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家族はゆるやかに壊れていく #2

前回はこちら→https://note.com/yaotl/n/n222319153682

仕事を退職し、無趣味で、酒を飲み歩くことだけが楽しみの義父の話である。
ある日突然、その義父の片方の目が、もう片方の目と連動しなくなった。数日前には普通にゴルフに行っていたのに(とはいえ18ホールどころかその半分を歩く体力もなくなっているそうだが)。
慌てて各種精密検査を受けたところ、ウェルニッケ-サコルニフ脳症と診断された。

初めて聞いた時、ウェル…何?となった。
初耳の病名だ。

ウェルニッケ-サコルニフ脳症について検索した。
ウェルニッケ-サコルニフ脳症は、アルコール摂取により失われるビタミンB1の欠乏によって起こる脳の病気だそうだ。
ビタミンB1不足と言うと、大航海時代の船乗りが長く船上で過ごしてビタミンB1不足になり、脚気などを引き起こしたアレが思い出された。

しかし今は令和で、ここは陸の上。大航海時代の船乗りと同じ病気に罹るなんて、何て器用なんだ。

ちなみに義父はタバコの吸い過ぎで肺気腫もやっており、今はどうにか電子タバコに移行しているが、口に何か咥える行為はやめられないようである。赤子か?

明らかに満身創痍なのだが、そんな義父に同情することができない。こんなに同情できない病人が存在するのかと、新鮮な驚きすら覚える。

老後の貧困に怯えることも、ガタが来ている身体の心配をすることもなく、妻にストレスをかけ子供に酒代をやりくりさせてもひたすら飲む。どういう人生を歩んだらそうなるのだろう、と疑問を抱いた。


義父は、団塊の世代ど真ん中の生まれだ。
義父の父(私にとって義祖父に当たる)は九州地方の漁村の出で、第二次大戦時には文官として大陸に赴き、戦後はその身ひとつで東京で会社を立ち上げた。
その長男坊として戦後すぐに生まれた義父は、貧困などとは無縁に育ったようだ。
銀座生まれだと吹聴しているが、真否は謎である(現に家族の本籍は銀座であるが、究極的には皇居の住所すら本籍にできるので何とでも言える)。

安保闘争や学生運動華やかなりし頃にドンピシャで大学生で、ろくに勉強もしないまま卒業し(本人談)、父の会社に入る。

どこかの時点でアメリカに留学か遊学かをしており、お見合い相手だった義母はわざわざアメリカまで行ってお見合いしたと聞いた。
1ドル360円の時代は終わっていたはずだが、それでも海外旅行は贅沢だった頃に、景気のいい話だ。

まさに「24時間働けますか」(byリゲイン)の時代。
頻繁に銀座などの繁華街で接待をし、真夜中に帰宅すると土産の寿司やケーキを寝ている子供達を叩き起こして食べさせていたと言う。
そんな父親は嫌だ。
良い時代だったのだろう、彼にとっては。

現に、その時にバリバリと稼いだおかげで子供たちはそれなりの学校にも行けたし、お金に苦労することはなかった。
義父に対する家族からの情は主に、その時期の猛烈な働きに根差しているらしい。私には理解ができないが。
確かにお金は大事だ。しかし今、そのお金を酒に溶かしているのも本人なのだ。

家族の情が尽きるか、蓄えが尽きるか、義父自身が飲めなくなるほど体調を壊すか、耐えている義母の体調がおかしくなるか。
今まさにデッドヒートが演じられている。

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