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vol.30 自律のススメ

はじめに

従来「日本の労働者は会社と運命共同体であり、会社に対する帰属意識も忠誠心も世界と比べても低くはない」とされてきました。

しかしながらそのような考えはすでに過去の遺産のようで、先日公表されたギャラップ社のリポートによれば、日本の労働者の持つ会社に対する「エンゲージ」(社員が勤め先に抱いている貢献意識や愛着心または帰属意識のこと) は、世界平均に比して、著しく低い値を示しています。

一方で、より高いエンゲージを持てそうな会社へ転職するかというと、2023年3月に行われたIndeedの調査によれば、転職経験率 (実際に転職した人の割合) は日本の59.7%に対し、イギリスは92.7%、アメリカは90.1%、ドイツは84.2%、韓国は75.8%となっており、こちらの比率も低い値のままとなっています。

つまり「エンゲージは低い一方でその場には留まる」という一見矛盾するような状況になっている訳ですが、実際先日の日経にも以下のような記事がありました。

「いずれ転職できたら」など漠然と希望している人が多いのも理由だが、自分に合う仕事が分からないといった「転職迷子」の存在も指摘される。

日本経済新聞

みなさんの職場でも「自分が何をしたいか分からない」といったコメントを聞くことも多いのではないでしょうか? この背景には、自分で考え、判断することをあまりせず、他律的に生きる危険性が潜んでいると考えられます。

そこで今回は「自律のススメ」と題し、自律的に生きることの重要性に触れていきたいと思います。


1 他律的に生きる

他律的という言葉の定義は以下のとおりです。

自らの意志によらず、他からの命令、強制によって行動すること。

デジタル大辞泉

他律的に生きるとは、「自分自身の内面的な価値観や欲求よりも、外部からの期待や規範、他人の意見に従って行動すること」を意味します。具体的な例としては、親や社会が望むキャリアパスを選択する、人気があるからという理由だけで趣味やファッションを選ぶ、集団の意見に無条件で同調するなどが挙げられます。

日本の学校教育では、従来から一斉授業が主流であり、生徒一人ひとりの個性や自主性よりも、集団での調和やルールの遵守が強調されてきました。このような環境は他律的な行動パターンを強化しがちです。

他律的に生きることのメリットとしては、社会的な期待に応えることで承認や安定を得やすい点があります。しかし、デメリットとしては、自分自身の内なる声や本当の欲求を見失い、自己実現の機会を逃すことになり、結果「自分が何をしたいか分からない」状態へとつながります。

私は人生の大半を他律的に生きており、自分の頭で考えることを極力避けてきたと認識しています。与えられたものに対し取り組めばよいので、ある意味「楽」ではあるのですが、つい他人との比較他人からの評価を気にしてしまい、段々と息苦しさを感じることが増えていきます。

2 自律的に生きる

自律的という言葉の定義は以下のとおりです。

他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること。

デジタル大辞泉

自律的に生きるとは、自分自身の内面的な価値観や欲求に基づいて行動し、外部の影響や他人の期待に左右されずに、自分の人生を主体的にコントロールすることを意味します。具体的な例としては、自分にとって意味のあるキャリアを追求する、自分の興味や価値観に基づいて趣味や活動を選ぶ、困難な状況でも自分の信念を貫くなどが挙げられます。

自律的に生きることのメリットは多岐にわたります。まず、自分自身の価値観や目標に基づいて行動することで、人生に対する満足感や幸福感が高まります。また、自己決定能力が向上することで、困難や挑戦に直面した際にも柔軟かつ効果的に対応できるようになります。さらに、自分の選択と行動に責任を持つことで、自尊心や自信が育まれ、自己実現への道が開かれます。一方で、自律的に生きることのデメリットとしては、自分の選択による失敗や挫折を直接的に経験するリスクがあることが挙げられます。また、社会的な期待や規範から逸脱する選択をすることで、孤立や批判に直面する可能性もあります。

私自身、まさに今、自律的に生きることにチャレンジをしている最中です。当然辛いことを経験することもありますが、「失敗から何を学ぶかが重要」と自分に言い聞かせ、日々「自分が心からやりたいことに取り組んでいるか」自問し、自己実現への道までの距離を意識するようにしています。

3 本当に重要なものは何か?

我々は日々の忙しさに追われ、他人から指示された目先の作業に集中しがちです。しかしそれを言い訳に、自分自身で考え、判断することをおろそかにしていないでしょうか?

真に価値のある人生を送るためには、自己成長、健康、人間関係の深化、趣味や情熱の追求など、緊急性は低いものの、自分の魂を真に揺さぶるような活動に時間とエネルギーを投資することが不可欠です。

自分でやること、人にやってもらうのではない。そこにはよろこびのいちばん深い意味がある。

アラン「幸福論」

前職において成功している人は自分が何をやりたいか考え、それを語れる人が多かったと思います。またフリーランスとなりノマド先で色々な人とお会いしましたが、出会う人の多くはなぜ今の生活スタイルなのかを自らの言葉で生き生きと話してくれます。

ではどうすれば自律的に生きることができるのでしょうか?

4 他律から自律へ

他律から自律に変化するためには、以下のステップを意識することが有効かと考えます。

(STEP1)
自分自身の内面に目を向け、自分にとって本当に大切なことは何か、自分の人生で達成したい目標は何かを自問自答する。

年初や年度はじめ、あるいは会社によってはゴールセットをするところもありますが、しっかり言語化し、メモ帳アプリや紙のノートに書き記しておくべきものかと思います。

(STEP2)
小さな決定から自分で選択を行い、その結果に対して責任を持つ練習を積み重ねる。

目の前の作業に流されがちにならないよう、やることリストに加えてやらないことリストを作成し、月目標や週目標といった細かな目標を設定の上、自分で判断することを繰り返していきます。選択した内容やその時感じたことを記録していくとよいかと思います。

(STEP3)
自己反省やフィードバックを通じて、自己認識を高め、自己決定能力を向上させる。

日々忘れないように振り返りを日記のような形で残していきましょう。

上記の他、自律的な生き方を実践している人々との交流を深めることで、新たな視点を得たり、刺激を受けたりすることも有効だと思います。

まとめ

日本の労働者のエンゲージの低さを他律的な生き方と関連付け、「自律のススメ」をまとめてみましたがいかがでしたでしょうか?

ニーチェは「ニヒリズム」を超えるための哲学を提唱し、末人」の受動的な生き方を批判しました。彼は、自己の価値を創造し、困難を乗り越える「超人」を理想としました。この超人は、自律的に生き自己実現を目指す存在であり、ニーチェの思想は、個人が内面からの価値観に基づき、積極的に人生をデザインすることの重要性を強調しています。

自律的に生きることは、簡単な道のりではありません。しかし、その過程で得られる自信、満足感、そして真の幸福は、どんなに苦労しても得る価値のあるものです。まずは自分が心からワクワクするものは何か、これを考え書き留めることからはじめ、自分の価値観に基づいた意志決定を行うよう心がけていくとよいのかと思います。

おわりに

この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。


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