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作曲者で見る IRON MAIDEN の歴史 : 補遺

2021年9月3日、アイアンメイデンの6年ぶりの新作「SENJUTSU(戦術)」がリリースされます。あと1週間! ということで今日はメイデンについて書きます。

昨年がデビュー40周年だったし、2019年の年末にはプロデューサーのケヴィン・シャーリーが「大きな仕事が終わったぜ! 発表まで少し待って」みたいなコメントと共にメイデンとの作業をにおわせる投稿をしていたので、もしかしたらコロナがなければ昨年リリースされていたのかも知れませんが、いずれにせよようやくのリリース。待ちきれません。

先だって、ニューアルバムの収録曲と作曲クレジットが発表されています。これはやるしかないでしょう。何を? 「作曲者で見るIRON MAIDEN」を。

全アルバムの全作曲者を集計し、作曲クレジットからバンド内の力関係の変遷と人間関係を推測しながらメイデンのバンド史を振り返った「作曲者で見る IRON MAIDEN の歴史」。今回はその補遺として、新作のクレジットを見ていこうと思います。

本編を未見の方はまずこちらをご覧ください。

SENJUTSUの作曲クレジット分析

それでは、今回の作曲クレジットです。

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1. Senjutsu (Smith/Harris) 8:20
2. Stratego (Gers/Harris) 4:59
3. The Writing On The Wall (Smith/Dickinson) 6:13
4. Lost In A Lost World (Harris) 9:31
5. Days Of Future Past (Smith/Dickinson) 4:03
6. The Time Machine (Gers/Harris) 7:09
7. Darkest Hour (Smith/Dickinson) 7:20
8. Death Of The Celts (Harris) 10:20
9. The Parchment (Harris) 12:39
10. Hell On Earth (Harris) 11:19

基本的に前作「Book Of Souls(魂の書)」を引き継ぎ、80年代的な「スミス/ディッキンソンの作曲チームとハリスの2大作曲家が競い合う」スタイルに戻っています。00年代の再編以降の「ハリスが全曲に関わる」スタイルをはやめているものの、ハリス単独曲も増えています。

パッと目を惹くのがハリス単独曲の多さですね。特に8,9,10、すべて10分越えの大曲であり、後半25分にわたってハリスの世界観が展開されます。これは楽しみ。

また、今回はディッキンソン単独曲はなし。「Book Of Souls(魂の書)」は作曲家としても大活躍だったので、今回は少し引いている印象でしょうか。ただ、「スミス/ディッキンソン」では4曲参加。ディッキンソンが前面に出た「パワースレイブ」の後、燃え尽きてまったく参加しなかった「サムホウェアインタイム」のように「クレジット0」ということはありません。4曲参加しているので、80年代の平均に近いバランスです。

ガーズはハリスのパートナーとして2曲参加。スミスはハリスとも1曲作っています。マーレイは今回は参加なし。どうもメイデン史において「困ったときのマーレイ頼み」というか、ほかの作曲者が抜けてしまったり、なかなか曲が出てこない時にマーレイが駆り出される印象もあるので、今回ゼロということはほかの作曲者がどんどんアイデアが出てきたということかもしれません。前作について2枚組ですし(88分収録)、大量のアイデアを詰め込んだアルバムなのは間違いなさそうです。

今回のアルバムの作曲者クレジットの目を惹く点をまとめると、次の2点でしょうか。

1.スティーブ・ハリス単独曲の多さ。

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最初にも書きましたが、2000年のBrave New World(6人編成での初のアルバム)以来、ずっと1曲だったハリス単独曲が4曲に。これはヴァーチャルイレブン(1998)以来です。
※ちなみに、一番ハリス単独曲が多いアルバムはセカンドアルバムの「キラーズ(1981)」で9曲。

2.中盤は前作に近い構成。他の比率も比較的従来通り。

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クレジットを前作と比較してみましょう。前作(魂の書)も2枚組でしたし、構成的に近い部分も感じます。本作は8曲目以降ハリス単独曲が続くので、7曲目までを見ていきます。

1曲目 前作:ディッキンソン 本作:ハリス/スミス
2曲目 前作:ディッキンソン/スミス 本作:ハリス/ガーズ
3曲目 前作:ハリス/スミス 本作:ディッキンソン/スミス
4曲目 どちらもハリス単独
5曲目 前作:ハリス/スミス 本作:ディッキンソン/スミス
6曲目 どちらもハリス/ガーズ
7曲目 どちらもディッキンソン/スミス

冒頭の1,2曲目は意図的に違うオープニングにしているものの、その後は5曲中3曲が同じクレジット。中盤の流れは作曲者クレジット的には似たような感じになっています。8曲目以降がハリス単独曲が続くのが今回の特徴(逆に、前作の特徴は最初と最後がディッキンソン単独曲だったこと)かなと思います。けっこう中盤は似た構成・印象になるのかも

他の作曲者クレジットを見ても、前作は1.ディッキンソン単独曲がある。2.ハリスが全曲に関わらなくなっている。3.ディッキンソン/スミスコンビが復活している。という3つの驚きがありましたが、そこからするとあまり変化はない印象です。前作と変わらない、80年代に近いパワーバランス。

作曲者ランキング更新版

今回のものも含めて、全曲ランキングを更新。なお、集計対象はSENJUTSUも含めたオリジナル盤全17枚、164曲です。ボーナストラックやシングル・企画盤のみに含まれる曲は含んでいません。

1位 Steve Harris(B) 59曲 (+4曲)
2位 Steve Harris(B)+Janick Gers(G) 14曲 (+2曲)
3位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G) 13曲
3位 Steve Harris(B)+Adrian Smith(G) 13曲 (+1曲)
5位 Steve Harris(B)+Dave Murray(G) 12曲
6位 Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G) 11曲 (+3曲)
7位 Bruce Dickinson(Vo) 6曲
8位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo) 5曲
8位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Janick Gers(G) 5曲
※以下は変化なし

不動の1位は変わりませんが、2位が入れ替わり。Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G)のトリオを抜いて、ハリスとガーズのコンビが2位に上がってきました。ハリス/ディッキンソン/スミスの3人組は前作からなくなっていますね。ハリス(+ギタリスト)とディッキンソン/スミスの2つの作曲チームに分かれ、80年代に戻った形がより明確になりました。ガーズはX Factorで作曲面で大活躍するも、セールス面の失敗から次作バーチャルイレブンではほとんど作曲に参加しない(外される)事態に。そこから考えるとじわじわとクレジットを積み重ねてきてついに2位になりました。スミス/ディッキンソンよりハリス/ガーズコンビの方が作曲数が多いというのは少し意外ですが、ガーズは何気にいい曲書きますからね。あまり代表曲と呼ばれる曲にはかかわっていませんが(というか、ガーズ作の曲はほとんどライブで演奏されない)、メイデンに新機軸を持ち込んだことは間違いなく、90年代以降、メイデンのアルバムのバラエティ、多様性を生むのに間違いなく貢献しているのがガーズです。

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そして3位はハリス/スミスコンビ。こちらも曲数を増やし、3位タイになりました。ハリスとの共作数の数で言えばハリス/ディッキンソン/スミスも含めれば堂々1位。スミスは単独曲もありますから、全体で言えばメイデン内でハリスに次ぐソングライターと言えるでしょう。スミスはディッキンソン、ハリス両者とずっと曲を作ってきているので両者と相性が良いのでしょうね。スミスが脱退した後、しばらくしてディッキンソンも脱退してしまったし、ディッキンソンが戻るときにはスミスが戻っているので、ハリスとディッキンソンをつなぐ、潤滑油のような役割を果たしているのかもしれません。今の年齢になれば確執や感情的なぶつかり合いはそれほど出てこないでしょうけれど、そもそもハリスとディッキンソンはそれぞれ主張が強くてぶつかるのでしょう。それをうまくとりなし、音楽的にもそれぞれに合わせられるのがスミスの才能なのかもしれません。

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他は順位は変わらないもののディッキンソン/スミスのコンビも3曲増えて11曲に。このコンビは作曲数こそそれほど多くないものの、シングル曲に選ばれることが多い印象です。今回のリードトラック「The Writing On The Wall」もこのコンビの作曲ですし、前作の「Speed Of Light」もこのコンビでした。古くは「2 Minutes To Midnight」や、USのチャートアクションだけで言えば最大のヒットシングルである「Flight Of Icarus」もこのコンビですね。

なお、全体的にガーズやマーレイが関わった曲はあまりライブで演奏されませんが、スミスが関わった曲は比較的ライブでも演奏される(メイデンの場合、ライブで演奏回数が多い曲が代表曲とされる)ことが多い印象です。ガーズやマーレイの関わった曲も名曲が多いんですけれどね。ガーズ曲、マーレイ曲を取り上げるセットリストとか面白そうなんですが。そんなツアーはやらないだろうなぁ。本当に、意外な曲がライブ演奏されないんですよね。Deja-vu(サムホェアインタイムに収録されたマーレイ参加曲、けっこう人気が高い)は1回も演奏されたことがないし、Rainmaker(ダンスオブデスに収録され、シングルカットもされたマーレイ参加曲)、Out Of Silent Planet(ブレイブニューワールドに収録され、シングルカットもされたガーズ参加曲)もほとんどライブで演奏されていません。

10年代以降の作曲者ランキング

先ほどのものは全年代の作曲者でしたが、今度は2010年以降を見てみましょう。10年代区切りで本編の記事では見てきたのですが、2020年代はまだSENJUTSU1作しかないので、2010年代以降でまとめます。まずは前作までのランキング。

1位 Steve Harris+Adrian Smith 6曲
2位 Steve Harris+Janick Gers 3曲
2位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Adrian Smith 3曲
4位 Steve Harris 2曲
4位 Steve Harris+Dave Murray 2曲
4位 Bruce Dickinson+Adrian Smith 2曲
4位 Bruce Dickinson 2曲
8位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Janick Gers 1曲
合計 21曲

これに、SENJUTSUを加えるとこうなります。

1位 Steve Harris+Adrian Smith 7曲 (+1曲)
2位 Steve Harris 6曲 (+4曲)
3位 Steve Harris+Janick Gers 5曲 (+2曲)
3位 Bruce Dickinson+Adrian Smith 5曲 (+3曲)

5位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Adrian Smith 3曲
6位 Steve Harris+Dave Murray 2曲
7位 Bruce Dickinson 2曲
8位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Janick Gers 1曲
合計 31曲

こちらはがらりと上位の様相が変わりますね。1位こそギリギリ変わらないもののハリス単独曲が急激な追い上げで2位に。ハリス/ガーズコンビ、ディッキンソン/スミスコンビもそれぞれ順位を上げています。直近10年ほどを見ると現在の音楽的パワーバランスがよりはっきり表れますね。今作からはそろそろガーズ参加曲の中からライブ定番曲(=代表曲)が生まれるといいんですが。キャリアの長いバンドには必ず起きる問題ですが、どんどん新譜から定番曲へ入るハードルは上がっていますからどうなることか。今回はガーズ参加曲Strategoもアルバム先行で発表されているし、この曲はライブでも演ってくれそうです。

今後のツアー予定?

そういえば、最近のメイデンは「新譜からの曲を中心にした、新作アルバムに伴うツアー」と「過去の代表曲を中心としたツアー」を交互に行っていて、現在は「過去の代表曲ツアー」であるLegacy Of The Beastツアーの最中なんですよね。本来はすでに終わっているはずだったんですが、コロナの影響で中断されたためまだ続いている、という。これ、新作を出した後もしばらくLegacy Of The Beastを続ける(新譜からの曲はやらない)形なんでしょうか。すでに2022年の6月、7月にLegacy Of The Beastツアーが再開予定でスケジュールが出ていますが、新譜のツアーはその後やるのかな。それとも、一部セットリストを入れ替えて、新曲も含めるのでしょうか。

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コロナがどうなるかまだまだ予測できない状況なのでツアースケジュールも変更があるかもしれませんが、次のメイデンのライブはどういうセットリストになるのか楽しみです。メイデンのライブについてまとめた「ライブ演奏曲で見る IRON MAIDEN の歴史」もあるのでこちらもどうぞ。

いよいよ来週にはメイデンの新譜が聴けます。楽しみですね。UP THE IRONS!

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