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フェミニストカウンセリングについて①


フェミニストカウンセリングを知ることになったきっかけ


 韓国心理学会主管・フェミニストカウンセリング講座初級を受けていて、まもなく修了する見込みです。引き続き中級、上級を修了できれば良いと思います。心理学部卒業者および実務経験者でなければ受けられない講習なので一応ちゃんとしていると思います。
 日本ではなく、なぜ韓国心理学会の講座なのか? それは私が移民家庭で体験した女性抑圧が朝鮮半島に由来するものであり、移民ストレスの多重構造の中に家父長制が含まれているからです。つまり個人的理由です。

 それまでは、恥ずかしながらフェミニストカウンセリングという言葉すら知りませんでした。私は出版などの仕事をする傍ら数年前まで臨床心理大学院に通っており、修了のためには医療機関等で約1年間に及ぶ臨床実習が必須でした。実習は仕事の合間を縫って行っていました。そこで得たある体験が、道標になりました。

※以降、特定のトラウマを刺激する文言がありますのでご注意下さい
※クライアントの主訴であり、客観的検証は伴っておりません
※個人のプライバシーおよび倫理上の問題で要所にフェイクを入れています

 A子さん25歳。高校卒業後、数ヶ月間だけ会社員として働いたことがありますが、その後はずっと引きこもっていました。A子さんは性的虐待被害者でした。加害者はA子さんの男性親族3人。虐待はA子さんが中学生の頃から続いていました。
 家族の中でその事実を知らないのは、公務員である父親だけでした。

 何故なら父親に知られると、加害者はただでは済まないからです。
 最悪、誰か一人殺されてしまってもおかしくはない。それほど父親の支配が強い家でした。
 父親は日頃から家族に暴力を振るっていましたが、外面がよく家庭の経済的主導権も握っていました。

 実母はA子さんが幼い頃に亡くなっており、頼れるのは同居する伯母しかいませんでした。しかし伯母は「事を荒立てるな」と箝口令を敷き、むしろ加害者である男性親族の肩を持ちました。さらに他の親族は「お前は女だから、この家の介護要員」と言い放ちこき使いました。祖父母の代から男性優位で女性は色々と我慢をさせられる家風で、A子さん自身も「女らしくしろ」などと言われて育ったといいます。

 そんな八方塞がりの状況で一縷の望みは、意外にも父親でした。幼い頃は暴力を振るわれていましたが、現在の関係は良好?で、父親はA子さんを元気付けるため外に連れ出すなどをしていました。
 ただ父親は自身が行ってきた恐怖支配が仇となり、家庭内の真相を知らずにいました。

私はA子さんの代わりに怒ったりするなどして、ニーズを探り出した


 A子さんも、これ以上この状態が続くのはよくないと思っていました。
 しかし人の集団を見ると何故かフラッシュバックしてしまい、まともに働くことはできません。家庭内に味方もいません。それでもA子さんは家庭内の均衡が「自分のせいで」崩れることを恐れていました。被害を告白することで、さらにひどい立場に追いやられるのではないか。 だから、自分が我慢するのが最善ではなのだ。そう思い込んでいました。

 A子さんが父への告白を拒否する以上、父親を利用したエンパワメントも、家族療法も不可能です。さてどうしたものか。
 何よりも、A子さんの口が塞がれてしまっている異常な状況をどうにかしなければなりません。

 私は毎度A子さんが自身の理不尽な境遇を吐露するたび、怒りのあまり指導教官に「これは家父長制の問題ではないか」と進言しましたが一蹴され「A子さんの内面だけに集中せよ」と言われました。当時は理由がわからず不満に思いましたが、後になり指導教官が正しいことが証明されました。
 これは後述する、フェミニストカウンセリングの本質に繋がる部分です。

 私はこんな難しいケースを実習生にやらせるなんて……と思いつつ、机上で学んだありとあらゆる臨床技法を差し込みながら、A子さんの心の動きを探りました。
 そして時にはA子さんの代わりに激しく怒ったり、「自分だったらこうするけどな〜。どう思います?」など、決して説教にならぬよう気をつけながらエンパワメントをするようにしました。未熟な私にはそれくらいしかできず、とにかく必死でした。
 傾聴だけではなく、必要に応じてコーチング的なことも行いました。

A子さんに訪れた変化


 するとしばらくして、A子さんに変化が訪れました。
 A子さんが加害者に対し怒りを露わにするようになり、さらに、将来の夢を口にするようにもなったのです。これまでは家族関係の均衡を気にして合理化していた感情が正常に近づきつつありました。笑顔も少しだけ見せるようになりました。

 彼女が来所した当初は感情表出ができず、視線が定まらない、自身に起きた過酷な経験を薄笑いを浮かべて話すなど、トラウマによる解離が激しい状態だったのです。

 これは決して、私の力ではありません。
 休まずカウンセリングに来れていたのは彼女に変わる力が残っていたからでしょう。


 彼女は自分で羽ばたく準備をしていたのです。


 このまま彼女の変化を見届けたかったのですが、私の実習期間が終了したため、地域の性的虐待治療施設を紹介しました。とはいえ、行かないだろうな……と思いましたが、意外にも連絡をしており、加害者に法的措置を取ることも視野に入れていると言いました。
 これは来所当時のA子さんの様子からは考えられないことでした。

 その後、彼女がどうなったかはわかりませんが、私にとっては衝撃的な体験でした。

 フェミニストカウンセリングの存在を知ることになったのはそのすぐ後になります。もしかして私が試行錯誤しながら行っていたのは、フェミニストカウンセリングの一端だったのでは……? そんな思いから、その世界を深く探るようになりました。

フェミニストカウンセリングとは何か


 さて、フェミニストカウンセリングがほんのごく一部の人々から「洗脳」だと批判を受けているようです
 燃えているのはこの部分であるとのこと。

伝統的なカウンセリングとは違い、「女性の生き難さは個人の問題ではなく、社会の問題である」というフェミニズムの視点をもって、それぞれの女性の問題解決をサポートします。

日本フェミニストカウンセリング協会HP


 女性がその属性による被害経験から回復し、二度と同じ目に遭わないための過程で、問題の背景にある社会構造について知ることは何ら不自然ではないと思いますがね……? ジェンダーは個人の問題ではなく構造の問題なのでエンパワメントの過程で社会に目が向くのは当然です。窓を開けたら空があるくらい当たり前の話でしょ。
 それに「自分じゃなくて社会が悪い!」なんていうのは男性患者も山ほどいますので。しかも京アニや京王線などの拡大自殺を起こす人、決まって男性ですが……? 別に男女間対立を煽るわけではないのですが、せいぜい当該団体から訴えられないように気をつけてください。臨床経験もなく、フェミニストカウンセリングを一生受けることのない属性が騒いでいるという構図からして面白すぎるだろ(笑)。

Rawlings&Carterの「女性のための心理治療」では、このように書かれています。

「女性の敵は女性ではない」、「男性も女性の敵ではない」

Rawlings&Carter(1977)

 さて、フェミニストカウンセリングを語るには膨大な文字数が必要なので、取り急ぎ誤解されてる部分について書きますと以下の通りでしょう。

①危険思想を植え付けるものではない


 DV、レイプ、痴漢、女性であることによるアカハラ、モラハラなどの被害からの回復を目指す。そして、家父長制を背景にした女性の自己抑圧、ジェンダーバイアスから解放し生きづらさをなくすことに目的があります。
 たとえば「家事をうまくできない私はダメな妻だ」「夫よりも稼いではいけない」「可愛くなければモテない」などといったジェンダーバイアスで本人が苦しんでおり、改善を望むようであれば取り除き、エンパワメントするということです。

②臨床心理学的技法を用いる


 通常の来談者中心療法で用いられるカウンセリング技法(オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン、リフレーミング等)、ナラティブセラピー、認知療法、支持的療法などクライアントのニーズや状態に応じて適用します。グループトレーニングではアサーティブトレーニング、SETなども行います。至って普通の臨床技法の範囲です。

③女性解放を通じて、男性の生きづらさも解消する


 古びた「男らしさ」に呪縛されているのは男性も同じです。女性解放=男性抑圧ではありません。
 韓国心理学会ではフェミニストカウンセリングはこのように定義されています。

・女性だけではなく多様なマイノリティ、はては全ての人間が経験する抑圧に関心を置く
・社会的抑圧が個人に与える影響に注目し、個人の変化だけでなく社会の変化も目標とする

(キムミン・イェスク2011;エヴァンス,キーンケイト,シム,2020)

 日本と韓国ではフェミニストカウンセリング理論に少し違いがあるかもしれません。社会のあり方が似て非なるので……。次回は理論の部分を可能な範囲で紹介したいと思います。

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