ハワイ王朝の系譜。

古代、ハワイには文字がなかった。ハワイ語は西洋人が入ってきて以降、言葉にアルファベットを当てはめたものだ。これは日本とも共通している。日本は漢字を中国から借り、そこからひらがなカタカナを作った。

だから昔の歴史はすべて「口承伝承」でしかない。口承伝承は正確には伝わらないことが多い。これは伝言ゲームをやるとよくわかることだ。
時が流れれば、あるいは、伝える人によって、かなり最初の話とは変わってくるのが常だ。とはいえ、昔の人の記憶力、あるいは、超人的な記憶力の持ち主はいつの世も存在すると思っている。もしかしたらそういう人を見つけ出しては伝えていたという可能性はあり得なくはない。

それを前提にして、伝承されているハワイの王族の系譜を紐解こうと思う。
神話によるとハワイを創ったのはワケアとパパというふたりの神によって創られたと言われている。それは日本の古事記に登場する伊邪那岐と伊邪那美のような存在で、ハワイの島々を誕生させた。
その後、ハーロアという人間の祖先が誕生し、ハワイの歴史が始まったとされている。

そしてハワイ王朝の始祖は、その起源をカヒキ（＝タヒチ？）から来たふたりの男だと言われている。８世紀頃のカヒキは人口増加により、新天地を求めなくてはいけない状況だった。
当時カヒキの王だったキイは、ふたりの息子「ウル」と「ナナウル」に北の方にあるという噂の新天地を探すように言い渡した。
人が移住できる島があることを信じ、ウルとナナウルは従者たちと一緒に大海原へと繰り出した。カヌーで航海を始めた彼らに幾多の苦難が押し寄せるが、やがてふたりはハワイ諸島を発見した。彼らはいくつかある島々をどう治めるかを相談した。

その結果、ウルはハワイ島とマウイ島を統治、ナナウルはモロカイ島、オアフ島、カウアイ島を統治すると決め、このふたりが『ハワイ王族の始祖』となり、ハワイ王朝の系譜が始まっているのだ。
そしてこの２人の直系の子孫が『ハワイでもっとも高貴で強いマナを持つ』と言われるようになった。

ハワイ島のウル王の血を引くウル王朝の系譜は、11世紀になるとその純粋な直系の血は途絶えてしまう。その代わりにサモアから移り住んできた「ピリ」を始祖とする「ピリ王朝」の系譜へと移っていった。
マウイ島のウル王朝の系譜はというと、18世紀に活躍した「カヘキリ」という王まで継続した。
一方、ナナウル王の血を引くナナウル王朝の系譜はどうなったか？
モロカイ島とオアフ島でのナナウル王朝の系譜は、マウイ島のウル王朝の系譜のカヘキリ同様「ある人物」 によって征服されてしまうが、ナナウル王の血を引く系譜はカウアイ島で存続する。
19世紀にカウアイ島を統治していたナナウル王の直系であるカウムアリイという名の王まで存続する。

ウル王の血が途絶え、ピリ王の血への系譜に変わったハワイ島。
ピリ王朝は、ウル王やナナウル王よりも後発の王朝なので、王族としてのランク的にはウルやナナウルの血を引く王族たちよりも低いとされていた。
しかしながら、実はこのピリ王朝の系譜では優秀な王が次々と輩出されていったのだ。
代表的なピリ王朝の王には、リロア、ウミ、そして「ある人物」がいる。
ある人物とは、ハワイの王で初めて全島統一を成し遂げた「カメハメハ」という名の王だ。
カメハメハは、彼の生い立ちを話すだけで相当の分量になってしまうのでここでは割愛するが、彼はピリ王朝22代目の王なのだ。

カメハメハは、自身の出身地であるハワイ島（当時は内紛により３分割されていた）の統一を皮切りに、マウイ島、モロカイ島、ラナイ島、オアフ島と制圧して手中におさめていった。そして最後に残ったカウアイ島に圧倒的な軍を率いて２回ほど攻め込もうとするが、不思議なことに２回とも自然災害や疫病など次々と大自然の力の前にどうすることもできず、彼の侵略に待ったをかけた。
争いによって犠牲者を出すことを良しとしなかった当時のカウアイ島の王カウムアリイは、話し合いという形で島の併合を認め、カメハメハに統治権を譲渡し、1810年、カメハメハは全島統一という誰も成し得なかった偉業を達成し大王となったのだ。

先にも述べたが、カメハメハ大王はピリ王朝直系の22代目の王だ。
最初に結婚した妻のケオプオラニは王族としては彼より身分の高い血筋と言われるウル王朝の直系だったため、その血筋を求めて政略結婚したと言われている。当然、身分的には妻のケオプオラニの方が上だったため、カメハメハでもケオプオラニには頭が上がらなかったそうだ。

カメハメハが本当に愛した女性は、第二夫人だったカアフマヌだ。彼女との間には子どもを授かることはできなかったが、カメハメハの死後、彼の遺志によりカアフマヌが摂政となり、まだ若かったカメハメハ二世、三世の陰で政治的な糸を引いていたと言われている。女性としてはヤリ手の政権指導者だったのだ。

その後、ハワイは急激に近代化する道をたどりながら激動の時代へと突入する。わずか100年足らずの間に王は８人変わり、途中、カメハメハの血も途絶え、大王の時代には考えられなかったハワイの姿へと変貌を遂げる。

250年前には地図にもマッピングされていなかった陸の孤島ハワイは、今ではアメリカ合衆国のひとつの州として、その名を世界に轟かせている。
ハワイの歴史を詳しく紐解くのはまた別の機会にするが、ハワイという小さな島の王族の系譜を紹介させてもらった。
知れば知るほど奥が深いハワイ。その魅力は今なお歴史や文化に色濃く反映されているのだ。