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コロナ渦不染日記 #10

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五月七日(木)

 ○夢。
 顔面の筋肉に異常が出て、笑えなくなってしまう。始終むっつりした顔のまますごさねばならず、しゃべるために口を動かすこともおっくうである。思うようにコミュニケーションがとれない。

 ○在宅勤務再開。つつがなく業務を終える。

 ○ゴールデンウィークが終わり、行動制限を緩和、解除する県や自治体があるという。休業要請を解除し、店舗の営業を再開している県もあるらしい。しかし、そうなると、今月末までの行動制限や休業要請が続く特定警戒都道府県とのあいだに、さまざまな格差が生まれるであろう。人の行き来も増えてしまうに違いない。そうなればまた感染が広まる可能性もあるのではないか。
 一方で、都内での、本日の新規感染者数は二十三人、これで五日連続で百人を下回っているという。外出自粛や、緊急事態宣言発出の効果が出たということだろうか。十四日には、特定警戒都道府県の緊急事態宣言解除にむけて、専門家の再評価を行うという、総理大臣会見での発言もあった。
 いずれにしても、休業中の業種、中小零細企業、そして生活に困難のある家庭や個人にむけた、国からの援助や給付が行われなければ、これまでの「自粛」の補填がないことになる。また、今月末まで制限を続けるのか、それてとも十四日以降に解除の方向に進むのか、はっきりしない事態に振りまわされることは、ストレスを生むことで変わりはない。巷間よくいわれた、「自粛と給付はセット」は、そういうストレスの発露であろう。

 ○夕食はお好み焼き。チーズは多めに入れる。

 ○夜。抗ウィルス剤「レムデシビル」が、新型コロナウィルスの治療薬として承認されたという。新型コロナウィルスの抗体を人工的に開発したというニュースもあった。もちろん、レムデシビルは重症患者に限定するものだというし、特効薬、あるいは完全な予防策ができあがったわけではないが、少しく安心するニュースではある。

 ○なんとなく眠れず。日が変わるまでもぞもぞしている。

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五月八日(金)

 ○目覚めても疲れがとれず。在宅勤務が始まるも、眼が疲れている。

 ○終業後、岬へ向かう。ひと出はゴールデンウィーク前より多いくらい。出勤せざるをえない向きもあろうが、在宅だけでは鬱屈がたまるところもあるだろう。ぼくもこういう外出を気晴らしにしている。
 イナバさんとはピザを食べる。やはり他人の作ってくれたご飯はそれだけでうまい。

 ○この災禍に即した特別定額給付金の申請がスタートした。ぼくの住んでいる地域でも、書類申請にさきだってオンライン申請がスタートしたようである。しかし、準備するものがどこの家庭にあるものでもなかったり、手順が複雑であったりと、ひろく開かれた窓口というよりは、試験的なものであろうと思う。実際に、物理的に窓口にて申請受付をするのは煩雑で時間もかかろうが、しかし、そもそも窓口が狭いオンライン申請も普及したものとは思われない。

 ○これ以外にも、テレワークにしても、遠隔授業にしても、ICTの普及率が全体でさほどでもない現行の社会においては、あるプロジェクトをすべてオンライン上で完結してしまうことはできないのである。それは、オンラインというのが唯一の「(精神の器としての)肉体」ではないからであろう。われわれの精神は、相変わらず生まれもった肉体に強く結びつけられている。オンラインはいまだ、コミュニケーションの一ツールでしかなく、選択肢のひとつにすぎないのである。
 そして、そうした選択肢を一つ増やすことは、それだけ手間がかかることになる。もちろん、そうする価値があるからそうしているのだし、オンラインで手続きが行われることそのものをぼくは否定はしない。しかし、そうして手間がかかることにストレスを感じる人もいる。そしてストレスを感じると、人は騒ぎだす。ストレスの原因を排除しようとする、というよりは、ストレスへの拒否感からむずがるのである。
 これは給付金のことにとどまらない。「気に入らないもの」に対して、誰もがむずがるのだ。そして、むずがるときは生物的にそうすることになるので、理性的にものごとを判断することができなくなる。
 だから、むずがる自分を発見したら、なるべくむずがることを抑えて、「なにが自分をむずがらせているのか」をしっかりと見つめようとすること、そのための精神を鍛錬していくことが大切であろう。そうできている人もいるだろうし、なかなかそうもゆかない人もいるだろうが、今後そういうことができるようになることが必要であるのは間違いない。

 ○一日中涼しい日。これで五月とはにわかに信じがたい。夜は半袖で出かけたが、毛皮があっても肌寒い。



→「#10 豚キムチの思い出」



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/


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