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コロナ渦不染日記 #93

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一月十六日(土)

 ○昨日に引き続き、気持ちがくさくさしてならない。
 イナバさんが買い物に行くというのを、相棒の下品ラビットが聞きつけたので、三匹で出かけることにする。

 ○岬の駅前で待ち合わせ、昼食はひさしぶりにビーフバンクへゆく。今年初のビーフバンクである。

 下品ラビットがビーフカレー、ぼくはオールビーフハンバーグ丼に、牛すじをとうがらしのペーストとあえた「牛の辛いの」を頼んだ。イナバさんが、和牛と低温調理ビーフのビーフバンク丼に、温玉とガーリックバターを添えていたので、ぼくもガーリックバターを追加する。

 ○腹がいっぱいになったので、岬周辺で買い物をする。岬は大都会なので、探しているものはだいたい手に入る。イナバさんは服を買い、下品ラビットは小型のDVDプレイヤーを買い、ぼくは本を買った。

 ○夕食は、緊急事態宣言下の営業時間短縮要請によって、さんざん迷ったが、駅からすこし歩いたところにあるバー「るみなすキッチン」にした。

 いつもはしっかりとご飯を食べてから、二軒目に足を運ぶことのおおかった店である。今日は最初から、ご飯を食べるつもりでむかった。
 店長さんはじめ、店員さんたちが、うさぎ三匹連れのわれわれのことを気に入ってくれ、間隔があいても覚えていてくれる、暖かい店である。特に、店長さんは、この店のウリである、クラフトジンに一家言ある人物で、ジンの特徴から飲み方まで、笑顔を浮かべながら親切に教えてくれる好人物だ。今回も、会員限定の国産ジンと、アメリカの有名ウィスキー蒸留所が、ウィスキー樽で寝かせたジンを、飲み方とともに勧めてくれた。

 ○店長さんの勧めにしたがって、下品ラビットが注文したのは、北海道の「紅櫻蒸留所」の「クラフトジン9148」である。

 しかも、会員限定の「1004」は、「クラフトジン9148」の特徴である、昆布などのボタニカルはそのままに、ブラックペッパーやクローブなどを加えた特別なレシピであるという。

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 店長さんのお勧めはソーダ割り。
「発泡のおかげで、香りがよく立っているな」
 下品ラビットが、まず飲む前に、鼻をひくつかせながらそう評すると、店長さんはうれしそうに目を細めていた。

 ○ぼくが頼んだのは、店長さんもうひとつのお勧めである、アメリカのウィスキーメーカー「KOVAL」の「BARRELED GIN」である。「BARRELED」の呼び名のとおり、ウィスキーの樽に移して寝かせてある。
「ほら、ちょっと黄色みがかっているでしょう。樽の色が移ってるんですね」
 と、店長さんが説明してくれる。

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 お勧めにしたがい、最初はロックで、あとでソーダを追加するという流れにした。手元にいただいたグラスを揺らすと、不思議な香りが立ちのぼった。ジンのそれとも、ウィスキーのそれとも異なる、これまで嗅いだことのない香りである。口にふくめば、こちらも経験したことのない味で、ジンといって思い浮かべるものでもなければ、ウィスキーといって思い出すものでもない、甘くてまったりとした味である。あえて、ぼくの記憶のなかでいちばんちかい味をあげれば、サーティワンアイスクリームの「クッキーアンドクリーム」だろうか。すごいすごいと感激しながら、なん口も味わっていると、ソーダを追加したときには、おいしいと感じるよりもすこし味が薄まってしまった。

 アマゾンでは、500mlで五〇〇〇円弱と、想定範囲内の金額である。下品ラビットも飲みたそうにしていたので、巣穴にかえってから、話し合うことにした。

 ○酒もうまいが、料理もうまいのが「るみなすキッチン」である。三匹でたっぷりと夕食を食べ、満足して店を後にした。
 しかし、それも午後八時の営業自粛時間を超えない、「よいこ」の時間である。長居してだらだらと過ごすことができないのは、口惜しいことである。

 ○本日の、全国の新規感染者数は、七〇一一人(前週比-七七六人)。
 そのうち、東京は、一八〇九人(前週比-四五九人)。


一月十七日(日)

 ○朝、ゆっくりと起き出して、コーヒーを淹れていると、相棒の下品ラビットが、昨日買ったDVDプレイヤーをテレビにつないでいる。
 巣穴に、DVDプレイヤーは二台目である。一台目は使えている。なぜ二台目を買ったかというと、ぼくたちの大好きな『ジェシカおばさんの事件簿』のDVDが、一台目では再生できないからである。

 かつて、ぼくたちが子供のころ、NHKで放送されていた番組である。アンジェラ・ランズベリー氏演じる、田舎暮らしのミステリ小説家のおばさんが、毎回実際の事件に巻き込まれるという、コージー(こぢんまりした/地元感のある)ミステリのシリーズだが、『刑事コロンボ』の原作・原案を担当したスタッフによる企画とあって、本格ミステリ的な要素や、先行作品のパロディ、オマージュを盛り込んで、見応えのある番組であった。
 ぼくたちが特に好きなのは、高速バス内での殺人事件に、二転三転する展開と本格ミステリ的なトリックがもうけられた「道づれは恐い人」(シーズン1)と、『12人の怒れる男』をだいたんにパロディしつつ、それを本格ミステリとして再構成した「陪審員はつらいもの」(シーズン2)である。


 ○本日の、全国の新規感染者数は、五七五六人(前週比-三三五人)。
 そのうち、東京は、一五九二人(前週比+九八人)。

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→「#94 体調が悪いと、こうも気持ちがささくれるものか」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣ギ画」(https://chojugiga.com/


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