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読書日記『ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi』(穂村弘,2022)

2003年に単行本として出版された同名作品に、「ピリン系」「手紙魔まみ、教育テレビジョン」を新たに加えて文庫化したもの。


私の中で、穂村弘は天才でもあり、先生でもある。高校時代、「短歌ください」は毎回嫉妬まじりに読んでたし、短歌を始めるにあたっては『はじめての短歌』(穂村弘)、『天才による凡人のための短歌教室』(木下龍也)、『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』(雪舟えま)を読んだ。(木下龍也が短歌を始めるきっかけは穂村弘だし、雪舟えまは「手紙魔まみ」のモデルだと言われている。)

この時代に生まれて、穂村弘の影響を受けていない歌人はいない、とどこかで読んだ気がする。
本当にその通りだ。B.C./A.C.みたいなものだ。
それほど遠くて近い存在だったからこそ、穂村弘の歌集を詠むことには少し抵抗があった。絶望して短歌を辞めたくなるかもしれないから。

という気持ちで、初めて穂村弘の歌集を読んだ。
結論から言うと絶望せずにすんだ。むしろ、若いころの歌は、私と同じくらいに青くって気恥ずかしいような気持ちになった。

短歌ももちろん良かったのだけれど、「〈解説〉ふたたびの、聖書  瀬戸夏子」という解説が良かった。戦争を経験した世代としての前衛歌人・塚本邦雄、その「子」として現代短歌を代表する穂村弘(とそれに熱狂した瀬戸夏子)、そして、その「子」たる今の私たち。『ラインマーカーズ』は塚本からみればおもちゃのような聖書で、瀬戸からみれば本物の聖書だった。では、今の私たちから見て、「ふたたびの聖書」になりえるか?

私的見解を述べると、現代短歌と呼ばれるものが溢れすぎている現代では聖書になりえない、と思う。というか、「聖書の役割を担うもの」を求めていない。世界のはじまりや終わり、教えより、「自分がどう生きるか」「自分がどう見えるか」が重要なのではないか。聖書がなくても生きていけることを知ってしまった世代なんじゃないか。

そんなことをつらつら考えながら読んでいた。


最後に好きな歌を5首記録しておく。

ウエディングドレス屋のショーウインドウにヘレン・ケラーの無数の指紋 –蛸足配線

夏の川きらめききみの指さきがぼくの鼻血に濡れてる世界 –蛸足配線

貴方のことだけを考えながら、この手紙は、急速におわります –手紙魔まみ、意気地なしの床屋め

水準器。あの中に入れられる水はすごいね、水の運命として –手紙魔まみ、教育テレビジョン

冷蔵庫が息づく夜にお互いの本のページがめくられる音 –ラヴ・ハイウェイ


読了日:2022/11/20


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