リモートワークで雑談を生むために必要な「ゆるい」強制力
あっという間に大晦日。それもあと数時間で2024年だ。だがギリギリ間に合った。
年の瀬なので、今年始めたうちの会社(co-meeting)の取り組みでうまくいった取り組みの紹介で締めくくりたいと思う。ここ数年ずっと解決できずにいた、リモートワーク下でのある種類の雑談を生み出す手段の話。
ツールだけでは実現できない類の雑談
2年前(2020年)にDiscordを利用して雑談がうまいことできれば、リモートワークはもっと楽しくなるよって記事を書いた。
この時はツール(Discord)に頼るがままで、とりあえず人が集まる空間を作り、雑談が生まれやすかったり、適度な距離感がネット上に生まれることを期待した。
現在はツールがDiscordからUndeskに変わってはいるが、メンバー全員がログインすることは定着したし、社内の定例や打ち合わせにも当たり前のように使われているのだが、雑談に関しては当時期待していたほどには活性化しなかった。
仕事には利用しているので、仕事の話の延長で雑談に発展することはあるが、自分が期待していた「同じ場所にいるからこそ生まれる雑談」は、あまり生まれていない。
取り組み自体は失敗したわけではないが、雑談を「うまいこと」できている実感がなかったわけだ。
雑談が生まれない理由は「ミュート」
そんな話を定例でしてみたところ、どうも理由はマイクをミュートにしていることにあることがわかった。
Undeskの利用が定着したことで、みんな出勤中は目に見えるどこかには居てくれるようになった。ただ、自分の生活音や家族の声がマイクに乗ってしまうことを嫌い、マイクをミュートにした状態で利用している人が多かった。
自分の生活音が入ることも、他人の生活音を聞くことも気にならなかったり、雑談をしやすくするためにミュートを解除してくれている人もいたが、そうすると生活音を聞くのか苦手な人が逃げてしまう。自分もそうだ。
仕事の相談をする時は、相手に近づいて声をかけ、お互いにミュートを解除してから会話を始める。いつからかそんな運用が定着していた。
ミュートの解除には多少手間取ることもあり、タイムラグがある。話しかける側もそれがわかっているから、その手間に気を使って用事がある時だけ声をかけるようになる。
確かに、雑談が自然には生まれなそうな環境だ。
期待していた雑談のかたち
うちの会社は、2011年の創業当初からフルリモートで働いている。
これは、創業当初の主要メンバーの居住地やワークスタイルの関係で必要に迫られていたこと、また、当時の主力サービスであった「co-meeting」がリモートワークのためのコミュニケーションツールだったことによる。
仕事上のコミュニケーションに問題がなければ、時間を有効に使え、コストも抑えられ、家族と夕ごはんを一緒に食べられる。お金もなく家族に負担がかかる創業初期に、リモートで働くことは良いことしかなかった。
とは言え、みんな東京近郊に住んでいたので、毎週数回はメンバーの誰かとは顔を合わせてた。たまに会うこの時にする雑談が自分は好きで、リモートではしない密度の濃い雑談が多かった。
主に1対1のときに生まれるこの雑談は、プライベートの話はもちろん、仕事の話も面白い。
お互いが関係する仕事を推し進めるための話ではなく、それぞれが担当し、それぞれに完結した仕事をする中で関わる人や会社、組織、テクノロジーの話など、効率や相手の都合を考えるとリモートでは省きがちな話を、たまに顔を合わせたときはする。それも結構長々と。
こうした雑談は単純に楽しいだけでなく、お互いの理解を深めたり、隠れた問題にも気づいたりもする。関係性は少し異なるが、自然に発生する1on1のようなものかもしれない。
この類の雑談を、リモートでも生み出したい。そして楽しみたい。
と、ずっと考えていた。
時間を合わせて2人で仕事をする「雑談部屋」
そんな話を社内の定例で話したことで生まれたアイデアが「雑談部屋」。ルールは下記の通り。
毎週金曜日の13時から14時に、ランダムに振り分けた2名で開催
バーチャルオフィス(Undesk)の同じ部屋でマイクをミュートにせずに仕事する
雑談をするかどうかは自由(普通に仕事をする時間扱い)
このルールに落ち着く前に、全員が同じ場所に集まってミュートを解除する時間を作ってみたりもしたが、人数が多いと会話があまり生まれず、話す人にも偏りが生まれてしまった。そこで、思い切って人数を原則2人に絞ることにした。オフィスでする雑談もせいぜい2人から3人くらいだろうと言うことで。
で、2週間くらい実験的に試したあとに集めたフィードバックが以下。週次定例のメモをほぼ原文のまま転載しておく。
話をすることを強制しているわけではないため、雑談量は様々だが、まったく会話をしない人はいなかった。(2023年)7月に実験を開始したあと、現在も継続している取り組みで、現時点ではネガティブな反応もこれといって存在しない。
また、個人的にも当初期待してたものに近い質の雑談ができている実感がある。人数が増えてきて1on1ができなくなった人と話す機会にもなったりして、今のところはとても満足している。
雑談を生むゆるい強制力
ある程度うまく回っているから言えることだが、雑談を生んでいるポイントは「ゆるい強制力」にあると思う。雑談部屋で強制しているのは下記の3点だけ。
ランダムな人の組み合わせ
場所(バーチャルだけど2人だけになる)
ミュート解除
雑談を目的にした取り組みで、「雑談」が名称に含まれているため、雑談をしなければいけない気になってしまうかもしれないが、ルール上の制約はない。ただ同じ場所で仕事をするだけ。
それがオフィスで顔を合わせた状況に近い。
オフィスにも雑談しに来るわけではなく、自分の仕事をするためにみんな来る。ただ、そこでメンバーとめずらしく居合わせると、「なんか話すか」とか「せっかくいるならあの話をするか」とか考えるもので、それがちょっとした強制力になる。
この「めずらしく」は、フルリモートが前提のうちならではの特性だとは思うけど、雑談部屋の「ランダムな人の組み合わせに」がこの「めずらしく」を仮想的に生み出してくれた。
思えば、自分が期待していた種類の雑談も、毎日顔を合わせているような状況ではしない(そんなに長々と話すこともない)もので、むしろ都合が良い。偶然2人になるからこそ、ちょっと久しぶりだからこそ話すこともあるわけだ。
これも雑談部屋を始めてから気付いたことだが、偶然居合わせることは「強制」だ。偶然起こることを避けることはできない。この強制力を意図的に作り出すことが、どんな相手でも少しは話す場に繋がったのだと思う。
相手によって雑談量は異なるかも知れないが、偶然居合わせた同僚と、挨拶も世間話も何もしないってことは、そうないものだ。
まとめ
この類の話は、ある程度オフィスに出社する会社であれば、問題になることも考えることもないだろう。
だけど、自分たちのフルリモートは「選択肢」ではなく「前提」で、「前提」にしたからこそ、今の社員は全国に散っている。各地に拠点を作るにはそれぞれが離れすぎているし、その気もない。もちろん、リモートワークの方が優れているとか言うつもりもない。ただの選択。
ただ、選択したからこそ考られることはおそらくあって、今回のようにまあまあうまくいけば、その影響範囲は拠点内ではなく全国になる。働く場所が東京と熊本でも、三重と大阪でも雑談できる。なかなか素敵なことだ。
まあ、いつまで機能するのか、人数が増えたらどうなるのか、今後のことはわからないが、どんな施策も一定期間でもうまくいくとちょっとした成功体験になるし、思い出にもなったりする。いま、うまくいっている。それは良いことだ。
今年もまあまあいい年だった。