残暑

首元をぬるい風が
ゆっくりと通り過ぎる
蝉の音もどこか弱い
残暑厳しいこの頃です

君と過ごした時は
魔法のように溶けて
僕は相変わらず
この街を泳いでいる

息継ぎをする様に顔を上げて
ふと空を見れば
不機嫌な太陽がこっちを
睨むように照らしていた

あの時君が言いかけた
言葉を探してみても
通り雨にさらわれて
見つからなないまま

こう暑いと本も
満足に読めやしなくて
君の輪郭がそっと
僕の胸をよぎる

逃げ込んだ喫茶店で
夏の影みたいな色の
コーヒーを飲み干した
味もわからないままに

クラゲのように漂って
移ろう日々はうたかた
弾ける前に君の声が
なんとなく聞きたくなった

あの時僕が言えなかった
言葉は青い街の
蜃気楼に吸い込まれて
見えなくなってしまった

窓辺から見下ろした街は
金色の夕焼けに
じんわりと染められていて
秋の足音がもう
すぐそこで鳴っている

明日になれば少しは
涼しくなるみたいだけど
ちょっとだけ嫌だな
君を忘れそうで

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?