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Sam Wilkes - One Theme & Subsequent Improvisation

2021年、ニューラチチュードと言われることの多い本作がコロナ禍に発表された。ベーシストであるサムによるジャズをはみ出したジャズ。インディーシーンのあらゆるチルとフリーを放り込んだ本作は心地よく聞き流すことも、高度な演奏と折り重なるサウンドスケープに身を投じることもできるアルバムだ。

冒頭はロングトーンのベースとドローンアプローチにドラムのダブアプローチが印象的なトラック。この曲は「ハーモニックでメロディックなパッセージを繰り返すこと」を念頭に置いたトラックだという。繰り返されることである種のインスタレーションに放り込まれたような感覚を覚える。

続くトラック以降、短い曲が続くが電子音のシーケンスにロングトーンが折り重なるサウンドスケープに時折はさみこまれるドラムの激しいアプローチが印象的だ。Prettyはリズムボックスの短いループを基調にしたミニマルなアプローチをフリーな演奏が覆うNefertiti以降のジャズの心地よいアプローチの一つではないかと思う。こうした多様なアプローチをサムが言うところのハーモニックでメロディックなパッセージが統一感をもって支えきっている。

全体通じて楽曲は概ねシームレス化されており、曲間のギャップがない。ただしモードの切り替わりは明確化されており、そのコンセプチュアルな構成力は見事だ。西海岸のジャズシーンはこうした野心的なアプローチとチルが隣り合わせになっているところが先進的でありながらリスニングにもヒップホップにも接近する形を形成している。とても美しいアルバムだ。

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