見出し画像

読書日記 『あなたにオススメの』(本谷有希子,2021)

「推子のデフォルト」と「マイイベント」の2編構成。どちらも最近書かれた感じが溢れてると思った。
極端な行動をする、少し狂っているけれど現実にいそうな人間を本谷さんは良い塩梅で書く。

推子のデフォルト

超情報化社会であり、「等質性」「仮想空間に居続ける能力」が重要となった日本が舞台。ゴリゴリに自分をオンライン化している推子(おしこ)とその娘・肚(はら)ちゃん、オフライン依存症の疑いをかけられたこぴくん、こぴくんを人間らしく育てたいこぴくんママの物語になっている。

「頭の空白を情報で埋め尽くしたい」「(結婚や子育てなどの)生のコンテンツは最高」という推子の考えに少し共感しつつも、でもそれって寂しい生き方だなとも思った。読書しながらラジオ聞いたりしちゃうので自省。
そして、「こぴくんママ」「双子ママ」と周りの人たちを名前で呼ぶことがない推子が不気味。育児を、とことん「コンテンツ」としてしか消費していない。


「このクソみたいな道具の普及のせいで、私達の生活も思考も、人間としてのあり方も全部変形させられたって。だったら、人間らしさだけが変わらないなんておかしいんじゃないの?」(p67)

「(人間としての性能とは)目の前のクソを、クソじゃないって自分に言い聞かせて飲み込める性能に決まってるじゃないの」(p95)

の二つのセリフが気に入った。人間らしさってなんだろう。便利な道具たちの奴隷になっていないか、振り返って、時には反省しないといけないな。手遅れかもしれないけど。

マイイベント

50年に一度の規模の台風が迫り来るタワマンの最上階に住む夫婦と1階のバンバさん家族のおはなし。

主人公である「パパ」は私の父に似ていて、読んでいて居た堪れないような気持ちになってしまった。父はもう少し外面がいいし、こんなに突発的な行動はしないと思うけど。

この話のテーマは「緊急事態で分断が可視化されてしまうこと」かな、と思った。常識が通じない人たちとどう関わるか。協力するのか、無視するのか、嫌がらせをするのか。世間体を優先するのか、自分のことを優先するのか。コロナ禍や自然災害で可視化してしまった分断は、たくさんあったよな、と考えていた。

最後、不穏な空気が漂わせて、ボカしたように書いてあるだけなので、何が起こったのかがとても気になる。望み薄だけど、ゴローもウサギも無事であってくれ……!


読了日:2022/10/25


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?