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「名もなき人々が、それぞれの約束と向き合う」SASUKE2019大晦日を横浜赤レンガ倉庫へ見に行った話

2019年大晦日から新年の幕開け。僕は昨年と同じ場所にいました。

さかのぼること一年前、2018年の大晦日。横浜・赤レンガ倉庫にそびえ立った無機質な鉄骨の物体。その圧倒感と無力さを実感させる巨大さ。そこに立ち向かうたった一人の男の姿は、僕の心をわしづかみにしました。

それからはや一年。TBS系列で放送されているテレビ番組「SASUKE2019」のファイナルステージとなる、高さ25メートルの通称「鋼鉄の魔城」は、再び同じ場所に姿を現しました。その姿を、改めて目の当たりにするためです。

「SASUKE」とは

TBS系列で放送される特番。毎回様々な職業・経歴をもった100人のチャレンジャーが集められ、4つのステージに分かれたさまざまな障害物をアクションゲームのようにクリアし、完全制覇を目指す番組です。1997年に初めて放送され、2019年末で37回目の開催。障害物は筋肉だけでも、テクニックだけでも決してたやすく乗り越えられないハードな代物。それだけに単なるゲーム番組としてではなく、障害を乗り越え、またある人は脱落していく様の悲喜交々を映し出したドキュメントとしても、多くのファンの支持を得ています。(詳細は公式サイトなどをご覧ください)

そのファイナルステージは昨年に続き、横浜赤レンガ倉庫の広場に建てられた特設ステージから生放送と相成ったわけです。


昨年もそうでしたが、SASUKEという番組はステージが進む毎に徐々に挑戦者が脱落していき、一人もファイナル進出者がでないことだってあり得ます。たとえ横浜に生放送でステージを構えたとて、そうなればその場にいる全員がこの鉄骨をただ眺めるだけになる可能性もあるわけです。

昨年は一人ファイナルへ進出するメンバーが現れましたが、今年同じになるとは全く限らない。番組制作者の狂気ともいえるこの大勝負を見届けない訳にはいかない、その心が会場へと足を向かわせます。

鋼鉄の魔城、再び現る

31日16時半ごろ、みなとみらいから横浜赤レンガ倉庫へ向かいました。赤レンガ倉庫近くの歩道橋からふと見ると、今年もまた異様な鉄骨の姿が遠く目に入ってきました。

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近づいてみると…

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余りに無機質で、レンガ作りの建物とは全くマッチしない鉄骨の建物がそこにありました。「鋼鉄の魔城」と呼ばれるSASUKEのファイナルステージ、その姿です。


さらに近づくと、やはりこの威圧感。

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昨年の光景を目にしていたり、テレビで宣伝をみていた人も多かったのか、すでに最前列には何名かのファンとおぼしき方がその姿を見つめていました。赤レンガを訪れた観光客の方も、この異様な光景を珍しがって、各々写真を撮影したりしています。

あらたな「障害」

ところが、今年は去年とは違うものがありました。

風です。

海が目の前にあるので、ある程度の海風はあると予想はできますし、昨年もある程度風があったのですが、この日はまったく別物。動画にもすこし見えていますが、上空をただよう雲の流れ方が早い。そしてタワーの頂上にたなびいている旗がほとんど下に垂れることがないくらいの強風が吹いています。(昨年の様子はこちら

強さもさることながら、冷たさも。夕方なのに、風が顔に当たるとやや痛さを感じるほどでした。これがもし夜、しかも大晦日の深夜になったら、一体どんな寒さになるのか…想像して少し怖くなりました。

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徐々に夜が迫ってくるなか、目の前ではリハーサルも着々と進行していきます。テレビのお仕事を間近でみることができるのは、少し感動してしまいます。

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今年も会場にはビジョンが設置されていて、実際に放送されている番組の状況をその場でみることができます。

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日が落ちて一気に周りが暗くなります。今年も広場には露店がいくつかでていて、暖かい食べ物を提供してくださっていました。からあげとビールを買い、開始に備えます。

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夜になり、ライトアップがなされると、一年前目の前で味わったあの圧力、存在感が再び蘇りました。通りかかった人からは「やってみたい」「あれなら登れそう」「いや、あんな高さを人が登るなんて早々できるもんじゃない」といろいろな声が飛び交っていきます。

番組スタート

今年は放送が19時からのスタートとなりました。昨年はボクシングの世界戦が途中はさまったのですが、今年はSASUKEだけで放送が進んでいきます。それだけ、年末の名物として認識してもらいたいという気持ちがTBSさんにもあったのでしょうか。

番組進行は今年も安住紳一郎アナウンサーと、江藤愛アナウンサーが担当。寒空のなかでもジッと構えて場の空気をつくり、テンポ良く進行していくその様子も目の前で改めて拝見できました。これまた憧れるプロの仕事。そして、ふと鋼鉄の魔城の足下をみると、昨年は見ることができなかった実況席が、今年は鋼鉄の魔城の目の前におかれているようにみえます。もしファイナルに選手が残った場合は、この寒空の中で実況ということなのでしょう。

鋼鉄の魔城のゴール地点、25メートル上空には古谷有美アナウンサーの姿も見えます。中継がはいると、その画面上で非常に強い風に煽られていて、今日という日のコンディションの厳しさを伝えてくださっていました。

脱落していく挑戦者、見守る観客

番組本編は1st STAGEから大波乱の展開。1st STAGEの収録日に降った雨に選手たちが四苦八苦。そして常連組・有力と言われた選手でさえも、ちょっとしたズレ・掛け違いによってステージをクリアできない事態が発生していく、昨年とは全く違う、信じられない、信じたくない光景。

脱落していく選手の姿に、赤レンガの会場で見守っているファンの方からも絶望と驚きが混じったような嘆きや大きな悲鳴があがっていきます。やはりSASUKEという番組は甘くないのだぞ、ということが画面からヒシヒシと伝わってきました。

ある選手が脱落したとき、おそらくその方を応援していた方だとおもうのですが、隣にいた女性が「嘘、嘘だよそんなの…」と力なく声をあげていました。この赤レンガ倉庫にその姿が出てくることをいかに楽しみにしていたのか、表情こそ伺うことはできませんでしたが、その落胆した声に全てが表れていた気がします。

そんななかでもクリアしていく姿に、男女関係なくその場にいた全員、喜びと興奮に包まれていました。2nd STAGEでは安定したクリアが続いていき、2019年を終える、そのときが刻一刻と近づいていきます。



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ここからはネタバレを含みます。番組をまだ視聴しておらず、
結末を知りたくない方は、本放送をご覧になってから
読まれることをおすすめいたします。
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新世代が華開いた瞬間

番組開始から約3時間が経過し、3rd STAGEに残ったのは100名中僅かに8名。

今大会はSASUKEのさらにあらたな世代の選手が大活躍。山田勝己さん率いる「黒虎軍団」から出場した2名、山本さん・伊佐さんが初出場ながら3rd STAGE入り。しかし、彼らもまた3rd STAGEの餌食になってしまいます。

最も完全制覇に近いとされ、昨年末FINALへ進出した森本さんがまさかの脱落となったいま、あれだけの波乱が起きて、果たしてFINALに残ることができる猛者が現れるのか。

ふと上を見上げると、鋼鉄の魔城に掲げられた旗が、最初の時よりより強くなびいているようにみえます。来る者の行く手を阻むかのように。防寒をしていたものの、ずっと経っていた自分の脚もいよいよ寒さで感覚がなくなってきて、少し弱りかけていました。

番組スタートから4時間弱、山形県庁職員・多田さんが見事3rd STAGEをクリア。そしてドイツからの刺客、「象使い」のレネ・キャスリーさんが余裕をもってクリア。赤レンガ倉庫の会場はクリアした瞬間、一斉に盛り上がり、喜びがあふれました。我々が望んでいた「その時」はやってきたのです。



FINAL STAGE 横浜赤レンガ倉庫大晦日決戦、再び。

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うしろをふりかえってみると、去年同様多くの人影が。この瞬間を待ちわびた人達、新年をこの場所で迎えようとしている人達、いろんな思いをもった人だかりができていました。

そして、ここでファイナリストとなった二人に加えて、常連組の日置さんや漆原さん、パルクール指導員佐藤さん、森本さん、そしてレジェンド・山田勝己さんに長野誠さんらが登場。壇上にあがりさらに会場の空気を盛り上げていきます。

強風は一向に止む気配はありません。果たして最後の難関を越えることができるのか。会場の声援が一斉に大きくなりました。



そして本番。まずは多田さんの挑戦。

スタートからスパイダークライムは順調に進んだものの、サーモンラダーで大幅にブレーキ。段違いになってしまい、その後もなんとか立て直すのがやっと。無情にも時間は過ぎていきそのままタイムアップ。

続いて、レネさん。

やはりスタートは順調そのものだったものの、サーモンラダーで掛け違いから集中力を失ってしまったのか、そのまま時間を待たずコースアウトでリタイヤとなってしまいました。



鋼鉄の魔城はまたも冷徹に挑戦者をはねのけ、夢は来年へ持ち越しとなりました。ただ、チャレンジをした二人に対して咎める者は誰もなく、会場からも大きな拍手と、頑張った!の声が響いていました。


結ばれる「約束」、紡がれる「約束」。

すでに昨年、なぜSASUKEがこのような大博打に打って出たのか。ということは書いた通りなのですが、今年はそれとは別の面が垣間見えました。


なぜ、SASUKEは面白いだけでなく、20年以上もの長い間、続いているのでしょうか。

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ここに出てくる人達は、タレントさんなどは一部いてもそのほとんどがごく普通の、自分たちと一緒の立場の人達ばかりなのです。そんな人達がテレビ番組の力によってこれだけ輝いている、そういう単純な話なのでしょうか。

出場されている皆さんには普段の生活があって、その間をぬってこの番組のために練習をしているのです。自分の鍛錬だけではなく、会社や家族に理解を得なければ、そうそうやれることではありません。

クリアを目指すというその一生懸命さと、いろんな犠牲、そして彼らが守るべきものに対して結ぶ心意気、「約束」が、彼らを輝やかせる、自ら輝きを放つ要因なんだなということを実感します。

それに応えようとする番組制作者側の心意気や、努力があります。これは単なるテレビ番組というよりは、挑戦者と制作者、互いの信頼関係、「約束」こそが成せるものではないかな、という気がしています。

今回、新エリアがあったものの、それが雨のため公平性が保てず、採用を見送ることにした、と番組内で紹介され、挑戦者にもスタート位置などの変更が伝えられたシーンが放送されました。本来テレビ番組からすれば、このようなシーンは放送しなくてもよい場所とおもいきや、それを隠すことなく伝えたのです。

競技者達がどんな状況におかれているか、その後もどんな影響があるかを考え抜かなければ、このような場面を出すことはないでしょう。

制作者も制作者側で、今目の前にいる挑戦者だけでなく、テレビを見てこれから挑戦を志す人や、応援者となるべき人に対しての「約束」をきっちり守っている印象を受けます。

FINALを生放送でやるということも、より選手を輝かせたい、そしてこの番組が末永く続くことを考えての一つの決断・約束だとおもいますし、それらを決して裏切らないようにしよう、という気持ちを実感します。

そしてテレビの前の人だけでなく、赤レンガにいる目の前のお客様に対しても、素晴らしい年の瀬となるべくその約束は果たされた、そんな気がしています。

沢山の約束が結ばれ、それが果たされることが、これだけ長く続いている秘訣なのでは、という気がします。テレビ番組に限らず、おそらくこれはいろんな場面でも同じことが言えるでしょう。





二人のファイナリストは、戦い終えてこんなメッセージを残しています。

多田さんは番組終了後、その場に集まった観客の方へ近づき、感謝の意を伝えながら歩き回っていました。すぐ後ろには奥様の姿も。本当にこの人がFINALに残ってくださってよかった、そうおもいます。


2019年の終わりから2020年の始まりへ。終わったとおもいきや、また今年も選手達の戦いがはじまろうとしています。果たして次は、どんな風景をみることができるのか、いまから楽しみで仕方ありません。






<おまけ>

個人的に一番好きだったシーンは、1st STAGEでパルクール指導員佐藤さんが最速タイムでクリアした時に併走していた日置さんの「だから併走いらないって言っただろ!」のくだり。めちゃくちゃ笑ってしまったのとともに、彼らはよい仲間なんだなあって、ちょっとほっこりしました。


会場ではグッズも販売していました。(購入しました)

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マフラータオルには「完全制覇」の文字。もし横浜赤レンガで本当に完全制覇実現していたら、このタオルが並んでいたかとおもうと、ああすげえなあ、とおもいますよね。と同時に、誰もFINALに来なかったら、一体どうなっていたんだろうという不安もよぎったのでした。



そんなわけで、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


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