離島のおじい・おばあは元気、その実は、、、

「沖縄の離島のおじい・おばあはいつまでも元気で島の生活をエンジョイしている。」というイメージが各種メディア等で形成されているように思われます。本当にそうなのでしょうか?
私はかつて石垣島の病院に勤めていました。その時に縁ができて八重山の島々で訪問リハビリや体操教室を行わせていただいています。
私が八重山諸島の島々に訪れ出会うおじい・おばあ達はみなさん元気で、私はエネルギーをもらって帰ります。島々へ訪問を重ねることで見えてきたことがありました。「離島では、高齢者は元気じゃないと暮らせない。」ということでした。日常生活動作が自立していないと生活は厳しい現状があり、要介護状態になると島で生きてくことは難しくなり、結果として自立している高齢者が多いということとなります。
その理由はいくつか挙げられます。まずは社会資源が乏しいことです。都市部では要支援・要介護状態になった場合、利用できる訪問・在宅サービスは選択できるほどあります。一方離島では、サービスは限られたものしかありません。介護保険はサービス供給があるという前提のもので、離島にはこれがあてはまらず、恩恵を受けることは難しい現状です。ふたつめは、家屋環境にあります。八重山地方の離島の住宅は、玄関がなく、縁側から家に出入りする構造が多く、縁側は40㎝以上の段差があります。トイレ浴室は母屋の外に作られていることが多いです。母屋の中にトイレ浴室を設置している家もありますが、後付けのため段差が残ってしまうことがあり、自宅内はバリアがたくさんあり、身体機能が低下した場合は移動が厳しくなる現状があります。そして島の家族のサポート力が弱いことです。独居や老老世帯であることが多く、若い家族のサポートが得にくい現状があります。そこは島の住民間の密な人間関係が補ってくれることはありますが、限界があります。
このように住み慣れた島で高齢者が暮らし続けることの難しさがあります。石垣島の病院に勤めていた時に、離島から入院された患者様との会話が印象に残っています。「島の人はね、入院で島を船で出るとき、生きてまたこの船に乗って島に帰れないかもしれない、と覚悟をもって来るんだよ。」と話されました。実際、離島から入院された患者様の転帰は、元気に島に戻る方も多いです。一方ADL能力が低下しても在宅・訪問サービスを利用できれば自宅退院が可能と思われる方も、離島でサービスがないために仕方がなく、石垣島や沖縄本島のご家族宅もしくは施設に退院される方も多かったです。
そのような現状を目のあたりにする中で、有志で八重山地方の離島へリハビリを提供する活動がはじまりました。離島への体操教室の実施や、訪問リハビリを行ったり、施設への摂食嚥下の指導を行ったりしています。訪問リハビリでは、利用者から、「見捨てないで来てくれてありがとう。」と切実な言葉をいただくこともありました。また今でいうリモート会議システムを利用した多元的な体操教室を2012年から実施するなど行っていました。その頃はリモートという言葉は一般化されておらず、実施にハードルが高く継続することができませんでした。しかしコロナ禍の現在、リモート会議が社会で認識され、利用するハードルが下がっています。地理的距離を解消できるこのシステムは離島地域にとって利用価値の高いシステムとも言えます。それを離島へのリハビリ提供に有効利用していけたらと考えています。一方では、先述のようにface to faceで直接訪問する意義も忘れてはいけません。直接と間接(リモート)のハイブリッドを模索していきたいと考えています。
元気じゃなくても住み慣れた島で暮らせる人を一人でも増やせるように、少しでも貢献できるよう模索を続けていきたいと思っています。

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