見出し画像

第20回Language&Robotics研究会聴講(2023年12月15日)

はじめに

今回は
大阪大学の堀井 隆斗先生による、ロボットと感情のお話

本noteは矢野の個人的な備忘録で、
事務局の公式議事録とかではありません

身体情報から創発した記号としての感情

概要(HPより)

  • 講演者:堀井 隆斗 先生 (大阪大学)

  • 発表タイトル:身体情報から創発した記号としての感情

  • 概要:感性工学やロボティクス,特に人-ロボットインタラクション(HRI)の領域では,人との感情コミュニケーションの実現を目的とした感情認識研究や感情表出研究が広く進められている.しかし,このようなシステムで対象として扱われている「感情」は,我々が日常生活の中で感じるそれと同じであろうか?ロボットが感情そのものを理解し,人との柔軟なコミュニケーションを実現するためには,感情の認識や表出のみならずそれらをつなぐ感情の生成過程を理解することが必要だと考える. そこで本発表では,ヒトの脳の情報処理基盤として注目されている予測的処理や身体に紐付いた経験や感覚としての内受容感覚に注目し,外界の知覚と身体内の資源(エネルギーなど)管理の結果として感情を解釈する構成主義的情動理論(theory of constructed emotion)[Barret 17]を,マルチモーダル情報の予測や統合を通じて知能を理解しようとする記号創発ロボティクスの観点から捉える試みについて紹介する.特にヒトの発達過程における感情の分化や構造化,身体反応に注目した概念空間の形成について議論したい.

以下のHP参照

12:18 - 12:25 オープニング

品川先生からLangage&Robotics研究会のいつもの説明があった。
本講演の動画はYOUTUBEにアップする予定
(注:すでにアップされました)

前回と同じ内容ですがと前置きがあり、
言語処理学会第30回年次大会(NLP2024)のWS4およびTS4の紹介があった

学術変革領域「クオリア構造学」の特別研究員募集のアナウンスがあった

12:25 - 13:24講演(59分)

1.自己紹介

大阪大学 浅田稔先生の元で学位取得
電通大特任研究員・特任助教
大阪大学助教→講師
研究分野:認知発達ロボティクス
・感情の計算モデルを立てる
・柔らかいセンサを用いてマルチモーダル情報統合を行う
新学術領域「クオリア情報学」に参画し、「コミュニケーションから感情が生まれるか?」を探るため、「内臓を持つロボット」などを試作している

本講演の目標

ランロボ研究会のみなさまに構成論的情動理論を知っていただくこと

研究の興味

アニメ「ジェイデッカー」に登場するような
心を持ったロボットは創れるのか?

あなたの「月」は、わたしの「月」と同じなのか?
(逆転クオリア)
私の地元では「冷しゃぶ」を「ぶたぶたぶー」と呼称していたが、世間では通じない。
このような例を通して「意識・自我・感情」特に「感情」を理解したい
目標:社会的相互作用を通じた感情の理解
感情を記号化した「絵」の提示は、感情の理解とは異なる
嫉妬したロボットに首を絞められ、死んでロボットに首を絞めたことを後悔させることができたら本望

(感想:ソーシャルゲーム「Heaven Burns RED」では、人間くさいAI「KETSU」や「虎鉄丸」が登場して泣けるぞ!)

2.感情とは何か?

感情は捉えどころがない
人間は他人の感情を推定できる。
Ekman:感情は世界共通
ある写真の「一部」と「全体」では、感情の捉え方が異なる
(感想:まさにこれ!

生理学・心理学・神経科学における情動・感情
・感情の末梢起源説
心臓の鼓動が上がったことにより、脳が「驚き」を感じる
・感情の中枢起源説
脳が「驚き」を感じたことにより、心臓の鼓動が上がる
・感情の二要因説
上記の両方が要因である
・ソマティック・マーカー説
情動:身体反応や身体活動
感情:情動を脳が認知したもの
脳の「驚き」と心臓の鼓動が上がることの双方が「驚きを知覚させる」
(感想:感情を声に出すことや泣くことにより、より感情が増幅されることはよくあるな)

以上をふまえると、感情は身体から切り離せないことがわかる
・感情は「自由エネルギー原理」にもとづき、身体内部状態を予測することにより起こるのではないか?

堀井隆斗「自由エネルギー原理による感情の表現学習」人工知能Vol38.No.6
pp.818-825

・身体の3つの感覚
ー外受容感覚:視覚・聴覚などの外界の情報を得る感覚
ー固有感覚 :関節角度や筋張力など身体に関わる感覚
内受容感覚:内臓系やホルモン、免疫系など身体内部の感覚(人工物に欠けている)

アレキシサイミア(失感情症)の人は、感情が消失するのではなく、固定や識別が困難になる

構成主義的情動理論

1.情動はさまざまなインスタンスとカテゴリによって構成される
2.情動概念は身体予算の管理として予測処理の枠組みで構造化される
(時間の関係で詳細な説明は省略)
ペットボトルの例で、概念とインスタンスの関連を説明した
この関係は、情動に適用することができる
ペットボトル↔怒りの感情概念
ペットボトルのインスタンス↔さまざまな怒り

基本情動という虚像

・カテゴリ説:基本感情が組み込まれており、複雑な感情はこの組み合わせ
・次元説:多元的特徴空間の組み合わせで感情表出

人工システムで感情認識・表出を行う枠組み

3.記号創発システム・ロボティクスの観点から「感情」を捉え直す

関係性の中で感情が生まれる
刺激→(*)→感情→(*)→表出
この流れの(*)の部分に何があるのかを明らかにしたい

感情はpositive(横軸)とArousal(縦軸)座標に配置できる

記号創発ロボティクスモデルを構成主義的情動理論へ拡張する

「記号」と「感情」の類似性
本来は連続的な信号が社会的な拘束によって概念として浮かび上がる

・国によって独特の「感情表現言語」が存在する

4.これまでに取り組んで来た感情表現

1.感情の記号創発
記号創発ロボティクスのモデルに「感情」を追加
親子間の感情形成モデルの構築
予測符号化モデルとしてRBM(Restricted Boltzmann Machine)を採用し、感情を低次元化したあと再構築して情動を得る

触覚C繊維(猿の毛繕いで快感)の知覚に注目
乳児の知覚能力の発達をモデル化
・触覚優位性の有無と知覚発達の有無の4条件で知覚発達を比較
知覚発達により感情カテゴリが分化するが、触覚刺激がないと分化がうまくいかなかった
先天的ニューロパチー患者は自身が痛みを感じないので痛みを共感出来ない

議論と神経科学の関係性

実験結果より
・触覚によるモダリティを超えた「感覚」共有の妥当性を示唆
・実験結果はASD児でのs情動障害の一要因である可能性を示唆

今後の研究方針
・認知モデルに「言語」を追加して、人間と学習結果を比較
・親子の双方向で感覚共有の進化過程を実験
・人の身体をモデルにした認知モデル構築

・摂食事の感情から他の身体経験が解釈可能な事実から、身体情報の本質を解明する
・自己保存・自律性・主観性の観点から感情モデルを構築する

13:24 - 13:35 Q&A(11分)

質問はSlidoで受付.
今回は参加者が100名を切ったためか質問は4問のみ

Q1:摂食実験の内受容感覚はどのようなものを計測していますか
A1:心電計や呼吸系です
Q2:モデル上、感覚情報の抽象化と感情はどのように分離しているのですか
A2:クラスタリングしているだけです。行動は入っていないです。自分の認識も入っていません。システム上では、きれいに分離はできていません
Q3:情動反応の知覚のクラスタリングの創発の動機づけ、あるいは牽引する別の何かについてアイデアやイメージはありますか
A3:エージェントの行動について表情を出すアイデアを持っています
Q4:対処学習での表出が感情かどうかの判断はどのようにするのでしょうか
A4:画像と身体反応の近さ(感情)+言語、複数のセンサ情報学習に進展していきたい

13:35 クロージング

時間になったので、クロージングとなった。

おわりに

谷口忠大先生の著作「記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門」を読了していたので今回の話題もある程度理解することができました。

本講演は、将来「意識とは何か」につながる重傷な研究領域だと感じました。たいへん勉強になりました。

本noteは私の備忘録ですが、自由に読んでください サポートは、興味を持ったnote投稿の購読に使用させていただきます