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実際の発達経過記録から、子どもの行動の難易度、属性を解明する(前編)

モデルデータによる分析手法の紹介

 今回は、発達(経過)記録を「分析」する手法として、どのような方法を試みているのかを紹介していくことにします。分析手法とは言っても、ともて簡単な方法です。子どもたちの発達過程を可視化することが目的であり、高度な分析手法を必要もないのに適用することに意味はないと思います。むしろ、データの整理さえできれば、こんな簡単な方法で、子どもの発達過程について、様々なことが分かるということを実感して欲しいと思っています。

 さて、まず分析の前提となる、発達記録の様式ですが、縦に行動が並んでおり、その行動が1年の中でいつ出来るようになったのかを毎月評価して、○等の記号を付けるタイプのものを前提にしています。エピソードを自由記述するタイプの様式ではありません。このエピソード型の記録の分析は、それはそれとして存在していますが、今回は、達成時期をデータ化したものの展開を見てもらうことになります。

 なお、今回分析の対象としているデータは、統計分析や機械学習を行う前に行う「前処理」を行ったモデルデータで、一つの保育園の園児のデータということではありません、いわば分析手法の説明用に、仮想的に作った園児クラスということができます。よって、今回ご紹介する分析結果が一般に適用できるというものではないことはご了解ください。


行動属性を4分類

 今回ご紹介する手法は、「行動の属性」を4つに分類するという方法です。
 保育士にとって、一つの課題は、保護者からの「子どもがある特定の行動を達成できないが、それは大丈夫か?」という相談、質問ではないでしょうか。周囲や(怪しい)一般論と比較して、ある行動ができないということについて不安になってしまうのは仕方がないところだと思います。このような相談に対しては、従来は、何歳のいつ頃にこういう行動ができるはずという「定型発達」過程との対比で、それなりの応答をしていたのでしょうが、現在のように、定型発達よりも、子どもの発達の個性が重視されるようになると、一般論で片付けることに抵抗感を持つ、保育士も保護者もいると思います。

 勿論、子どもの発達過程は、文字通り「個性」であり、その人格に基づく一つのものですので、万古普遍の一般論のようなものと比べて、「できる」「できない」を論じることに意味があるとも思えません(確定診断のための「基準」という話しとは別のことになるでしょう)。 

 しかし、全く比較不可能ということであれば、哲学的には「不可知論」に陥ってしまい、子どものより良い発達に向けた準備や支援も何もできないということになってしまいます。

 そこで、目の前の子どもを含む「子ども集団」の発達達成の「実績」に基づいて、記録対象となった行動の属性を明らかにすることによって、現時点で「できていない」行動が、できていないことの意味の理解や評価が進むのではないかと思います。
 そのために、行動の達成状況を比率化し、その比率の高低によって、行動特性を明らかにしていこうという発想です。具体的に言えば、計算する比率は、「期首達成率」と「成長率」の2つで、その高低によって、チェックしている行動を4つに分類できることになります。


期首達成率

 期首達成率は、年度初めの4月の記録の段階で、ある行動項目が達成できている子どもの比率です。クラスの中で、当初から「できる」子どもの割合が高い行動項目ということにあります。

 今回計算に用いているモデルデータは2020年度の3歳児クラスの子どものデータで、行動項目は88種類あります。この88項目の達成状況を、5%刻みのヒストグラムとして描くと、次のような棒グラフになります。期首達成率の平均は66%ですが、達成率の中央値は75%になります(この値で、「高い」「低い」に分けると、各区分がほぼ同数になります)。

期首達成率のヒストグラム

期首達成率の横表

 この分布の状況をみると、全体的に達成度合が「高い」方に、分布されているという様子です。これは、記録している項目の設計(比較的難易度の低い項目が多いということになるでしょうか)にも依存しますし、当然、子どもたちの特性にもよるので、こういう分布になること自体の是非ということではないでしょう。


4月段階で「できる」「できない」項目の実例

 達成率90%以上の項目としては「足を交互に出して階段の昇り降りをする」「一生懸命自分が持っている身体機能を使って体を動かそうとする」「楽しく食事をする」といったものが上げられます。逆に、期首に出来ている子どもがいない項目としては「はさみで厚紙や硬い紙なども切れる」「はさみで円を切る」「鉄棒の足掛け尻抜きと前回りができる」といった項目が出てきます。

 達成率の低い項目として、10%未満の項目としては「ひも結びができる」「大人の回した縄を跳ぶことができる」「4~5人でごっこ遊びが持続できる」といった項目が並んできます。
このモデルデータでは、クラス運営の当初段階で手先を使う活動において、未達成の比率が高いようです。勿論、本当の特性の把握は、項目全体の動向を見た上での判断ということになります。

 では、期首に出来なかった項目が、その後、どのように達成されていくのか、そして、期首達成率と成長率で分類すると、どのような項目の属性が可視化されていくのか、次の回でご紹介していきたいと思います。

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