読書日記『Self-Reference ENGINE 』(円城塔,2010)
友人に借りている。「理解することができないが、これを理解して読むものなのかもわからない」小説ってあるよね、みたいな話のなかで、友人から円城塔の名前が出てきた。私は未読だったので貸してくれたんだと思う。
エピローグ、短編が20篇、プロローグ、そして解説という構成だ。
簡潔に感想を述べれば、意味がわからなかった。なのに面白い。文字列や文章としては理解できてる(と思う)けれど、短編それ自体は理解できず、一冊の本としてはギリギリ理解できるような。不思議。感覚としては、現代アートの展覧会に似ているかもしれない。作品の構成や素材などはわかるけれど、作品として何を伝えたいかは曖昧で、でも展覧会としてみれば伝わるような。
一番好きな短編は「09:Freud」。22体のフロイトが、亡くなった祖母の家の床下から出てくる。それをめぐる僕や親戚の会話がユーモラスだし、22体のフロイトが出てくること以外は理解しやすい短編だと思う。フロイトは燃えるゴミなのか、はたまた資源ゴミなのか。22畳だから22体なのか、22体だから22畳なのか。
次に「17:Infinity」が好きだ。リタは祖父のクイズ(「この平面宇宙に、お前と限りなく似た女の子が存在しるかどうか」)に答えようと考える。リタが出した結論は「ほとんど全ての人間には、無限に似通った人間が無限人存在する」(p302)。
Newtonという雑誌で、パラレルワールドについて語られていた記憶がある。「あなたが存在しているということは、あなたの発生確率が零ではなかったということだ。銀河が入れ子構造のように無限に存在するならば、また別の銀河にあなたが存在する確率も零ではない。」うろ覚えだけれど、こんなようなことが書いてあった。こういう理解で合っているかはわからないけど、そうだと良いなと思う。
さらにリタは、無限に存在するリタと違ったものになる、と宣言してみせる。祖父の孫らしく、あなたたちと限りなく似ていることに我慢できない、と。
厭世的な私はこう考える。もし私が死んだら、何人のパラレルワールドの私が死ぬのだろう。それは依存するのか、独立なのか、相互作用的なのか。私の死後の世界では、私の発生確率は零に戻るのでパラレルワールド私も居なくなるとも思うし、存在したという事実は変わらないのだからパラレルワールド私にはあまり関係がないとも思う。空想が広がる。空想が広がり小説はいい小説だと思う。
読了日:2022/12/27
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