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Stephen Steinbrink - Disappearing Coin

2023年に発表された本作は復帰作ということになっている。活動休止の間、彼はステンドグラスの製作を学びガラス職人として、あるいは仏教を学び修道僧として、音楽活動はわずかなサポート以外には行わず、あるいは発表されずにいた。本作のタイトルはこの期間にYouTubeで発見したストリートマジシャンの動画で、マジックの不安が自身の砂漠の街で育った不安感と共鳴したという。こうしたフィーリングと赤裸々な感情がスティーヴンスタインブリンクらしい繊細な感性によってとてもうまくパッケージされている。

冒頭、スティーヴンのUSインディーフォーク以外の持ち味でもあるミニマルな要素が打ち出され、静かな電子音にほぼドラム、ベースだけで作り込まれたバックトラックに声が静かにかさなる。コードチェンジの瞬間にコーラス音域が広がるオープニングが素晴らしい。前作のやや派手な演出と比べると静かな始まり方だが暖かく素晴らしい楽曲だと思う。

Cruiserは、シンプルなピアノとギターにブラシを多用したドラムが入り込み、美しいメロディーがそれらを一つにまとめる、穏やかに流れるような8ビートが染み入る楽曲だ。続く」Nowhere Realは静かなギターによる弾き語りだがこのつながりにどことなく砂漠の街を連想させるが、バックに聞こえるフィールドレコーディングの自然音は潤いを感じさせる。この2曲はどちらも派手さはないがアルバム後半にやや力強いRepriseが用意されているなど本作の重要な位置付けではないかと思う。

タイトルにも関連する、Step’s Disappearing Coinは短いインストで、ミニマルなピアノに折り重なるフレーズがとても実験的でありつつポップでもあり美しい。前述のCruiserのRepriseはここからそのままつなげられている。アルバム最後のIt Is What I Want But Not What I Needは、朴訥としたオルガンを軸にしたインストだ。前作から5年のブランク、5年はポップミュージックにおけるブランクとしては決して長くはなくむしろ当たり前にある。しかし本人にとってこの5年は長かったのかもしれない。そういった試行錯誤を感じさせるのがこのラストに収録されたトラックとそのタイトルだ。

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