吉野万理子『100%ガールズ 1st season』を読んで

 『100%ガールズ 1st season』(吉野万理子著)は講談社の「YA! ENTERTAINMENT」シリーズの中の一冊。YA は 「まだ大人じゃないけど、もう子供でもない」というYoung Adult、小中学生向けのシリーズだ。大人の目から見れば児童書と言ってもいい。
 話の内容は女子校という特殊な世界の中で主人公が中学1年生を過ごしていく成長物語だ。対象読者は女子校への受験を考えている小学4~6年生女子とその保護者、女子校で青春を送ったOGといったところで、かなりニッチな著作だと思う。タイトルに女子校を臭わせなかったのは変態除けに寄与している。
 私がこの本を知るきっかけになったのは娘の中学受験で情報収集のため中学受験関連のブログを読んでいたらこの本が絶賛されていたからだ。著者の吉野万理子先生の出身校がモデルになっているらしく、学校生活がリアルに描かれているとその学校のOGの方が書かれていた。ちょうどその頃、我が家では娘の受験校に女子校を考えはじめていた。私たちは女子校のスクールライフというものを全く知らなかったので、まずは情報として『100%ガールズ』を読んでみたいと思った。

 話の内容をもう少し詳しく、ネタバレにならない程度に紹介する。
 男っぽくあることがカッコイイと思っていた小学6年生の司真純は同級生にスカート姿を見られたくないという理由で中高一貫校の「横浜みなと女学園」に入学した。そこはお嬢様学校と世間で言われているところだった。
 妹の真奈美から女子校って女同士すごくネチネチしてて大変だと脅された真純は登校初日から緊張していた。しかし学校で知り合った先輩や校長先生の話を聞いているうちに、この学校は思っていたのと違って素晴らしいものではないかと感じ始めた。
 学校生活が始まりサッカー部での活動や体育祭、合唱コンクール、夏合宿、文化祭とイベントを体験していくごとに真純の世界は広がっていく。自由とは何か、格好よさとは何か。横浜みなと女学園の文化に包まれながら真純たち中学1年生は成長していく。

 『100%ガールズ 1st season』は爽やかな青春物語でとても面白かった。私はこの話の中に出てくる横浜みなと女学園がすっかり好きになってしまった。娘が通う学校もこんな校風だったらいいなと夢想した。今、娘の通っている女子校はこの学校とは校風は少し違うけれども、主人公の真純と同じように学校に行くのが楽しみで仕方がないようで、幸せなスクールライフを送っている。

 小説についてもう少し。
 この小説で好き嫌いが分かれそうなところは、この話には登場人物にいい人しかいないところだ。健全過ぎてつまらないと思う人がいるかもしれない。確かに道徳の教科書っぽい感じがしないでもない。でも、中学1年生がこの環境で生活していればいい子になるだろうな~と思えてしまうところに吉野先生の力量を発揮されていると思う。
 あと、この小説では始まりと終わりは心情や情景がしっかり描かれていたが、中盤の各種イベントではそれぞれの話が早めに切り上げられていて物足りなかった。ちょっとこれは余韻を残すというレベルを超えていると思う。この先をもっと読みたいよ! ということなんだけど、本1冊にまとめるためには仕方のないことなのかな。話の密度の濃淡の大きさは好き嫌いが分かれそう。

 この本は中学受験を考えている小学生女子とその父兄には大いにお薦めしたい。女子校もいろいろだからこんな学校ばかりじゃないことはわかっているけれど、女子校特有のサバサバした感じは結構共通しているんじゃないかな。実際にうちの娘が通っている学校もネチネチしていなくてサバサバしている。
 ちょっとだけうちの子が通っている学校の様子を書いておこうと思う。まず、いじめがない。スクールカーストがなくて、アニオタやジャニオタがたくさんいる。休憩時間にはお菓子を食べるのは当たり前で、クラスの1/3は早弁している。お菓子はババ菓子やジジ菓子も好まれていて、するめを齧りながら大笑いをしている。学校から家に電話がかかってくると、受話器の向こうがギャーギャーうるさい。動物園か! 運動会はジャニーズのコンサートのような盛り上がりを見せる。あと、女子力が低い。
 この本を読んだ後、男子校はどんな感じなのかなと思った。女子のいない物足りなさはあるものの、学校生活はとても楽しいという話はよく聞く。私は共学出身だったので男子だけの環境は経験したことがない。女子校が楽しいんだったら、きっと男子校も楽しいだろう。

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