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保育所の「国際化」と機械翻訳の有効活用

機械翻訳の精度向上

機械翻訳の精度向上

(出典)A Neural Network for Machine Translation, at Production Scale
https://ai.googleblog.com/2016/09/a-neural-network-for-machine.html

 昨今の機械学習の進歩によって、機械翻訳の性能は上がっている。上の棒グラフは、2016年にグーグルが自社のブログで、機械翻訳の性能が、ここまで上がったということを紹介したものである。この棒グラフは、各棒の下に記された言語間の翻訳の質を、人の評価者が6段階評価で評価したものを表している。一番左端が、英語からスペイン語への翻訳で、一番右が中国語から英語への翻訳となっている。
 さすがに、中国語と英語との間の翻訳の質は、欧米語間の翻訳の質に比べると低いものの、最新の機械翻訳技法であるneural(GNMT:ニューラル機械翻訳)で行ったもので、6段階評価の4段階のレベルに達している。中国語と英語の間の翻訳では、人の手によるものでも、評価5にとどまっているので、機械翻訳との差は決定とは言えないようである。専門家も、「言語対によっては人間の翻訳と同等程度の質を達成していることがわかる」と評価している。

<参考1>
「機械翻訳の新しいパラダイム ニューラル機械翻訳の原理」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/60/5/60_299/_pdf


保育所保育の国際化

 保育所保育においても、機械翻訳は他人事ではなくなっている。
 というのも、幼児養育/教育の場面で、外国籍の子どもが増えているからだ。文部科学省の「幼児教育の実践の質向上に関する検討会」に提出された資料によると、
 ・調査対象地域では、ほとんどの幼稚園等が外国人を受け入れており、
  2園に1園は外国人幼児が在籍している。
 ・調査対象地域では、1園に多用な外国人幼児が在園している。
と、まとめられおり、具体的には、平成28年度の東京の幼稚園では、平均して3か国の外国籍の子どもが6人以上在園していた。
 また、同じ資料では、施設側が保護者とのコミュニケーションに困っている様子の伝えられており、特に「園だより等の印刷物の内容が伝わらない」という意見が多くなっていた。
 これは保育所保育においても同様で、外国籍の在園児は増加傾向となっており、弊社グループが運営している保育所の中には、5か国の外国籍の子どもが在籍している園もある。

 <参考2>
「外国人幼児の受け入れにおける現状と課題について」
(以下のページで資料2としてリンクされている)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/140/shiryo/1422191.htm

 先に紹介したように、機械翻訳の質が向上しているといっても、口頭での日常会話がスムースに自動的に翻訳されるということではなく、テキストの翻訳精度が上がっているということだ。
 他方、外国人保護者との口頭でやり取りもさることながら、施設側では、園だよりなどの印刷物でのコミュニケーションに困難を感じているという事実もある。外国籍の園児が在籍していることを紹介した園では、「園だより」等を電子メールで一括配信したところ、保護者側でネットの機械翻訳にかけることが可能になった。この結果、外国籍保護者の理解が一気に進んだと実感をもって話している。
 このように、多国籍化する保育所保育の現場において、機械翻訳をうまく活用することは、もはや外国籍の保護者との円滑なコミュニケーションを図る上で、必須のインフラとなりつつある。


保育の国際化を機械翻訳がサポート

 さて、機械翻訳というのは、文字と文字、単語と単語のつながりや並び方を、数値的、統計的に処理して、別の文字、言語に置き換る技法であり、つまり、一定のアルゴリズムに則って、文字を変換していく技術である。
 このため、そのアルゴリズムを適用しやすい日本語文書というものが存在する。抽象的には、あまり個性的でない、簡単で分かりやすい文章ということになるが、その作法を例示すると次のようになるそうだ。
 ・極力漢字を使う。
 ・一文を短くする。
 ・具体的な動詞を使う(~なる、~する 等は使わない)。
 ・略語を使わない。
 ・無生物主語を使う。

 機械翻訳は会話を臨機応変に翻訳することは得意ではないが、機械翻訳しやすい日本語文章を整えれば、相当程度の精度でそれを翻訳し、外国籍の保護者との連絡目的をサポートしてくれる。


保育における「グロボティクス化」

 さて、最近では、グローバル化とロボット化によって、製造業のブルーカラーを超えて、ホワイトカラーの雇用代替が進んでいるとされている。この2つの同時発生現象を「グロボティクス」と称することも提唱されているが、この現象は、過去の「製造業の空洞化」とは異なっている。
 情報処理技術と情報通信技術の爆発的進歩(ムーアの法則、ギルダーの法則)により進みつつある現在のグローバル化とは、「遠隔移民」という形となっている。高速通信回線を通じて、対面コミュニケーションをとりながら、高度な専門サービス(デザイン、法務 etc)を海外から調達できるようになっている(この背景には、機械翻訳の精度向上がある)。
 また、ロボティクス化とは、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメイション)という形になる。バックエンドの定型的事務作業だけではなくて、フロントの対面サービスまで、ディスプレイやボイス・インターフェイスを通じて、コンピュータで提供できるようになっている(この背景に、音声認識、自然言語処理の進化がある)。

<参考3>
「GLOBOTICS (グロボティクス) グローバル化+ロボット化がもたらす大激変」
https://www.nikkeibook.com/item-detail/35840


 しかし、保育という職務は、人と人が直に接するサービスであることから、「グロボティクス」によって、遠隔移民やRPAに代替されることはない。
 他方で、「入ってくる方向」で国際化してくことも迫られている。とするならば、一括配信の園だよりのような文書だけでなく、個々の子どもの記録や文書もデジタルデータ化して、機械翻訳の恩恵を得られるようにしておくことが必要な対策なのではないだろう。
 ただし、その前提は、記録文書、連絡文書が、コンピュータで処理可能なデジタルデータとして存在していることだ。外国籍の子どもの在籍が不可避的に進むことが予想される保育所保育の現場では、記録や文書を機械翻訳し易い文章で作成する技法を学び、そしてその文章をデジタルデータとして管理していくことが必要だということを再認識していくべきであろう。
 つまり、保育所保育の実践の中で生み出される各種の情報、記録をデジタルデータ化することの効用は、こういう部分にもあるということなのである。