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言葉は無いけど、お喋りです。

私は子どもが苦手でした。それは会話が成立しないからです。だから子どもたちが赤ちゃん時代は、ずっと人との会話に飢えていました。

はやくいろんなことを話せるようになればいいのになぁと子どもたちが大きくなることを願っていました。

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娘が高校生ぐらいになると、それなり面白い会話が出来そうな気がしました。そこで新聞の記事を見せて「この記事に関して、私はこう思うけどあなたはどう思う?」とよく質問をしました。ちょうど思春期の娘は思いっきり不機嫌な顔をし、適当に手短に答えていました。

大学に入ったときに自分の考えをさっとまとめて答えれるようにしていれば、きっと役に立つという狙いもありましたが、娘にしたら非常に鬱陶しい母だったと思います。

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娘が社会人になり、家から離れるとともによりディープなテーマを話すことが増えました。若い世代の捉え方は、オバちゃんの私と違い実に興味深いのです。流行について質問したり、ネットニュースを送りつけ私の感想を書くなどしてやり取りをしていました。

娘はバリバリの理系女子ですが、脳内は古典文学好きの文系女子でした。それなりにド文系の私の話に付き合ってくれました。

むかし娘が住んでいた近くに図書館があったのでよく行きました。娘の家を掃除して、生活雑貨や食料品の買い出しに出かけます。用事が終わると私は図書館へ散歩に出かけ、書架を徘徊します。頃合いを見て娘が迎えに来てくれます。読み残した本(滞在時間の関係上、主には漫画)を借りてもらい娘の家で本を読みます。娘が借りている本をパラパラと斜め読みすることもありました。互いの本の内容や自分の考えを話すのです。こんなふうに私は娘の家で時間を過ごしていました。

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皮肉なことに息子には知的障害と言葉が話せない障害がありました。ですので息子とは音声による会話はありませんが、息子は小さな電子黒板を利用し何だかんだと話しかけてきます。文章は書けませんが単語を書き殴ります。難しい漢字を書きますが、字が汚くて判読できません。

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ガイドヘルパーさんはプロなので気長に対応してくれます。時には歩きながら文字盤を使い会話をしているそうです。書く方も読む方も大変です。

「彼は話したいことがいっぱいあるんですよ。言葉が喋れたら物凄いおしゃべりな子じゃないでしょうか(笑)」

「だと思います。喋れないけどけっこう煩いので、話せなくてちょうどいい塩梅かもしれません。私もおしゃべりなので、息子が話せたらおそらく近所迷惑になったでしょう。」

そもそも「俺の話を聞け!」とばかりに文字盤をぐいぐい押し付けてきたり、メモ紙に書いては「読め読め!」と目の前に見せてくるのです。しばらくすると気の短い私は「読めるように丁寧に字を書いてちょうだい。」と逃げ出してケンカになります。だから時々騒がしいのです。

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私は子どもたち以外では、日ごろ母や友だちや相談室でもお喋りをしています。おかげさまで今のところは寂しくはありません。

というわけで今日は息子が不在なので、ひとり静かな午後を過ごしております。


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