試されるジョブ・クラフティング能力

Myth of ジョブ型雇用

ジョブは、メンバーシップ雇用と対比して雇用形態としてベターなものと描かれる機会が増えているが、本当にそうだろうか?

ジョブという観点で考える時、あるジョブがあり、そこに人を当てはめていくというマネジメント型が想起される。この時、アサインされる側から見ると、ジョブの範囲内でのストレッチの中で成長を考えていくことになる。もしより上位にステップアップさせるためには、そのためのストレッチが可能なジョブを作り出す必要があるだろう。

このような構造においては、アサイン側・ジョブを作る側の工夫がない限り、予想外の成長の機会というのは生まれにくくなるのではないだろうか。

曖昧なジョブにも良いことはあると言いたい。それは、アサインされた側がジョブの範囲を規定したり、ドメインを変え、より大きな目的のためのジョブに変態させたりすることもありえる。かつてメンバーシップ型の雇用においては、これが良い面で作用していたのだろうと想像する。どんどん新しくチャレンジングな仕事が生まれ続ける。ストレッチの連続だ。

私は自分自身の経験の中で、うまくアサインされているジョブと色々な側面で合わなかった場面も体験してきた。そこで、そのジョブの中で最大限の成長の機会は提供いただき、中長期的には学びになっているが、おそらく大きく環境を変えることなしには、その学習を十二分に生かす機会を作ることもできなかっただろうと想像する。

ジョブ・クラフティング

このような思考を巡らせていて、ようやくジョブ・クラフティングの本来の定義を読んだ時、この問題の本当の課題が見えてきた気がする。

上記記事では経済産業省のレポートを参照しながら、3つの視点で働き方を見直すことを推奨している。

  1. 作業クラフティング

  2. 人間関係クラフティング

  3. 認知クラフティング

この記事によれば、「マネージャー主体」から「メンバー主体」への変容にこの鍵があるとされている。より具体的な言及を引用すると、目の前の仕事を自分なりの手触り感のある経験に作り変えるプロセスなのだそうである。

ジョブ・クラフティングを促すための組織ケイパビリティ

私は、ジョブ・クラフティングをマネージャーだけ・メンバー側だけが頑張れば良いというわけではなく、相互作用の賜物だと捉えると良いと考えている。したがって、それらの相互作用が生じやすくするようなケイパビリティを組織の中にしっかりと備えることが重要ではないかと考えている。

具体的には、メンバーに自律性を持たせなくてはならない。これだけで論考の一大テーマとなりそうなので細かく言及することを現段階では避けるが、そのためには、メンバーがしっかりと自信を持ってチャレンジできる心理的安全性こそ重要になる。心理的安全性を高めるのは「1日にしてならず」なのはいうまでもない。

一方、マネージャーやリーダーが、メンバーが育たないうちに「我慢」「疲弊」するのもかえって将来の自律性の芽生えを阻害するかもしれない。なぜなら我慢や疲労感には限界があり、最後には相手を信頼・リスペクトできなくなることがままあるからではないかと考えている。また、弱さを認められないのも、心理的安全性に反する状態であるだろう。リーダーは表面上の行動だけでなく、目に見えない自分の信念や価値観を見直していかなくてはならない(下図参照)

Source:https://www.rosei.jp/readers/article/83102

この図を見ると、「リーダー」ではなく「チーム」というワードに置き換えられている。確かにチームの成果に責任を”多めに”持つのがリーダーということになるかもしれないが、パフォーマンスはリーダーのものではなく、組織という異なる主体のものである。

また、先にあげたジョブ・クラフティングの3つの視点と図のコンテントを除く3つのレイヤーが似たような視点になっていることも注目したい。これらは組織としての”Being”をいかに観察し感じる(Sense)かが重要であり、その”Being”の中で、リーダーやメンバーが”Doing”しやすくそれが”Being”を体現しているかを手触りをもてるようにすることが重要だろう。結果、”Being”も常に動的に変化するものとなることは確実なのだから、うまくその流れに身を任せながら、大筋のところで良い方向に持っていくことが大切である。

上記のような超概念的な話は、タスク遂行というよりは、メンテナンス・プロセスやメンタル・モデルを言語化しながらより上位のリーダーと、ありたい姿にベクトルやモメンタムがあっているかをコミュニケーションし続けることで体現することが可能ではないかと考えている。

成長したいと自覚する機会を生み出すマネージャーに

さて、なぜこうした議論を展開してきたかというと、流石に自分もチームのマネジメントや後進の育成に責任を持たなくてはならなくなりつつあるからである。

おそらく今までの自分を振り返ってみてもそうなのだが、「教える」という偉そうな立場で後輩たちとコミュニケーションしたことはほとんどないと思う。基本的には、彼らが私と同じ年になった頃には彼らの方が優秀になっていると確信している上に、事実そうだからである。そこで、私がいつもやってきたのは、相手をモチベートする、ワクワクしてもらうようにすることだけであったと思う。

仕事ができるようになることを喜んでもらうよりも、より大きな仕事にワクワクしながらそのために必要なことを学び続けられること、それを仕事で発揮できることに喜びを感じてほしい。

一つだけ私が変わろうとしていることを挙げるとすれば、後進のメンバーがより大きな舞台を必要とした際に彼らがワクワクするような舞台を作るのがミッションになったことである。そのために、自分がワクワクすることを忘れずに仕事に取り組んでいきたい、そしてもっと面白い仕事を作り出せるようになりたい、さらに強くそう思う今日この頃である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?