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M. Sage - Paradise Crick

電子音、自然音、ボイス、生楽器、あらゆるサウンドを再配置しつつインプロビゼーションに軸を置く、あらゆる音楽にアプローチする聴きやすさの一方ラジカルでレフトフィールドな姿勢という理想的なスタイルを詰め込んだのが2023年リリースの本作だ。Matthew Sage本人によれば本作は完成までに5年かけたという。おそらく並行する無数のプロジェクトの傍ら静かに取り組んでいたのではないかと筆者は想像する。

冒頭のBendin’ Inは導入部分の電子音のインプロに現代音楽的アプローチを予想するが、中盤から入るギターのエディット感覚が非常にバレアリックで親しみを覚える。エレクトロニカ的なサウンドを維持しながら続くMap to Hereに入るがここでは細かく音を紡ぎながら全体としてはアンビエントスケープを見せる。前衛的かつ美しい表現だと思う。

River Turns Woodleyは、ギターのストロークと自然音に静かなシンセサイザーが重なり合うチルアウトトラックだが、中盤からのリズムトラックのアプローチにやはりバレアリックな要素を感じる。Crick Dynamoは、コード進行が美しい。ポップさとメロウなコードはとても印象的だが楽曲全体を支配するのは空間エフェクトでそのことは中間部のインプロパートの存在によって気付かされる。

全体として大きく盛り上げるあるいは壮大にサウンドを広げるというアプローチはあまり見られない。時間をかけてトラックを作り込むことでそういったある種のボラティリティは次第に削ぎ落とされていったのかもしれない。その分、残ったのは極めて安定した質感とラジカルな姿勢の融合だ。とても美しく聞きやすいアルバムに仕上がっていると思う。

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