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【ゼミ生お薦め本】『暇と退屈の倫理学』増補新版

著者

國分功一郎

概要

 多くの人は暇の中で「退屈」という感覚を覚えます。日々仕事や学問に没頭する中で生まれる暇を、社会に存在するあらゆるツールを駆使して「気晴らし」をする。そんな日常が時々「退屈」に思えるのです。かといって人間は動植物のように生に没入して生き続けることはできません。「退屈」から逃れることができないのならば、人間として生きるということは苦しいことなのでしょうか。
 この本では、暇と退屈についてさまざまな学問分野の視点から観察、批判、考察するとともに、私たちが暇と退屈にどう向き合うべきかという思考の手助けをしてくれます。

目次

まえがき
序章 「好きなこと」とは何か?
第1章 暇と退屈の原理論-ウサギを狩りに行く人は本当は何が欲しいのか?
第2章 暇と退屈の系譜学-人間はいつから退屈しているのか?
第3章 暇と退屈の経済史-なぜ“ひまじん”が尊敬されてきたのか?
第4章 暇と退屈の疎外論-贅沢とは何か?
第5章 暇と退屈の哲学-そもそも退屈とは何か?
第6章 暇と退屈の人間学-トカゲの世界をのぞくことは可能か?
第7章 暇と退屈の倫理学-決断することは人間の証しか?
結論
あとがき
付録 傷と運命-『暇と退屈の倫理学』新版によせて

おすすめの理由

 私がこの本をおすすめしたい理由は、この本が私たちにヒントを与え、思考の余地を残しておいてくれるからです。暇と退屈という身近なテーマを通じて、それを定義したり、背景を紐解いたり、向き合ったりするためのプロセスが明確に示されています。
 したがってこの本を紹介するにあたり、結論だけを提示して暇と退屈について説明することは難しいでしょう。暇と退屈の本質を捉えることがこの本の目的ではないからです。著者は本の中で、「本を読むとは、その論述との付き合い方をそれぞれの読者が発見していく過程である」と語っています。この本は読者の思考実践をリードする答えのない哲学書ですが、思考実践を楽しむことの重要性について明言しているという点で、倫理学としての答えをしっかりと残しています。
 この本は分厚く、題名もまるで学術書のようですが、内容は私たちに寄り添うような語り口で書かれたカジュアルな哲学書です。ラッセルやハイデッガーなどの哲学者の思想が多く引用されていますが、専門的な知識がなくても読むことができます。むしろ、適切な引用の仕方や論理的な文章構成を専門知識なくして学ぶことができるという点において、この本は私たちが今後必要とする論理的な思考力の形成に大きく役立つでしょう。
 この本には暇と退屈に関するあまりに多くの視点が用意されているので、読者によって抱く感想は全く異なるものになると思われます。しかしながら、この本を読むという思考実践を終えたあと、私たちは暇と退屈に向き合い、それを楽しんだという実感を得ることができるはずです。物を物として捉えることができる特権を得た人間だからこそ、暇の中に「退屈」も「楽しさ」も見出すことができるのでしょう。人間であることが苦しいはずがないと、この本は読者を元気づけてくれます。
(S. F.)


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