありながらベスト盤はぜんぜんチャートインしないんですよね。ライト層があまりおらず、コアなファンが多いのでしょう。だからベスト盤よりオリジナルアルバムを買ってしまってベスト盤の需要はあまりないのかも。本作は「再録盤」なのでファンの購買意欲を刺激したと思われます。

2011.The Beginning of Times

スタジオアルバムからは前作「Skyforger」から2年ぶりですが再録盤を挟んでいるので実質1年ぶり。もうかなりのベテランなのにハイペースなリリースですね。日本のバンドに近い多作ぶり。初期作品のリレコーディングで初期の荒々しさに戻るかと思いきや、確かにギターサウンドやボーカルスタイルは荒々しさが増している(グロウルパートが増えた)ように感じるところもあるものの、よりプログレ的というか抒情的なメロディが強調されています。いつのまにかアラビックな要素はかなり後退し、カレワラ音楽的、フィンランドの伝統音楽に近づいている感覚もあります。初期の頃は20代前半で、手探りで「神話を表すのにふさわしい音」を探した結果偶然たどり着いたのがアラブ音楽だったのかも。音楽的知識と経験が豊富になったこのころでは「フィンランドの伝統音楽とはどのような音階、音楽か」ということも理解して使いこなすようになったのかもしれません。

本作もカレワラがテーマで、今回の主人公はカレワラの主要な英雄、半神であるワイナミョイネン(Väinämöinen)です。ワイナミョイネンを聖歌、歌、詩の神であり、カレワラの多くの物語でワイナミョイネンは世界誕生の中心人物とされています。カレワラは(他の神話もそうであるように)各地で口伝された伝承の集合体であり、同じ登場人物を共有する数多の物語があります。本作は主要人物を扱ったにふさわしい堂々たる出来。ボーカルラインはかなりメロディアスでグロウルなどの攻撃性も一部味付けとして残ってはいるものの全体的にはかなり聞きやすい音像。独自の大衆性を持っています。フィンランドでは安定の1位。ドイツでも16位まで上昇し日本でも37位と最高位を記録。商業的成功も収めます。ホロパイネン39歳、30代最後のアルバム。このアルバムでは13曲(ボーナストラック1曲含む)のうちカリオ6曲、ホロパイネン5曲とついにカリオが作曲数1位に。いいアルバムですがこの時はややホロパイネンが不調だったのかも知れません。カリオの方がアリーナロック的というかメインストリーム的な曲を書くんですよね。ホロパイネンの方がAmorphisらしい曲を書きます。この両方のバランスが魅力ですが、ややカリオ色が強いアルバム。

2013.Circle

前作から2年のブランクを経てリリースされたアルバム。このアルバムは変わらず詩人カイヌライネンが全曲の作詞を担当していますが、テーマがカレワラではなく独自の物語。前作が一つの到達点だったとバンド自身が感じ、新たな可能性を模索したかったのかもしれません。あるいはホロパイネンがなんとなくのスランプやマンネリを打破したかったのかも。

どこかフレッシュな感覚もある音像。作曲クレジットでは全9曲中ホロパイネンが5曲、カリオ3曲、コイヴサーリ1曲。ホロパイネン色が強まっています。ホロパイネン41歳、何かプライベートで岐路に立っていたのかもしれません。40代になる時っていろいろ起きたりしますからね。何があったにせよ、前作と違ってホロパイネンがクリエイティブ面での主導権を握ったと思われるアルバム。カレワラから一度離れてみたことで新しいコンセプトや意欲が出てきたのかもしれません。アルバムの内容はカイヌライネンによれば「出生時に悪の手に落ちた主人公が自分の内なる力に目覚め、自分の運命を切り開いていく」という物語だそう。あとは、プロデューサーをスウェーデンメタルシーンの重鎮ピーター・テクレン(デスメタルバンドHypocrisyの中心メンバーでプロデューサーとしても著名)が担当。それも音の傾向が変わった一因かもしれません。ケルティックな音階の「4.Narrow Path」は印象的。カリオ作の曲は一聴で分かりやすいキャッチーさがあります。フィンランドではオリジナルアルバム3作連続1位、ドイツでも13位とさらに上昇。日本37位。オーストラリアやスイス、USヒートシーカーズ(ビルボードの中のネクストブレイクアーティストみたいな位置づけのチャート)でも50位以内にランクイン。USでも再び少しづつ存在感が増している様子です。

2015.Under the Red Cloud

40代も創作意欲は変わらずコンスタントに作品を発表。これって凄いことですよね。バンドというのはベンチャー企業に近い性質を持っていて、夢を持った(たいていの場合)若者たちが集まって一つの事業を始める。ベンチャー企業の10年生存率は6.3%、20年になるとなんと0.3%だそう(出典)。これ、「一応契約してデビューまでこぎつけたバンド」で考えてみても同じような割合になるかもしれません。この時点でAmorphisはデビュー23年。0.3%の壁を越えていますね。ただ、メタルバンドってなんだかんだデビューまでこぎつけたバンドはなんだかんだもっと生き延びている気もしますが…。「デビューできなかったバンド」まで含める方がいいかもしれませんね。デビューできる時点でかなり選定されているので。いずれにせよ、20年を超えて安定して活動し続けるメタルバンドは希少だし、コンスタントに作品を出せるアーティストは自分たちなりの作風と音楽的語法が確立されています。なので正直2006年以降のAmorphisに大きなハズレ作なし。しかもそれぞれのアルバムで強いマンネリズムに陥らず、それぞれフレッシュに聞こえる箇所が盛り込まれているのは流石。「変化しすぎず、新機軸も取り入れつつ」というバランス感覚に優れています。

プロデューサーはスウェーデン出身のイェンス・ボグレンが担当。Opeth、Dimmu Borgir、Sepultura、Arch Enemy、At the Gates、Katatonia、Soilwork、ihsahn、DarkTranquilityなど幅広く手掛けており、北欧のレコーディングエンジニア/メタルプロデューサーとしては実績がある若手。1979年生まれなのでAmorphisのメンバーより若手です。これだけ実績と経験があるバンドなのにずっと外部プロデューサーを入れているのも「適度な変化」を求め続けている証左でしょう。その気になればセルフプロデュースできるでしょうが、それだと新規性が生まれづらくなる。外部の血を導入し続けることこそアルバムごとに音像にフレッシュさがある秘訣かも。ホロパイネン43歳。本作も前作に続き、詩人カイヌライネンが全曲の作詞をしていますが大自然と人間のかかわりなどがテーマとされていてカレワラからは離れています。2005年以降安定していたラインナップですが、このアルバムリリース後にベースのNiklas Etelävuoriが脱退、創設メンバーのOPレインが復帰することになります。チャートアクションはフィンランド2位、1位にはなれませんでしたが人気が衰えたというよりリリースのタイミングでもっと人気のアーティストがいただけでしょう。ドイツ10位、日本39位、フランスでも85位にチャートイン。各種メタルフェスにも常連として定着し、欧州全体で安定して人気が高まっています。作曲クレジットも10曲中ホロパイネン5曲、カリオ4曲、コイヴサーリ1曲と従来通りのバランス。一つ一つのボーカルメロディ、ギターメロディの入って来方、展開などが匠の域。アラビック色が強い「5.Death Of A King」も収録。

2018.Queen Of Time

いきなりシンセサイザーのシーケンスからスタートする本作。少しデジタル色が強まったような印象を受けます。毎回、オープニングで「違った感じ」を出すのが上手い。「新しいアルバムが始まるぞ」という期待感を作っています。本作のトピックは創立時のベーシスト、オッリ・ペッカ・レイン(O.P.レイン)の復帰。これでリードギター、リズムギター、ベース、ドラムの4名が創設時のメンバーに戻ったことになります。キーボード、ボーカルは創立時はいなかったので、原点回帰。このメンバーが揃うのは94年のTales~以来。24年の時を経て同じラインナップで再度アルバムをリリースしたことになります。

音像としてはやや浮遊感が増した音作り、ヘヴィなパートはヘヴィに、幽玄な響きのパートはより浮遊感が強まりメリハリが強化。プロデューサーは前作から続けてイェンス・ボグレン。作曲クレジットでは少し変化がありホロパイネン5曲、カリオ5曲と2人のメインソングライターが分け合っていてコイヴサーリの参加はなし。ソングライター二人ががっつりぶつかり合う構成になっています。ホロパイネン46歳。ベテランの風格。制作チームは前作と同じながら前作と同じかというと音的にはけっこう冒険的というか、アラビックな音階の取り入れ方なども目立つようになり、ホロパイネン的には創立メンバーに戻ったこともあってか原点回帰的な試みも感じられます。チャートアクションはフィンランドでは1位獲得。ドイツで4位、スイスで3位と欧州大陸でも人気が不動のものとなりつつあります。ドイツで4位は凄い。このアルバムは荘厳さや抒情性の深みが増しているように感じるんですよね。フィンランドではディスコ的なサウンドというか、シンセサウンドを取り入れたちょっとダンサブルなメタルがこの頃から盛り上がっている印象ですが(Beast In BlackBattle Beastなど)、シンセサウンドからスタートする本作はそのあたりも意識してみたのかも。時代時代の音を「ちょっと取り入れる」のも流石。これだけ多作ながらアルバムそれぞれに個性と魅力があります。本作も作詞は詩人カイヌライネンが担当。一部歌詞にラテン語も取り入れられており、ラテン語への翻訳はAngraのラフェエル・ビッテンコートが協力したそう。「9.Amongst Stars」では元Gatheringの女性ボーカリストAnneke van Giersbergenをフューチャーしています。全体的にはAmorphisの近年の作風を保ちつつフォークメタル、ゴシック色が強まったアルバムと言えるかもしれません。

2022.Halo

そして2022年、3年ぶりのニューアルバム「Halo」がリリースされました。これがまた絶妙なバランス。荘厳なイントロからスタートする本作はUnder The Red Cloud(2015)から続く3部作の完結編という位置づけ。メンバーは前作と変わらず、プロデューサーもイェンス・ホグレンです。プロダクションも良好でドラマティックな音世界に十全に酔いしれることのできる名盤。

揺れては返す、波のようなリズム。どこかダンサブル(ダンスミュージック的なリズム、クラブミュージックではなくもっとプリミティブなダンス。ロックンロールももともとマンボの派生だったという捉え方もできる)なビート。体が揺れたり動くようなリズムがあるのがこのバンドの特徴ですね。それほどグルーヴィだったりダンサブルさが前面に出ているわけではないのですが、リズム隊が強靭でノリが直線的ではないというか、自然体でしなやかなリズムが心地よい。このリズム感覚はこのバンドの強みな気がします。聞いていて聞き飽きない、新鮮な感じがするのはリズムが強靭だからもあるでしょう。本作でホロパイネンも50歳。30代半ばで自分たちのスタイルを確立した後は30代、40代と変わらぬ速度で駆け抜けてきました。

改めて考えると、アルバムごとに微妙に新機軸を入れたりサウンドプロダクションを洗練させたりしてきましたが全体としてはいつもと変わらぬ「Amorphis節」に聞こえるのは、そもそもかなり多様な音楽を混交してできている音像だからですね。ゴシックメタル、USハードロック、デスメタル、アリーナロック、プログレッシブロック、フォークメタルといった音像を取り入れ、メロディセンスもいわゆるメロハー的なキャッチーなパートからカレリア音楽、アラブ音楽といった土着的な音階まで幅広く使いこなす多様性と、それらを親しみやすい音楽として「一定以上に複雑にしない」範囲でまとめ上げる大衆性=ミーハー感覚こそがAmorphisの神髄。時代時代でフィンランドやUS、欧州などその時々に主戦場としているメタルシーンで流行っていた音楽・要素を節操なく取り入れていった結果として音楽性が拡張し、そこに一貫して「揺れるようなリズム感」と「独自のメロディセンス」を加えることで自分たちの音が連続している=一貫している”ように”聞かせている。凄いバンドです。「Eclipse以降、音像があまり変わらない」みたいな評価もありますが、確かに目立って目新しい要素はない。けれど、逆に考えればその時点で「その後のメタルシーンのトレンドのほとんど」を取り込んだ音を完成させていた、とも言える。トレンドに合わせて変化しないとトップバンドでは居続けられないですからね。時代時代でその時々のトレンドに合わせて音像を変化させているのに「いつものAmorphis」に聞こえるというのは、「いつものAmorphis」のスタイルが非常に広い範囲をカバーしているからに他なりません。これはキャリアが長く、且つ「音像があまり変わっていない」印象のバンド全般に言えることですね。よく聞くとけっこう時代時代で変わっているのに同じに聞こえる印象がある、良質で信頼できるメタルバンド。こういうバンドがメタルシーンを底支えしているのでしょう。今回、全アルバムを聴き返してみて思いましたがほとんどのアルバムがそれぞれ異なる魅力がありつつしっかりと繋がっている。バンドの歴史を追いかけながらアルバムを聴くのが楽しくて「次はどんな感じになるのだろう」がワクワクしました。あと、メインソングライターが複数いる、というのもやはり良いですね。

最初はニューアルバムのレビューだけを書こうと思っていたのですが、ふと北欧メロデスを掘り下げ始めて気が付いたらAmorphisの全歴史をたどっていました。面白かった。こうして一つのバンドをじっくり聞きなおすのも良いものですね。

本当は昨年、Amorphis結成30周年を記念して来日公演が予定されていたんですよね。それも10年ごとの区切りでそれぞれの時代だけを演奏する3日間の公演という非常に面白い企画。

残念ながら中止になってしまいましたがいずれ実現してほしいものです。

それでは良いミュージックライフを。


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