読書日記『虐殺器官[新版]』(伊藤計劃,2014)
『ハーモニー』と共に友人からオススメされた。『ハーモニー』が結構タイプだったのでこれも購入した。
この本を読み終わって思ったのは「虐殺『器官』というネーミングは違うのでは」「アンチナタリズムも『虐殺器官』のようなものかもしれない」「面白かった!」の3つだ。
今回の感想文はこの3つについて、書き連ねていきたい。
*ネタバレ注意*
1.虐殺「器官」というネーミング
「ことばは、人間が生存適応の過程で獲得した進化の産物よ」「ほかの器官がいまそうあるのと変わらないような、ね」(p124-125)
「遺伝子に刻まれた脳の器官だ。言語を生み出す器官だよ」「ただし、この文法による言葉を長く聴き続けた人間の脳には、ある種の変化が発生する。とある価値判断に関わる脳の機能部位の活動が抑制されるのだ。それが、いわゆる『良心』と呼ばれるものの方向づけを捻じ曲げる。ある特定の傾向へと」(p219)
「虐殺のことばは、人間の脳にあらかじめセットされているものだ。わたしはそれを見つけただけだよ。人体のさまざまな器官を『発見』した解剖学者たちと大した違いはない」(p363)
作中ではこのように虐殺器官(?)について語られる。
しかし、脳が器官である以上、虐殺のことばを生み出し、それに反応することは「虐殺機能」という方が正しいのではなかろうか。あるいは、文法によって虐殺が起きるのだから、「虐殺文法」。タイトルである「虐殺器官」というワードは作中でもあまり使われておらず、「器官」と呼ばせるためのロジック、というか納得感が薄いと思った。
名詞としては「虐殺器官」が一番かっこいい。それはそう。
2.アンチナタリズム
「虐殺の文法は、食糧不足に対する適応だった、というのか」(p365)
アンチナタリズム(反出生主義)とは、「すべての人間あるいはすべての感覚ある存在は生まれるべきではない」という思想である。(これは 森岡正博「反出生主義とは何か その定義とカテゴリー」(『現代生命哲学研究』第10号 (2021 年 3 月):39-67) より援用している。)
この「アンチナタリズム」という思想は、一般的には「誕生否定(生まれてこなければよかった)」や「出産否定(産むべきではない)」を含んで語られる。特に出産否定について、出生主義者から「人間は生物なのだから、繁殖によって自分の遺伝子を残すべきだ」と反論(?)される。
しかし、虐殺がそうであるように、反出生主義をすんなりと受け入れてしまうことや広めたいと思うことは、いつかどこかでは生存に有利だったのかもしれない、と思った。
3.面白かった!
ごちゃごちゃ考えたものの、結局は「面白かった!」の一言に尽きる。
刺さった場面はたくさんあるけれど、特に
「死者はぼくらを支配する。その経験不可能性によって。」(p335)
という一文が刺さった。端的に死者のずるさを言い表している。
あと、ドミノピザが食べたい。
読了日:2022/10/19
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