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健康診断に本気で臨む

昨年末に、僕は健康診断へ行ってきた。健康診断というと、自分の場合、痩せすぎで、診断に引っかかってしまう。それ以外は、至って健康なのだが、体重だけは、どうしても増やすことができず、毎回「ちゃんと食べている?」と聞かれてしまうのだ。こんなこと言ったら、女性には怒られてしまうのだが、何事も適量というものがあって、痩せすぎているというのも、それはそれで悩みなのだ。

健康体な自分であっても、健康診断というものは、前日から、そわそわしてしまうものだ。次の日、ちゃんと起きて検尿を取ることができるのかどうか?ソワソワしてしまうし、間違って、健康診断直前に、色々飲食してしまわないだろうかとドキドキしてしまう。こんなに真面目に健康診断受けている人なんて、少数派だろう。友達で、次の日健康診断であろうと、酒を飲んで臨むという人もいる。自分も、そんなポジティブな性格で生まれてきたかった。そんなこんなで、健康診断当日、朝起きて、まず一番に検尿を取る。小学生の頃、検尿を忘れてしまって、学校でコソコソ検尿をとったことや、一度間違って、おしっこを流してしまって、トイレでおしっこ出てこいと念じながら閉じこもっていたことを思い出す。それらの事件以来、僕の検尿に対する強迫観念は、すごく、朝起きてすぐ、尿!という体になっている。
若干、手におしっこをひっかけつつも、尿を取り終えると、重荷が一つ降りたような気持ちになる。(毎回、手におしっこかかってしまうのは、僕が下手なせいなのかは、いまだにわからない。)

飲食は何もせず、健康診断へと向かう。途中の電車で、健康診断終わったら何を食べようかなと考えながら、腹を空かせた状態でクリニックへ向かった。クリニックへ着いて、受付を済ませる。いつもなら、検査着へ着替えてから臨むのだが、今年は違って、普段着のままで受けて良いらしい。なので、着替えはせず、リュックだけロッカーにしまって、名前を呼ばれるのを待った。ふと、去年は、健康診断が終わって気が緩んだ後に、荷物を入れていたロッカーの暗証番号を忘れて、クリニックの人に迷惑をかけたことを思い出した。健康診断に真面目に臨んでいるのに、そういうふとしたところで、何かしでかしてしまうから、自分は爪が甘い。プロの受診者たるもの、最後まで、冷徹にそして可憐に健康診断と向き合い、家に帰るまでが健康診断という気持ちで臨むものだ。今年は、そんなヘマをしでかすまいと、入念にロッカーの暗証番号を記憶しておいた。ここまで、全て順調である。

「安田さん、こちらへどうぞ」自分の名前が、呼ばれた。僕は、看護師さんに言われるがままに、奥へ進んだ。まずは血圧検査から。ぎゅっと腕に圧力をかけられる。とくに異常はなく、次は、血液検査・・・。え、血液検査!?早くないか、心の準備はまだできていないぞ。そう、お恥ずかしいことに、僕は血液検査が苦手というか、緊張するのである。心の準備ができないまま、服の腕をまくられ、採血のための針が自分の腕に刺される。「力をぬいてくださいね」と声をかけられるも、緊張で力が入りきっている。そのせいか、血液が勢いよく、全然出てこない。血液を取られている時間が長く感じた。「はい、終わりですよ」看護師さんの、その声で、救われた。健康診断の山場を、乗り越えることができた。「次は、心電図ですね」と言われて、別の部屋へ通された。心電図を撮るために、シャツを脱いで、機械に胸をつけたところで、よろめきが。とてつもない吐き気に襲われて、立っていられなくなり、その場で倒れ込む。看護師さんが、「大丈夫ですか?」と声をかけて、車椅子を持ってきてくれた。「すみません」と言って、とりあえず、車椅子へ座ると、ベッドのある奥の方へと移動させられる。意識朦朧とした中で、あ、今、シャツ着ていないから、上半身タンクトップ状態だということを悟る。何を隠そう、僕は胸毛ボーボーなのだ。タンクトップの上部から、胸毛が、こんにちはしている。この状態で、クリニック内を横断させられるなんて、なんて恥ずかしい。受付の前も通る。診断を待つ、色んな人が、何事か、車椅子に乗せられた、自分の方を見る。あ、見ないで ///

ベッドにある部屋へ着くと、車椅子から、そのままベッドへ移動させられ、そこで横にさせられた。気がついたら、全身から汗が出ていて、体が異常事態なのだと悟った。しばらく横になっていると、吐き気と汗が収まり、徐々に意識も、はっきりするようになってきた。とにかく腹が減っていた。看護師さんは、自分の状態が落ち着いてきたことをみると、お医者さんのところへと連れて行ってくれた。お医者さんは、「血を見て、ショックを受けたのかもね。大丈夫、結構こういうことあるのよ。男性の方が多いんだから。あと遺伝が関係していることもあるみたいよ」と軽い話のように語ってくれた。そこで、問題ないという判断が出たので、そのあとは、いつも通りに残っている診断を受けて、何事もなかったかのように、家へ帰った。

この話を、実家の母へ伝えたところ、父も昔、採血で倒れたことがあるらしいと教えてくれた。飛行機に乗れない、ジェットコースターに乗れない、美容院で、もう少し切って欲しいのに、美容師さんに伝えることができない。自分と父の共通点である。小さい頃は、あんなに嫌いだった父だが、採血で倒れたりで、きっと父も自分のように、健康診断に本気なのだと想像すると、少し可愛らしく思えた。そして、その父の息子なのだと思うと、こんなビビリの自分も少し愛おしく思えた。

年始に、帰省した自分を父が東京の自宅まで車で送ってくれた。渋滞の中、パーキングエリアの行列に並び、パーキングエリアから、再び車線に合流するときの、父の反応を見ていたら、ビビリながら運転している自分の姿と重なって、やはり血は争えないのだと、改めて認識させられたのだった。(採血にかけて、上手いこと言いたかったが、何も思いつかなかったです)。


ムムム。