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ザ・マレフィセント・セブン #6

◆六人目◆

「今の見たか、ワックスワーク=サン」

 去ってゆくワッチドッグを呆然と見送るワックスワークの背中に声がかかった。
 グランドマスター・ケイビインの部下として、ともにキョート城の中庭エリアとビジター区を警備するストラングラーヴァインである。

「消えちまったな、さっきのやつ」

 ストラングラーヴァインはヒュウと口笛を吹いた。

 確かに、恐るべき猟犬ニンジャ・ワッチドッグに追われ、恐怖に歪んだ顔で、キョート城中庭と、彼らのいるビジター区を隔てる強化ガラスを叩いていた裏切り者ニンジャは、つい今しがた、ワックスワークの目の前で消え失せた。

「なんらかのジツだろう……」

 彼は相棒の推測に同意しようと振り返った。
 そして、相棒の目の中に、さきほど姿を消したはずのリフレクタンスを見た。

 正確には、つい先程、背後に追いすがるワッチドッグが振り上げた前肢の四角錐状刃物と、ワックスワークの瞳が作る合わせ鏡の世界に、オポジット・ミラー・ジツを用いて逃げ込んだリフレクタンスの鏡像を。

 ワックスワークは血走った目を見開いた。ストラングラーヴァインの目に映った己の瞳の中のリフレクタンスの、瞑目した瞼に縫い取られた鏡文字が、正しい文字となって見えたのだ。

 瞳の中でリフレクタンスが瞑目したのは、合わせ鏡の中にいては攻撃できず、出れば二対一の状況を、アドバンスド・ショーギでいう「オーテ・ツミ」と悟った絶望と知ったかどうか。
とにかく、ワックスワークは知ってしまったのだ……畏るべきロード・オブ・ザイバツの秘密を!

 耳の奥で、破裂寸前の心臓が熱い鼓動を繰り返しているのが感じられる。頭のなかで、ニューロンがついさっき知った秘密に耐えきれず、悲鳴を上げているのが感じられる。
 ワックスワークは震えながらストングラーヴァインに近づいて、相手の首を締めた。

「ウグッ」

 ストラングラーヴァインはもがきながら、両手に鋭い棘が無数に植わった蔦をカラテ発生して、ワックスワークの体をめちゃめちゃに引き裂いた。
 だが、ワックスワークの「ロウ・ニン・ジツ」は、この攻撃を無効化した。

 このジツは、彼の全身を蝋細工めいて変化させる。その際、彼の体はあらゆる物理攻撃が無効となるのだった。
 突き、刺し、えぐり、潰し、左右に分割されても、ジツの効く間にぴたり合わさって平然としていたこともある。
 銃弾で撃たれても、カラテミサイルを浴びせられても、生き延びるかと思われた。

 やがて……、

「サヨナラ!」

 糸の切れたジョルリめいて庭園に倒れ込んだストラングラーヴァインがしめやかに爆発四散した。この時、いつのまにか彼の瞳に移動したリフレクタンスも爆発四散している。

 しかし、ワックスワークは、己の体が、この二重の爆発四散によるダメージを無効化したことにすら気づかなかった。

 俺がなにをしたというんだ……ただここにいただけなのに……理不尽だ――。

 彼は喪神して、よろよろとビジター区を通り過ぎた。
 自分が「厄介者[マレフィセント]」になった自覚すらなかった。
 緑の生け垣で造られた迷路を抜け、キョート城外周へと向かう彼の足取りは、あたかも天魔に魅入られたかのようだった。

 だから……彼は、キョート城外周へ至るゲートを抜けたところで、第七のニンジャに出会ったことに気づかなかったのである。

#7へつづく


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"Ninjaslayer"
Written by Bradley Bond & Philip "Ninj@" Mozez
Translated by 本兌有 & 杉ライカ
Twitter:@NJSLYR
日本語版公式URL:https://diehardtales.com/m/m03ec1ae13650
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