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83.Apple Musicチャートで旅する世界の音楽 / 5大陸15都市巡り

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連休中ですし、音楽で世界旅行をしてみましょう。

Apple Musicには「都市別トップ25」があります。世界各地の都市で一番聞かれている25曲。日本にいながらにしてリアルタイムで世界中の音楽シーンの流行がわかるという優れもの。以前、YouTubeの音楽ランキングで似た企画をやってみましたが、今回はApple Musicでやってみたいと思います。前回は「非英語圏」でやっていきましたが、今回は「独自の音楽シーンの中心地」を見ていきましょう。各都市の2021年7月23日時点のトップ1を見ていきます。

まずは世界トップの音楽市場、USから。NYのトップ25はどうなっているでしょうか。

ニューヨーク:Capella Grey / GYALIS

カペラグレイのギャリス。ソウルフル、R&Bで今時っぽいサウンドですがあまり情報がないですねこのアーティスト。ピッチフォークでは取り上げられていますが、2分弱の曲。うーん、公式MVが削除されている? なぜバズっているのか不明ですが。ほかの曲も見てみるとほとんどが2分程度なんですね。このシンプルさが受けているのだろうか。

なお、ランキングへのリンクも貼っておきますがこちらは毎日更新なので曲は入れ替わっていきます。

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続いて日本。東京。

東京:BTS (방탄소년단) / Permission to Dance

大人気のBTS。夏らしい曲。でもK-POPって洗練されましたよね。メロディや音数が多めでゴージャス感があるのはアイドル文化か。ボーカリストも多くて派手な感じがあります。Apple MusicではBTS強いですね。前に見た時も日本各地の都市で1位でした。アジア圏で人気。BTS(防弾少年団=Bangtan Sonyeondan)は2017年から活動する7人組の韓国のアイドルグループ。世界中で人気ですがチャートから見るにアジア圏で特に強い。

しかし、これだけの巨大な音楽マーケットを持っている国で他国のアーティストが長い間1位というのはなかなか珍しい現象です。たいてい、自国で一定以上の規模の音楽市場(と独自言語)を持っている国は一時的に国外アーティストが首位をとっても、たいていはその国のアーティストが上位に来るもの。日本におけるBTS人気の凄まじさを感じます。

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さて、次はUK、ロンドンを見てみましょう。

ロンドン:Ed Sheeran / Bad Habits

UKではエドシーランが1位。2004年デビューで今までリリースした全アルバムが世界中で大ヒット。イギリス出身のSSWで2017年に女王陛下から叙勲もされています。UKは伝統的にロックミュージックは重要な輸出産業であり、現在のUKシーンで世界で一番人気があるのはエドシーランとAdeleでしょうか。Bad Habit(悪い習慣)。夜になると出てくる狂乱? 別人格? を描いたようなMVが凝っています。バリバリタトゥーが入ってハードコアなロックスター然としたルックスですが音楽はポップ。

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それではドイツ、ベルリンへ。

ベルリン:Pashanim / Sommergewitter

Pashanim(パシャニム)はドイツのラッパー、トルコ人とのハーフです。ラッパーであると同時の映像監督でもあり、自分のMVは自作。ストリート感のあるMV。Tiktokから火が付いたようですね。2020年にデビューEPを出したばかりの新人。言葉の響きだけで言うと最初フレンチラップかと思いましたがドイツ語。ドイツ語のラップって初めて聞いた気がしますが、意外と柔らかい響きになるんですね。

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続いてフランス、パリへ。

パリ:Koba LaD / Daddy chocolat Feat. Gazo

Koba LaD(コバ・ラッド)はフランスのラッパー。コバは猿の惑星の登場猿から、LaDは「la débrouille、la détaille、la défonce」の意味。翻訳すると機知・詳細・高価という意味? 何かの言い回しなのかもしれません。2018年デビューで、毎年1枚アルバムを出し2021年に4枚目のアルバムをリリース。コンゴにルーツを持つフランス人ラッパー。移民ですね。歌詞はセクシャルなもの。彼女は俺をチョコレートパパと呼ぶ。フランス語のラップだとOrelSanは好きですが、アフリカ系だと少し粘り気が違いますね。ただ、独特の哀愁がある響きは通じるものがあります。

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次はスペイン、マドリード。

マドリード:Rauw Alejandro / Todo de Ti

Rauw Alejandro(ラウ・アレハンドロ)、ラテンポップの新星が1位。ラテン音楽は近年レゲトンの強い影響下にありましたが、レゲトンからの影響をあまり感じさせないパワーポップ。ラテン音楽界では革命的な曲、ニューウェーブだとされているようです。米ローリングストーン誌がラテン音楽におけるレゲトンブームの功罪とラウがもたらす多様性について書いた記事「ラウ・アレハンドロがもたらす新たな多様性 ポスト・レゲトンへと突入するラテン音楽の今」(日本語)。

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続いてイタリア、ローマへ。

ローマ:BLANCO, Sfera Ebbasta / MI FAI IMPAZZIRE

やはりイタリアはメロディアスですね。出だしのイントロこそドイツ、フランスと近く、メロウなヒップホップ、ソウル系かなと思ったら歌が入ると全然違う、ポストパンク、ニューウェーブ的なシンセポップ。モーネスキンのユーロビジョン制覇からロック的な音が流行っているのか、変わらずこういう音像が好きなのかは不明ですが、かっこいい曲。BLANCO(ブランコ)とSfera Ebbasta(スフェラ・エヴァスタ)のコラボ。スフェラは何度もイタリアのナショナルチャートで1位を獲得するなど著名なイタリア人ラッパーのようですがブランコはあまり情報が出てこず。まだEPしか出していないようなので新人でしょうか。イタリア人。TikTokから火が付いた?様子。この曲のメインはBlancoのよう。2003年生まれなのでまだ10代のようです。

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続いてロシア、モスクワへ。

モスクワ:ЕГОР КРИД / PU$$Y BOY (Премьера Клипа, 2021)

やはりロシアはベース音が独特ですね。ロシアンハードコア的な。メロディアスなヒップホップながら飛び道具てきなSE、さまざまなサウンドの飛び跳ね方は独特。

Егор Крид(Egor Kreed:イゴール・クリード)は1994年生まれのロシアのSSW、ラッパー。今までに3枚のアルバムをリリースしており、過去に何度もヒット曲を出しているロシアでは大物アーティスト。姉はLAで女優をしているそう。

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続いて中国へ。北京。

北京:Jay Chou 周杰倫 / 七里香 Qi-Li-Xiang

北京は旧譜ですね。この曲はリリースはいつなのだろう、MVは2013年ですが、もっと古い曲な感じも受けます。アルバムを見ると2004年リリース。なぜいま1位なのだろう、サブスク解禁だったのか、あるいは何かのタイアップでヒットしているのか。中国は独自のITサービス圏を持っていますから、Apple Musicはそれほどメジャーなサービスではなく、一部ユーザーの動きがすぐランキングに反映される、などの理由もあるのかもしれません(各国のユーザ数は非公開なので推測ですが)。

周杰倫(ジェイ・チョウ)自体は2000年デビューの台湾の歌手、俳優で、中華圏の大スター。日本とも親交が深く、この曲のMVの舞台も日本。相手役の女性は日本人女優の田中千絵。

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続いてはトルコ、イスタンブールへ。

イスタンブール:Ezhel / Bul Beni

トルコ感もやや残しながらかなり洗練された、US、UKに近い音像を作り上げています。ボーカルの音階(というか節回し)以外はほとんどトルコ感がないですね。Ezhel(エゼル)はトルコ、アンカラ出身のラッパー、SSW。トラップやヒップホップにレゲエやアンカラ音楽のエッセンスを混ぜ、Spotifyでは2018,2019,2020年最もストリーミングされたトルコのアーティスト。タイトルのBul Beniは「私を見つけて」という意味。

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ついでアフリカへ、人口1000万人を超えるアフリカ屈指の大都市、ナイジェリアのラゴスへ。

ラゴス:Mohbad - Feel Good

これ、不思議なのがほとんどYouTubeの再生回数がないんですよね。数千回。なんだろう、よほどApple Musicのユーザーが少ないのか、あるいは何らかの理由で公式MVが削除された? ただ、どうもそこまで大人気のアーティストというわけでもなさそう。何かで一時的にバズったのでしょうか。MohBad(読み不明)はラゴス出身で1996年生まれ、2019年デビューのラッパーのようです。けっこうMVは凝っています。もしかしたらYouTubeがあまり使われていないのかも。国が違うと主要ITサービスも違うし、予想外の通信環境だったりしますからね。

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アフリカをもう1都市、ケニアの首都ナイロビへ。

ナイロビ:Omah Lay / Understand 

ナイロビはややメロウなR&B、ヒップホップ。欧州音楽シーンとの連動を感じますが、コーラスの入り方やリズムパターンにはアフリカらしさを感じます。

Omah Lay(オマ・レイ)は1998年、ナイジェリア生まれ。2019年デビュー。現在ワーナーミュージック麾下のサイアーレコードと契約して国際流通しています。

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サイアーレコードといえばプロトパンクなど、80年代UKインディーロックシーンで重要な役割を果たしたレーベル。UKロックにアフリカ音楽を大胆に持ち込んだトーキングヘッズもサイアーレコード所属でした。ちょっと通じるところもありますね。これは余談ですが、かのマドンナも最初サイアーレコードに所属していました。デビュー当時はパンクなイメージが欲しかったのでしょうか。

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さて、少しラテン系を見てみましょう。先ほどスペイン語圏は本国、マドリッドを見たので、今度は南米唯一のポルトガル圏ブラジルへ。

リオデジャネイロ:Luísa Sonza / penhasco. 

お、1位から3位まで同じアーティストが独占。ブラジル音楽シーンはなかなか動きが読めないところがありますが旋風が起きているのでしょうか。今見たらサンパウロでも1位~3位独占、ブラジル全土でヒットしている様子。

Luísa Sonza(ルイサ・ソンザ)は1998年生まれ、2017年デビュー。当初から大人気でいろいろなゴシップ(若くして結婚して離婚済み)など、話題性もあるアーティストの様子。Anitta(アニッタ)とともに女性のエンパワーメント活動も行っており、女性の性別を意識させる代名詞の使用法に抗議するなど(日本だと家長と家内、みたいな言葉?)、話題に事欠かない人物のようです。

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続いてイスラエル、テルアビブへ。なんでエルサレムじゃなくてテルアビブなんでしょうね。音楽の中心地がテルアビブなのかな。

テルアビブ:סטטיק ובן אל תבורי & נטע ברזילי - אפס מאמץ (Prod by. Jordi)

Static & Ben Elのポップデュオに女性ボーカルのNettaが客演した曲のようです。Jordiはプロデューサー。イスラエル語は読めないですね。表記も右から左だし。2015年から活動をはじめ、どのシングルも1000万再生を超えているそう。YouTube発というところでしょうか。ちょっとロシアにも通じるベースの強さ。ダークで攻撃的な音使いを感じさせつつメロウなフレーズも入ってきます。女性ボーカルが浮遊感があっていいですね。

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最後はアジアに戻りインド、デリー。

デリー:AP Dhillon (ft. Amari) / Ma Belle

メロウでアコースティックなナンバー。キレッキレのボリウッドじゃないですね。AP Dhillon(APディヨン)はパンジャビ音楽シーンのスターでUKパンジャビチャート(なるものがあるらしい)の1位を過去5回獲得。これ、UKで調べているパンジャビ圏のチャートなのか、UK国内でのパンジャビ語音楽のチャートなのか。後者だとしたらかなり限定的な気がするので前者なのでしょう。大英帝国時代からの風習なのでしょうか。インドというのは広大で、地域によって言語も違うし音楽チャートも違います。これは中国もそうですね。ロシアやUSも広大ですが、大ヒットしているシングル、1位のアーティストは国内でそこまで違わない様子。下位のほうになると地域性が強くなってくる印象がありますが、インドや中国はそもそも地域で1位のアーティストも結構違います。デリーは国内アーティストが強いですが、ムンバイは英語圏のアーティストがほとんど上位を占めていました。実際の国内でのチャートはまた違うはずなので、ムンバイのApple Musicのユーザー層が英語圏の歌を聞きたい、というニーズなのかも。インドはYouTubeチャートのほうが現地の音楽の流行を表している気がします。やっぱり映画音楽の国ですし、ダンスや俳優も見れる動画のほうが人気なのかも。

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終わりに

以上、15か国15都市を回ってみました。スペイン(だけでなくスペイン語圏全域でヒット中)のRauw Alejandro、イタリアのBlanco、ケニアのOmah Layが良かったです。こうして聞くと世界的なトレンドはR&B、ヒップホップ的なトラックにややメロウで落ち着いたメロディが乗るような曲がヒットしていますね。観測した日によって当然雰囲気が違うのでしょうが、以前観測したYouTubeの再生回数チャートより、Apple Musicのほうが音楽が均質な気がしました。YouTubeは映像込みなのでもっと地域性が強いのかもしれません。あと、Apple Musicは有料サービスなので国によってユーザー数やユーザー層が大きく異なるということはあるでしょう。各サービスの国別トップランキングを見比べてみるのも面白いかもしれません。

それでは良いミュージックライフを。

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