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Silentwave - Inner Voice

横浜を拠点に活動するdeep techno~ネオクラシカル作曲家silentwavesことYOSHINORI NOGUCHIによる2022年リリースの本作は、Rhys Kentishによる写真とリリースレーベルであるoscarson自身によるアートワークが目を引く25枚限定アナログプレスが話題になった。本作は極めて寡黙だがメッセージ性を秘めた作品だと思う。

タイトルトラックであるA面のInner Voiceは、ノンビートドローン作品になっている。コンテンポラリーなアンビエントはASMRの流れを組んだ細かな音粒を含むアプローチも多くみられるが本作はそういった要素は含まれておらず純然たるドローンによって成立させている。低音から高音までさまざまな倍音がゆっくりと発音されていくがノイズにはならずあくまで和声を保ち続けている。その意味では極めて音楽的なアプローチだと思う。

B面のVoice of the Mountainは、タイトル曲同様にノンビートドローンになるが、倍音の入り組み方には若干複雑な要素が見られる。ゆっくりとした和声の移り変わりの中で和声から外れた倍音が静かにピンクノイズ化している為だ。やがて終盤にはあらゆる周波数成分が重なることで次第にホワイトノイズ化していく。

カバーアートは、内なる声と山々の声どちらも表象しているように思える。その上で倍音が和声を保っているInner Voiceは、個体自身の均衡や整然であろうとするバランスのような内省を感じた。一方で無数の倍音によって最終的にホワイトノイズ化したVoice of the Mountainは、まさに自然界のランダムなあらゆる音が結果として騒音を打ち消すということと同じようにホワイトノイズそのものとして耳に迫る。しかしそれは和声の移り変わりによるものである。その観点からは自然界も無数のInner Voiceの集積とも言える。2つの異なるアプローチによるドローン作品が非常に美しい対比になっている。

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