見出し画像

沖縄のメガネ職人


ビッグメガネは小さな眼鏡店

那覇市の中心地に、かつて二中と呼ばれた県立那覇高校がある。かつては沖縄県知事を筆頭に政治家、経営者、医療、学術関係者など、沖縄県をけん引する人材を送り出した地元の名門校として知られている。

那覇高校の正門横に建つのが城岳同窓会館。学校卒業者たちの同窓会事務局であり、また、現役生徒たちに自習室などを提供している。この会館1階の奥に、小さな眼鏡店ビッグメガネ那覇がある。もちろん、店主は那覇高校の卒業生。

画像3

もともとは、東京・新宿駅前で開業していた、業界ではかなり有名なメガネ店だったらしい。20坪に満たない小さな店ながら当時の年商はおよそ1億円。経済新聞に取り上げられたこともある。坪当たりの売り上げが日本一のメガネ店として。

何人ものスタッフを使い、エッジの効いた一流フレームをいち早く仕入れ、芸能関係者の顧客も多かったビッグメガネは、サービスの良さと価格の安さで知られていた。繁盛していたと言えよう。

なぜ、沖縄、那覇に移転してしまったのか。

鮭は故郷の川を上る

新宿再開発に絡む立ち退き問題もあったが、新里店長が気にかけたのは、那覇に住む、子供のいない80歳の叔母の介護問題だった。

叔母の面倒を見ながら1年ほど沖縄で過ごし、新宿の再開発が落ち着いたら店舗再開、のつもりで沖縄に戻ってきたのだという。2007年。あくまでも気楽な里帰りのつもりに過ぎない。

ところが、大学を出てから30数年ぶりの沖縄暮らしは、自分を振り返るゆとり時間を与えてくれた。人間関係が煩わしくて捨てたはずの故郷で……。

時間に追われながら過ごしてきた東京での日々。利益も大きいが支出も多額の油断できない環境。しかも、忙しさにかまけておろそかにしてきたツケが身体を蝕みつつもあった。

人生半ばを過ぎ、父が病で倒れた歳に近づきつつある。長年の不摂生、老いていく身体。親父が死んだ年まで、自分は生きられるだろうか。

新里店長は、東京に戻ることを止めた。

画像5

沖縄に腰を据えようと、ビッグメガネ那覇をオープンしたのは2009年である。那覇高校のかつての同級生たちが祝福してくれた。

15坪の小さな店。奥まっているため全く目立たない。しかし沖縄の日差しを考えれば商品を劣化させる紫外線は入らないほうが良いという。

かつての同級生たちが応援してくれたとはいえ、オープン当初は苦戦した。開業して数年間は赤字が続いたようだ。軌道に乗ってきたのはごく最近のことらしい。

全国からメガネ専門店が姿を消しつつあるなかでの新規オープン。大手のメガネチェーンですら淘汰が始まっていた時期でもある。上手くいくほうがおかしい。

にもかかわらず、ビッグメガネ那覇はこの地で開業12年を超えた。売り上げ規模は小さくとも、個人店としては快挙と呼べるかもしれない。

眼鏡は顔のど真ん中

ビッグメガネではひとりのお客さんに、1時間、2時間、じっくりと時間をかけることが多い。フレームにしても、ユンタクしながら選んでもらう。

できたら予約貸し切りがおススメ。ビッグメガネは午前中を予約制にしている。眼鏡に関する相談タイムであり、ゆっくりと安心して向き合えるだろう。

バナー

いろんなフレームを試してほしいと新里店長は言う。

もともとの肌質の違いで、例えば、金色より銀色が似合ったり、黒より茶色がマッチしたり。赤が似合ったり、ブルー系だったり、また、グリーン系の人もいる。

「私には派手すぎる」とか「ちょっと個性的」、「ぜったい似合わない」などと考える前に、まずはかけてみて、自由に、楽しく、メガネフレームで遊んでみてはどうだろう。

コロナ禍だけど大丈夫。ビッグメガネでは着用したフレームを専用の殺菌庫で全部きちんと殺菌消毒している。

顔かたち。肌の色。髪型。体形。ファッション。イメージ。

メガネを顔の一部として、自身に似合うデザインパターンをつかんでいる人もいれば、無難にまとめて無味乾燥、せっかくの個性を消してしまっている人もいる。

世の中、多種多様なブランドがあるなかで、他者に一番見られるのがメガネではないだろうか。

画像5

バッグ? ファッション? 靴?

否! 絶対的にメガネだ。サングラスだ!

何しろ顔のど真ん中。決しておろそかにはできない。

「よく無くすからサングラスは百均で良くない?」

だめだ。質感が全く違う。材質の差は一目瞭然。いくらおしゃれしても見ればチープ感丸出し。しかもレンズが最悪。良いメガネは、眼鏡好きならばすぐわかる。値段すらあてられてしまう。

もちろん、早く白内障になりたいなら反対はしない。紫外線カット、ブルーライトカットをうたっていても、実は有害可視光線をカットできていない安いレンズもある。

ブルーライトとは、いわば電子レンジで目を焦がしているようもの。スマホにカット機能がついているものもあるらしいが、長く見続けて涙目になったりする人は用心ほしい。
メガネはファッションの一部であると同時に、目を守る大切な機能があるんだよね。

さて、今や眼鏡職人は、最後のオルゴール職人並みに貴重な存在となっている。大手チェーンによる分業体制の進化で、眼鏡のA~Zを扱える人材が消えつつあるせいか、新里店長のもとには、他店で断られた眼鏡の修理依頼が全国から届く。

画像5


この記事が参加している募集