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ザ・マレフィセント・セブン #7

◆七人目◆

「イヤーッ!」

 そのカラテシャウトを耳にした時、リフォーマーは失われた味覚を悲しんでいた。

◇ ◇ ◇

 ……彼は生きていた。
 ラパチーニのドクシン・ジツを受けた瞬間、己じしんにトリケ・バヤ・ジツをかけ、皮膚感覚と味覚を入れ替えたことで、即死を免れたのだった。

 その後、コディアックベアの爆発四散に紛れるまで、己の死を偽装した彼は、ホンマル内の緊急治療室に潜入し、手当たり次第薬を用いて解毒を済ませた。

 しかし、トリケ・バヤ・ジツを解除しても、味覚はもとには戻らなかった。劇毒のダメージを皮膚に代わって受けている間に、永遠に失われてしまったのだった。

 命が助かったのだから……そう考えつつも、彼は味覚の失われたことを悲しんだ。
 数時間前に毒味した、舌の上でとろけるオーガニック・トロとそれを引き立てる絶妙な分量のワサビのあわせ技イポンをニューロンに反芻しながら彼はしめやかに泣いた。
 もう二度と味わえない妙味は夢にして終わった。

 そして――偶然見つけたカケジク型モニタ裏のシュートを下り、電源の切れたカケジク型モニタの並ぶ回廊を駆け抜け、中庭エリアの、パラゴン配下のみ知る通路を通り、ビジター区の地下を抜け城の外周へ出たところで、物陰で再び失われた味覚を嘆き悲しんでいた彼は、第七のニンジャに出会ったのである。

◇ ◇ ◇

 そのカラテシャウトを耳にしたリフォーマーは、咄嗟に物陰から飛び出してしまった。
 そこで、彼は燃え上がるワックスワークを見た。

「グワーッ!」

 ワックスワークの全身を蝋と化すロウ・ニン・ジツが、カトンの炎によく燃える体質を作り出すのだということを、リフォーマーが気づいたかどうか。

 なぜなら、彼は冷水を浴びせられたように体を硬直させていたからだ。
 いや、硬直した彼に浴びせられたのは冷水ではなかった。目までも燃え盛るロウソクと化し、全身を苛む熱と痛みに狂気に駆られ、どろどろに溶けながら迫ってきたワックスワークの体が、いままさに燃え上がりつつ、怒涛のようにリフォーマーを襲ったのだった。

「グワーッ!」

 リフォーマーは絶叫した。

 熱と痛みにのたうち回る彼に、

「ドーモ、……エート、裏切り者=サン」

 キョート城外周部、普段は観光客のひしめく石畳エリアから、若い女の声が聞こえてきた。

「イグナイトです」

 リフォーマーは口を開き、彼の知った秘密を、畏るべきロードの秘密を喋ろうとした。

 死ね。イグナイト=サン。

 あと少しだったのに。せっかくあと少しで、この理不尽な偶然の災厄を、災厄の吹き荒れる恐怖の城を、逃れることができたのに……。
 死ね。貴様もこのノロイに苦しんで……ロードの、いや、ザイバツの「厄介者[マレフィセント]」となって……。

 だが、そこで、死の直前に起こるソーマト・リコール現象が、現実に追いついた。

「サヨナラ!」

◇ ◇ ◇

「なァランチハンド=サン、今のアンブッシュさァ、何点もらえるよ」

 凄惨な光景を無邪気に笑うイグナイトを見下ろし、ランチハンドは顔をしかめた。
 そしてイグナイトの頭から丁寧にヘッドホンを取り去ると、

「彼……彼らは、何か言っていたか」

「知らね」

 ランチハンドの手の中で、イグナイトのヘッドホンはシャカシャカと耳障りな音楽を漏らしていた。

◇ ◇ ◇

 だが、神ならぬ身のランチハンドには予想すらできなかった、この夜の災厄を避けつつ、文字通り灰燼へと化さしめた彼のアプレンティスが、後年、偶然でなしに、己の意思でロードにたてつく厄介者[マレフィセント]になろうとは――七人目。

(おしまい)


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"Ninjaslayer"
Written by Bradley Bond & Philip "Ninj@" Mozez
Translated by 本兌有 & 杉ライカ
Twitter:@NJSLYR
日本語版公式URL:https://diehardtales.com/m/m03ec1ae13650
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