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夏の遊びの時代の変化

コロナウイルスによる経済活動の自粛から約2年半、2022年になりようやくビーチが活気を取り戻してきた。

2022年7月現在、コロナウイルス感染者は増加傾向だが、神奈川県鎌倉市では3年ぶりに海の家を再開し、静岡県下田市では2021年に続き白浜の海開きが無事行われた。
僕自身も今年は葉山や鎌倉の海でチルタイムを楽しんだが、コロナ以前と比べると活気はまだ戻っていないと感じている。

下記は静岡県下田市の海水浴客の推移だが、コロナを差し引いたとしても大幅な下降傾向にある。

海水浴客が減った背景としては、少子化と娯楽の多様化が主な原因だと考えられる。

少子化に関しては言わずもがな、1970年代から出生率が下降し続けているため、海に遊びに行く年齢層の人口がずっと減り続けているわけである。

娯楽の多様化に関しては、遊びの選択肢が増えることにより、相対的に海水浴というコンテンツの需要低下が起きている。

具体的にどのようなコンテンツが台頭してきたかというと、下記のようなものが挙げられる。

・ナイトプール
・シュノーケリング
・ダイビング
・バーベキュー
・クラブ
・クルージングパーティ

上記は夏らしい遊びのコンテンツだが、これらを安価に提供しているサービス事業者が増えたため価格競争が起こり、以前に比べると様々なアクティビティに参加するハードルが低くなっている。

このように海水浴以外の遊び場が増えることで、相対的に海水浴という遊びの需要が減っていくわけだが、それに加えてマッチングアプリが市民権を獲得したことが大きな要因だと捉えている。

そもそも海水浴に出向く若者が減ったということは、本質的には「出会いの場」として需要が減ったからだと考えられる。

海=出会いの場というイメージは、以前であれば誰もが想像しやすかっただろうが、マッチングアプリや相席ラウンジを利用すれば簡単に出会えてしまうため、特に女性にとって海という出会いの需要が減少しているのである。

男性側にとってこの事象の弊害が起きつつあり、それはナンパのハードルが上がっていることだ。

僕は恥ずかしながら10代からストリートナンパや海ナンパを繰り返していたわけだが、加齢が原因でナンパのハードルが上がることとは別で、若者がナンパを行うハードルそのものが上がっていると感じる。

以前は出会いのコンテンツが少なかった故に、ある程度は男女が対等な立場で出会いを楽しめたが、現在においては圧倒的に女性優位な状態だ。

理由は明白で、カースト1軍の男性が2軍の女性を食い散らかしているため、2軍の男女同士でのカップリングが成立しないのである。

2軍の女性はマッチングアプリを利用することで、簡単に1軍の男性と知り合えるため、わざわざ海に来てナンパ待ちをする必要がない。

さらには普段から自分より上のカーストの男性と遊んでいるため、2軍の男性に声をかけられても一緒に遊ぼうという気になれないわけだ。

マッチングアプリというサービスが普及したことにより、恋愛格差が拡がったと考えられるが、海水浴というコンテンツにおいてもマッチングアプリの影響を受けているように感じる。

さらに言えば、海水浴場の中でもいわゆるチャラビーチと呼ばれる場所が減っていることもある。
実はチャラビーチが生まれる背景には、市の条例が大きく関係している。

2013年、藤沢市の条例により、江ノ島をはじめとしたビーチでの音楽放送が禁止された。
2014年には続いて逗子市の条例により、逗子海岸の「音霊」という海の家ライブハウスが終了し、行き場を失くしたパリピ達は、自然発生的に由比ヶ浜に集うようになった。

由比ヶ浜も条例による迷惑行為の防止もあるにはあるが、ビーチでのタトゥー露出、飲酒、音楽において徹底的に排除しているわけではなく、ゆるい不文律のような形で対処されている。

2022年現在、関東で最もチャラいビーチと言えば由比ヶ浜だろうが、実は上記のような背景がある。

2013年以前の江ノ島においては、夜間でも海の家で爆音で音楽がかかっており、水着でクラブにいるような高揚感が得られたため、かなり治安の悪い場所だった。

逗子市も2014年以降はファミリー層の獲得のために条例を厳しくし、特にお酒の持ち込みなどに対しても厳しく取り締まった。
この取り締まりを担当していたセキュリティ会社がBONDSであり、コワもてのセキュリティが海水浴客に注意する姿がよく見られた。

結果として逗子市の海水浴場は劇的に治安がよくなったが、ファミリー層の観光客をうまく獲得できず、観光地としての売上は大幅に下がっている。

では条例がそこまで厳しくない鎌倉市はどうかと言うと、チャラビーチとして若者が集う由比ヶ浜は、海水浴客が緩やかに減少している。

2020年、21年はコロナの影響で海の家自体がやっていなかったが、2022年も例年に比べると明らかに人が少ない。

由比ヶ浜においては海の家とビーチ側で人の属性がきれいに分かれており、海の家は六本木や歌舞伎町で飲み明かす人種で溢れている一方、ビーチ側では純粋に海水浴を楽しむ人や、ナンパに明け暮れる人が闊歩している。

海の家ではクラブのVIPやキャバクラで飲む層がにぎやかにパーティをしており、わざわざ海に来てまでシャンパンをおろしている。
東京の遊び人連中にとっては、海の家に行けば誰かしら友達がいるので、同窓会のようになることもある。

このように客足が縮小しつつも、独自のコミュニティをもって形成されているのが由比ヶ浜や江ノ島西浜の特徴であり、海の家の収益もドル箱とまではいかないまでも、それなりに集客ができているお店が多い。

ではその海の家の事情はどう変化しつつあるか?という話しだが、まずは海の家という商売がどのようなものかというと、毎年権利を購入する形式と、永代権利という一生ものの権利がある。

江ノ島周辺の永代権利は、相場が3000万円ほどと高額なため、何年で投資回収できるのかを考える必要があるが、単発で権利を購入する場合は300万円ほどが相場と言われている。

これは市に対して納めるお金だが、場所によってかなりばらつきがある。
海水浴客の減少している昨今ではあるが、由比ヶ浜や江ノ島であれば、300万円で商売できるのはまだまだ美味しいビジネスだと思われる。

販管費の多くは人件費と仕入れになるが、スタッフの確保と集客に力を入れることができれば、利益を確保するのは難しいことではないだろう。

海の家を開催する企業の多くは、建設と飲食の二つの事業を行っているケースが多い。

海の家の建設と解体を自社で行うことができ、尚且つスタッフの確保や仕入れも自社ルートを活用することができる。

また、都内で飲食店を経営しているならそのPRも行うことができるので、メリットは多い。

エイベックスやabemaなどの大手企業が海の家を開催していたが、これは宣伝効果も兼ねてのことであり、「音楽」と「イベント」という事業とは相性がいい。

一方、葉山などの土地だとパリピが集まらないため、地元の関係者が海の家を開催しているケースが多い。

先日、葉山の海に行った際に、海の家の喫煙所でオーナーのおばちゃんから聞かせてもらったが、観光要素の少ないビーチだと収益化という視点でギラついている企業や人が参画してこないため、和やかにやっているようだ。

海に遊びに行くというコンテンツは減退傾向ではあるが、イギリスのようにコロナにとらわれない生活様式に戻すことで、少しでも夏の海に活気が戻ってくることを祈っている。


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